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第9話 家族会議
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突如として襲ってきたエンペラー・スパイダーを撃退し、領地崩壊という最悪の事態を免れることはできた――のだが、一連の流れを知ったロミーナからは「ひとりで危ないマネはしないでよ」とお説教をいただく。
もちろん、父上からもこってり絞られたのだが、それよりも関心をもたれたのは俺がどうやってエンペラー・スパイダーを倒したかという手段であった。
俺は生産魔法で作り出した魔銃の存在を父上に明かす。
あの時は素材がなかったので石を代用したけど、炎や水といった素材で弾を作れば属性魔法にも負けない強力な攻撃ができると熱弁を振るう。
「むぅ……」
父上の反応は想定していたよりもずっとドライだった。
「これで領地運営が捗るぞぉ! ひゃっほい!」くらいのテンションで喜ぶのかと思ったんだけどな。
その父上は少し考えるように俯く。
しばらくしてからようやく口を開いた。
「アズベルよ。領地外でその力を使うのは少し抑えておるのだ。いいな?」
「えっ? なぜですか?」
「物作りに特化したおまえの生産魔法が悪いわけではない――が、そのような便利な魔法があると知れたら、悪用を企む者も出てくる」
「あっ……」
それは盲点だったな。
「おまえの性格を考えれば、誰かの口車に乗って悪事に加担するようなマネはしないだろうとは思うが……こちらの意思など関係なく、魔法を使わざるを得ない状況に追い込まれる可能性もある。人質を取られるとか、な」
「な、なるほど……」
「本当に心から信頼できる相手のみに披露するよう心掛けておくのだ」
父上の着眼点は俺の中になかったものだ。
きっと、過去に似たようなケースを見てきたのだろう。それにしても、公爵家令嬢との婚約が決まった直後の父上とはまるで別人のような立ち振る舞い……ちょっと気になるな。
「なんだか雰囲気が変わりましたね、父上」
それとなく尋ねてみると、父上は気恥ずかしそうに笑いながら答える。
「おまえとロミーナを見ていたら、これまでの自分の言動がバカらしく思えてきてな。フェリスも同じ気持ちだと言っていたよ」
そう語る父上の表情は穏やかなものだった。
あっ、ちなみにフェリスというのは俺の母親の名前ね。
当初はロミーナ様と呼んでいたのに、本人からの希望があったとはいえ今では呼び捨て――この辺りにも、心境の変化が含まれているようだな。以前の父上ならたとえロミーナ自身が許可をしたとしても、「様」をつけて読んでいただろうし。
……これは好影響が出ているってことなのかな。
原作【ブレイブ・クエスト】ではアズベルの両親について特に言及はない。モブ中のモブであるアズベルにそんな細かい設定なんて進行に必要ないから当然なんだけど……たぶん、あんまり良好な家庭環境ではなかったんじゃないかな。
それが少しずつ変化を見せている。
政略結婚を企んでいた両親が、ロミーナを本当の家族としてこのウィドマーク家に迎え入れようとしていたのだ。
いい方向に話が進んでいることへ安堵のため息を漏らしていると、部屋のドアをノックする音が。
やってきたのはメイドのスザンナだった。
「旦那様、保護した男性が目を覚ましました」
「おお、そうか」
「名前はライナン・オルダーソンと言って、商人だそうです」
「ふぅむ……聞いたことのない名前だな」
――いや、俺はある。
父上は知らなくて当然だ。
まだこの頃の彼は年齢的にも駆けだしの商人だろうし、まだまだ国内での知名度が低くても仕方がない。
ただ、ゲームでは違う。
ライナン・オルダーソンは……【ブレイブ・クエスト】の攻略における重要パーソンのひとりだ。
※明日からは19:00に投稿予定!
もちろん、父上からもこってり絞られたのだが、それよりも関心をもたれたのは俺がどうやってエンペラー・スパイダーを倒したかという手段であった。
俺は生産魔法で作り出した魔銃の存在を父上に明かす。
あの時は素材がなかったので石を代用したけど、炎や水といった素材で弾を作れば属性魔法にも負けない強力な攻撃ができると熱弁を振るう。
「むぅ……」
父上の反応は想定していたよりもずっとドライだった。
「これで領地運営が捗るぞぉ! ひゃっほい!」くらいのテンションで喜ぶのかと思ったんだけどな。
その父上は少し考えるように俯く。
しばらくしてからようやく口を開いた。
「アズベルよ。領地外でその力を使うのは少し抑えておるのだ。いいな?」
「えっ? なぜですか?」
「物作りに特化したおまえの生産魔法が悪いわけではない――が、そのような便利な魔法があると知れたら、悪用を企む者も出てくる」
「あっ……」
それは盲点だったな。
「おまえの性格を考えれば、誰かの口車に乗って悪事に加担するようなマネはしないだろうとは思うが……こちらの意思など関係なく、魔法を使わざるを得ない状況に追い込まれる可能性もある。人質を取られるとか、な」
「な、なるほど……」
「本当に心から信頼できる相手のみに披露するよう心掛けておくのだ」
父上の着眼点は俺の中になかったものだ。
きっと、過去に似たようなケースを見てきたのだろう。それにしても、公爵家令嬢との婚約が決まった直後の父上とはまるで別人のような立ち振る舞い……ちょっと気になるな。
「なんだか雰囲気が変わりましたね、父上」
それとなく尋ねてみると、父上は気恥ずかしそうに笑いながら答える。
「おまえとロミーナを見ていたら、これまでの自分の言動がバカらしく思えてきてな。フェリスも同じ気持ちだと言っていたよ」
そう語る父上の表情は穏やかなものだった。
あっ、ちなみにフェリスというのは俺の母親の名前ね。
当初はロミーナ様と呼んでいたのに、本人からの希望があったとはいえ今では呼び捨て――この辺りにも、心境の変化が含まれているようだな。以前の父上ならたとえロミーナ自身が許可をしたとしても、「様」をつけて読んでいただろうし。
……これは好影響が出ているってことなのかな。
原作【ブレイブ・クエスト】ではアズベルの両親について特に言及はない。モブ中のモブであるアズベルにそんな細かい設定なんて進行に必要ないから当然なんだけど……たぶん、あんまり良好な家庭環境ではなかったんじゃないかな。
それが少しずつ変化を見せている。
政略結婚を企んでいた両親が、ロミーナを本当の家族としてこのウィドマーク家に迎え入れようとしていたのだ。
いい方向に話が進んでいることへ安堵のため息を漏らしていると、部屋のドアをノックする音が。
やってきたのはメイドのスザンナだった。
「旦那様、保護した男性が目を覚ましました」
「おお、そうか」
「名前はライナン・オルダーソンと言って、商人だそうです」
「ふぅむ……聞いたことのない名前だな」
――いや、俺はある。
父上は知らなくて当然だ。
まだこの頃の彼は年齢的にも駆けだしの商人だろうし、まだまだ国内での知名度が低くても仕方がない。
ただ、ゲームでは違う。
ライナン・オルダーソンは……【ブレイブ・クエスト】の攻略における重要パーソンのひとりだ。
※明日からは19:00に投稿予定!
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