破滅する悪役女帝(推し)の婚約者に転生しました。~闇堕ちフラグをへし折るため、生産魔法を極めて平穏に生きる!~

鈴木竜一

文字の大きさ
上 下
44 / 108

第44話 夜のひと幕

しおりを挟む
 湖でのテスト運航を何度か試し、耐久力など安全性に問題がないという結論に至る。
 早速この話を父上に持っていって手詰まり状態となっているバーメイとの交易が再開できると伝えた。

「ふむ……」

 書斎にあるゆったりとした大きめの椅子に腰を下ろした父上は、俺とロミーナからの報告を受けてしばし考え込んだ後、

「分かった。では明日からそのように手配しよう」

 そう決断を下す。

「ありがとうございます、父上」
「礼を言うのはこちらの方だ。まさか本当にやってのけるとはな」
「これも生産魔法のおかげです」

 俺がそう言うと、父上は首を横へ振った。

「それだけではない。この状況をなんとかしようと懸命に動いてくれたおまえの頑張りがあったからこそだ。私はおまえを誇りに思うよ」
「父上……」

 なんか……変わったな。
 昔は地位とか名誉とかばかり必死に追いかけていた。弱小極貧貴族から脱却したいという考えが先行しており、領民のことを考えてなどいない感じだったのに。ロミーナがうちに来てから、「公爵家とのつながりができた」って状況になり、心に余裕ができたからなのかもしれないな。

 いずれにせよ、これもいい方向に進んでいる。
 原作【ブレイブ・クエスト】では評判悪かったからなぁ。たぶん、今回の土砂崩れにおける交易路封鎖が解決できず、お先真っ暗って状況になったのも大きかったみたいだ。

 その懸念が消え去り、明日からはこれまで通りバーメイの商人たちがやってくる。
 おまけに、彼らはガナス村を通ることになるから、ライナンの商会をはじめ、村のさまざまなお店に人が集まることにもなる。これって、経済的な効果も期待できるんじゃないか?

 まあ、さすがにそこまでうまくことが運ぶとは思っていないけど、ちょっとくらいは期待を持っていいかな。

 父上の書斎をあとにすると、俺とロミーナは廊下でハイタッチを交わす。

「よかったね、アズベル」
「ああ、とりあえずホッとしているよ。……でも、本当に大変なのはここからだ」

 テストではうまくいっても、本番で失敗をしては意味がない。
 明日の初運航はこのパルザン地方の未来を占う大事な一日になるだろう。

「うぅ……緊張してきたな」

 今になって臆病風に吹かれ始めた――と、その時、右手が急に温かくなる。ロミーナが手を握ってくれたのだ。

「ロ、ロミーナ!?」
「大丈夫だよ、アズベルなら」

 そう言って、彼女はニコリと微笑んでくれた。
 氷魔法使いとは思えないくらい温かなロミーナの手……なんだか不安まで一緒に解かされていく感覚だ。

「ありがとう、ロミーナ。おかげで勇気が出たよ」
「ならよかったわ」

 俺たちは笑い合って、自室へと歩いていく。
 明日……頑張らないとな。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

聖樹の村で幸せなスローライフを! ~処刑宣告された少年は辺境の地で村長になる~ 

鈴木竜一
ファンタジー
 幼い頃に両親を亡くし、貧しいながらも懸命に生きていた少年ルディ。だが、ある日彼は育ての親の神父やシスターたちを殺害したという無実の罪を着せられ、処刑宣告を受けてしまう。絶望する中、教会を支援してくれていた貴族の手助けを得ることでなんとか牢獄から脱出することができた。無実が証明されるまで隠れているよう、その貴族は住まいも用意してくれたのだが――実はそれ自体が事件の黒幕である貴族の仕組んだ罠であり、逃亡中に彼が雇った者たちによってルディは無実の罪を着せられたまま殺されそうになる。かろうじて生き延びたルディが行き着いたのは小さな農村。そこで、死ぬ間際に神父から渡された「ある物」の存在を思い出し、取りだしてみると、それは小さな種だった。何の変哲もない種だが……実は強大な魔力を秘めた聖樹の種であった。ひょんなことからその聖樹の「育成者」に選ばれたことで、ルディの人生は大きく変わり始めていく。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...