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第22話 事件の予感
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舞踏会のはじまりは、まずふたりの国王陛下の挨拶からだった。
オルメドの国王もファルザンの国王も形式ばった無難なスピーチ……まあでも、それはしょうがないかな。下手なことを口にして国同士の仲が険悪になるなんて事態も十分に考慮できるわけだし。その辺はお互いに理解しているはず。
ダンスホールには楽器の生演奏が流れ、いよいよダンスが始まる。
練習の成果を見せる時が来たのだ。
「緊張しないで、アズベル」
「それは無茶な相談だな……」
さっきから顔が引きつってばかりで頬の筋肉が痛くなってきた。それくらい、この場の空気は俺に物言わぬプレッシャーを押しつけてくる。
会場の雰囲気だけではない。
「あそこにいるのは誰だ?」
「ウィドマーク家の嫡男だよ」
「何っ? 辺境領主のウィドマーク家がなぜこの舞踏会に?」
「ほら、ペンバートン家の三女と婚約したって話があったでしょう?」
「さすがに公爵家の人間をこの場に呼ばないわけにはいかないからなぁ」
「だが所詮は田舎者だ。恥をかく前に適当な理由をつけて帰ればいいものを」
漏れ聞こえてくる周囲のヒソヒソ話。
やはり、誰もが悪く言っているな。
仕方がない。
何せ、こういった舞台に立つのは今日が初めてなのだから。
でも……このままではダメだ。
せっかくロミーナに恥をかかせないようパウリーネさんに特訓してもらったというのに、肝心の本番でこの有様では話にならない。
「ふぅ……」
心を落ち着かせるため、深呼吸を挟む。
大丈夫。
いつものようにやればいい。
パウリーネさんも最後の方はいい動きになってきていると褒めてくれたじゃないか。
そう思うと、不思議と周囲の雑音が消えた。
目に見えるのはパートナーであるロミーナで、聞こえるのは会場で演奏される曲のみ。
余計なことは考えず、今はロミーナとの踊りに集中しなくては。
気がつくと、俺は彼女の手を取って練習通りのステップを踏んでいた。慌てず急がず普段通りの精神状態で挑めるようになっていた。
すると、周りの声も徐々に変わっていく。
「ほぉ、やるじゃないか」
「ダンスなどろくにできないだろうと踏んでいたが……」
「なかなかのものだ」
最初の演奏が終わる頃になると俺たちを悪く言う声は完全に消えていった。
「やったわね、アズベル」
「ああ。これもロミーナやパウリーネさんのおかげだよ。そうだ。何か飲み物でも取ってくるよ」
練習通りに踊れた嬉しさと照れ臭さから逃れるように、俺はその場をあとにして飲み物を探しにいく。
「えっと……この辺かな?」
しばらく歩いていると、ダンスホールの入口付近に差しかかり、
「放してくれ!」
少年の叫び声が聞こえた。
「なんだ?」
妙にその声が気になった俺は、一度ダンスホールから出て廊下を見回す――と、俺とそれほど年齢の変わらない赤い髪の少年が兵士たちに捕らえられていた。
「あの子は……まさか!」
俺はその子に見覚えがあった。
それはそうだろう。
何せ彼はこの世界――【ブレイブ・クエスト】を語る上で外すことができない超重要人物なのだろうか。
オルメドの国王もファルザンの国王も形式ばった無難なスピーチ……まあでも、それはしょうがないかな。下手なことを口にして国同士の仲が険悪になるなんて事態も十分に考慮できるわけだし。その辺はお互いに理解しているはず。
ダンスホールには楽器の生演奏が流れ、いよいよダンスが始まる。
練習の成果を見せる時が来たのだ。
「緊張しないで、アズベル」
「それは無茶な相談だな……」
さっきから顔が引きつってばかりで頬の筋肉が痛くなってきた。それくらい、この場の空気は俺に物言わぬプレッシャーを押しつけてくる。
会場の雰囲気だけではない。
「あそこにいるのは誰だ?」
「ウィドマーク家の嫡男だよ」
「何っ? 辺境領主のウィドマーク家がなぜこの舞踏会に?」
「ほら、ペンバートン家の三女と婚約したって話があったでしょう?」
「さすがに公爵家の人間をこの場に呼ばないわけにはいかないからなぁ」
「だが所詮は田舎者だ。恥をかく前に適当な理由をつけて帰ればいいものを」
漏れ聞こえてくる周囲のヒソヒソ話。
やはり、誰もが悪く言っているな。
仕方がない。
何せ、こういった舞台に立つのは今日が初めてなのだから。
でも……このままではダメだ。
せっかくロミーナに恥をかかせないようパウリーネさんに特訓してもらったというのに、肝心の本番でこの有様では話にならない。
「ふぅ……」
心を落ち着かせるため、深呼吸を挟む。
大丈夫。
いつものようにやればいい。
パウリーネさんも最後の方はいい動きになってきていると褒めてくれたじゃないか。
そう思うと、不思議と周囲の雑音が消えた。
目に見えるのはパートナーであるロミーナで、聞こえるのは会場で演奏される曲のみ。
余計なことは考えず、今はロミーナとの踊りに集中しなくては。
気がつくと、俺は彼女の手を取って練習通りのステップを踏んでいた。慌てず急がず普段通りの精神状態で挑めるようになっていた。
すると、周りの声も徐々に変わっていく。
「ほぉ、やるじゃないか」
「ダンスなどろくにできないだろうと踏んでいたが……」
「なかなかのものだ」
最初の演奏が終わる頃になると俺たちを悪く言う声は完全に消えていった。
「やったわね、アズベル」
「ああ。これもロミーナやパウリーネさんのおかげだよ。そうだ。何か飲み物でも取ってくるよ」
練習通りに踊れた嬉しさと照れ臭さから逃れるように、俺はその場をあとにして飲み物を探しにいく。
「えっと……この辺かな?」
しばらく歩いていると、ダンスホールの入口付近に差しかかり、
「放してくれ!」
少年の叫び声が聞こえた。
「なんだ?」
妙にその声が気になった俺は、一度ダンスホールから出て廊下を見回す――と、俺とそれほど年齢の変わらない赤い髪の少年が兵士たちに捕らえられていた。
「あの子は……まさか!」
俺はその子に見覚えがあった。
それはそうだろう。
何せ彼はこの世界――【ブレイブ・クエスト】を語る上で外すことができない超重要人物なのだろうか。
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