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第35話 心配ごと

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 パウリーネさんやメイドたちによるカルロの大改造計画は急ピッチで進められた。
 俺もロミーナと一緒にその変貌ぶりを見守ろうとしたのだが、マドリガル騎士団長に「少しお話があります」と言われ、廊下へと出る。
 騎士団長は周囲を見回すと、その大きな体には見合わない小さな声で話し始めた。

「ヘレナ様にはもうお会いになられましたかな?」
「っ!?」

 まさかここでヘレナ様の名前が出るとは微塵も想定していなかったので思わず声をあげそうになるが、すぐにマドリガル騎士団長が「しっ」と囁き、俺も慌てて口を閉じる。
 深呼吸を挟んでから、俺は昨夜の出来事を話した。

「そうですか……そのようなことが……」
「なんだか心配で……」

 ペンバートン家の内情について、俺は何も知らない。
 マドリガル騎士団長ならば少なくとも俺より詳しい情報を持っているだろうと尋ねてみたのだが、やはり詳しい状況は分からないという答えが返ってきた。
 しかし、俺のこうした言動は彼にある影響を与えていたようだ。

「どうやら、私はあなたを誤解していたようです」
「誤解?」
「失礼を承知で申し上げますと、ウィドマーク家がロミーナ様を受け入れたのは公爵家とのつながりを持つことが最優先だと思っていたので」

 ズバッと言い切るマドリガル騎士団長。
 でも、その言葉に嘘はない。
 俺は違うけど、両親は間違いなく政略結婚という形でロミーナを招き入れた。そうでなくちゃ、息子の俺が当日に婚約を知るなんて事態にはなっていないし。

「ですが、ロミーナ様を心配するあなたの表情に嘘はありませんでした。あなたは心からロミーナ様のことを想っておられるのですね」
「それはもちろんですよ」

 俺は公爵家の立場に惹かれてロミーナと婚約を結んだわけじゃない。そりゃあ、スタートは原作での推しキャラって印象が強かったけど、今はまるで違う。ロミーナのためになんとかしたいって思いが強かった。

「ヘレナ様の件に関してはアドバイスできませんが、こちらでも何か情報が入ったら伝えますので」
「ありがとうございます。でも、どうしてそんなに気にかけてくださるのですか?」
「こちらはこちらでいろいろありましたね。ただ、これだけはハッキリと言えます。――私はあなたとロミーナ様の味方です」

 なんと……こんなに頼もしい味方がいれてくれるなんて!
 俺としても今後の活動がやりやすくなったよ。

 お互いの思いを伝えあったところで、部屋へと戻る――と、すでに女性陣の活躍によって授与式が始まる前にカルロの準備は万全に整っていた。

「おぉ、実に精悍だ。見違えたよ」

 マドリガル騎士団長は華麗な変身を遂げたカルロに拍手を送る。
 ボサボサだった髪は切り揃えられ、着用する服もよく似合っていた。貴族の息子だと紹介されても分からないだろうな。

「ほ、本当にいいのでしょうか……」
「問題ないさ。なぁ、ロミーナ」
「えぇ。胸を張って授与式へ出ましょう」
「アズベル様……ロミーナ様……」

 ついにカルロは泣きだしてしまった。
 やれやれ、涙もろい主人公だなぁ。
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