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第4話 魔法特訓
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場所をウィドマーク家の庭に移し、早速ロミーナの公開魔法特訓が始まった。
――「公開」とつけたのは、この場に俺とパウリーネさんだけでなく、ウィドマーク家とペンバートン家の関係者も見守っているからだ。
まあ、ペンバートン家の人たちの立場になってみれば、大事なご令嬢を預ける相手が酒臭い魔女ってなるとさすがに「ちょっと待て」と言いたくもなるよな。
一方、父上も母上も「イルデなら大丈夫」とまったく心配していない。
俺も自分の属性をスパッと見抜いてくれたという実績から、きっと大丈夫だろうと信じてはいるが……果たしてどうなるか。
ただ、気がかりなのはロミーナの魔法特訓は今回が初めてではないという点。
公爵家令嬢ともなれば、すでに腕利きの魔法使いたちにアドバイスを求めている――それでも改善しなかった魔力の暴走を無名の魔女が止められるのか。俺もこの点だけはちょっと不安なんだよな。
「ギャラリーも揃ったようだし……そろそろその強力な氷魔法とやらを見せてもらえないかい?」
「は、はい……」
イルデさんは「見せて」と言ったが、あれって確か感情が高ぶると突発的に発動するヤツじゃなかったっけ?
でも、ロミーナはすんなり返事をして集中し始めていた。
どうやら任意でもあれくらいの威力を有した発動させられるようだが、やはり完璧に制御はできないのだろう。
「遠慮はいらない。すべてをぶつけるつもりで放ってごらん」
「で、ですが……」
「いいから」
これまでの結果を知るロミーナには戸惑いがうかがえる。
王国でも名のある魔法使いたちでさえ、氷魔法の暴走を止められなかったわけだからな無理もないか。
それでも、自分の魔力をしっかり制御したいと願うロミーナは氷魔法を披露する。
案の定、ロミーナの魔力によって生みだされた氷は少しずつ巨大化していき、やがて氷山のようなサイズにまで成長する――が、突然、氷の巨大化が止まった。
「「「「「おぉ!?」」」」」
周りで見守っていた人たちから歓声があがる。
「いい魔法だ。魔力量も常人のそれを遥かに凌駕している。一流になり得る資格は十分にあるようだね」
ヒルデさんは宣言通り、ロミーナの氷魔法を自身の結界魔法によって抑え込むことに成功した。
おまけにロミーナの魔法の才能を手放しに褒めるくらい余裕がある。
さすがは原作【ブレイブ・クエスト】にて公式チートの呼び声高い有能スポット参戦キャラだ。マジでこの人はなんでうちの領地にある森でひっそりと暮らしていたのだろうか。そしてなぜ原作では敵対関係になってしまったのか。
諸々疑問は残るけど、これだけの実力者がそばにいてくれるのは本当に心強い。
「どうだい? これなら平気だろう?」
「た、確かに……」
「今ならこれ以上あんたの魔法は暴走しないよ。ほら、制御するためにまずは意識を集中させるんだ」
「わ、分かりました」
戸惑いながらも、ロミーナは指示通りに目を閉じて意識を集中。
すると、少しずつだが彼女が魔力で生みだした氷の塊は小さくなっていく。
「上出来だ」
満足そうに頷くイルデさん。
しかし、一体どういう仕組みなんだ?
首を傾げていると、すぐ横に立っていたパウリーネさんが語り始める。
「そうか……一度発動した氷魔法は魔力の暴走でどんどん大きくなり、やがて人を傷つけてしまうため、お嬢様は集中することができなかったのか」
「えっ? そ、それって……」
「あのように第三者が氷魔法を封じている間なら、魔力の制御に時間をかけられる。ロミーナ様ならば、それが可能だ」
つまり、制御できなかった一番の要因は発動したことによって誰かが被害を受けるかもしれないと気になって集中できていなかったからというわけか。
普通、魔法の修行を始める前っていうのはほとんどの人が魔法を使えない状態で行う。当然ロミーナもそうだったのだが、彼女の場合は秘められた魔力量が常人と比べて段違いに多かったことが逆に災いし、魔法の暴走を招いたのだ。
けど、パウリーネさんの言うように、ああやって氷魔法を抑え込んでおけば、ロミーナは魔力制御に集中できる――と、思われたのだが、事態はそう簡単に解決するようなものではなかった。
「あう……」
突然、ロミーナは膝から崩れ落ちた。
それと同時に氷もすべて消え去ってしまう。
「「「「「ロミーナお嬢様!?」」」」」
同行していたペンバートン家の使用人たちが駆け寄ろうとするも、それに気づいたロミーナは顔を上げて気丈にも笑顔を見せた。
「大丈夫よ……軽くめまいがしただけだから」
みんなに心配をかけまいとするロミーナ。
氷が消えた瞬間はうまく制御できたのかと喜んだが、どうも魔力が尽きかけていたのが原因で自然消滅したらしい。
「今日のところはこんなものでいいんじゃないかな。初めてにしては上々の結果だよ」
これを見て、イルデさんも特訓の終了を告げた。
しかし、ロミーナは納得してないようだ。
「す、少し休憩をしたらもう一度……」
「それは許可できないねぇ。そんなに焦る必要もないじゃないか。どうせ今日からこの屋敷で暮らすのだろう?」
「え、えぇ」
「魔法をきちんとコントロールしたければ体調管理も万全にしておくものだよ。そういうわけだから、明日に備えて休むんだ」
「……分かりました」
イルデさんの言う通りだな。
パルザン地方にいる間は、彼女に何かを強要するようなマネはしない。原作と同じく悪役女帝となってしまわないように穏やかで平和な日々を過ごしてもらいたいと俺は考えている。そのためには、やっぱりあの氷魔法の制御は欠かせない。
魔女イルデの実力は原作通りだ。
ここは彼女に任せておくのがベストだろう。
「ロミーナ、大丈夫?」
「アズベル……平気よ。でも、ちょっと疲れちゃった」
額からは玉のような汗が滴り落ち、息も荒い。
無理もないか。
本格的に氷魔法の制御を試みたのは今回が初めてだろうし、これから徐々に慣れていくしかない。
……俺も可能な限り協力をしていきたいな。
ロミーナと話をしていると、視界の端にイルデさんへ近づく女性の姿を発見する。
あれは……パウリーネさん?
「先ほどの無礼な振る舞い……申し訳ない」
そう言って、イルデさんに対し深々と頭を下げたパウリーネさん。
どうやら疑いを持ったことについて謝罪をしているようだ。
「問題はないよ。理解をしてもらえたのなら、これ以上何も求めはしないさ。それに、君の仕事の都合上、あたしのような人間を疑うのは職務に忠実な証拠だ」
「寛大な心遣いに感謝いたします」
ふたりは握手を交わして和解成立。
嫌なわだかまりが残らなくてよかったよ。
それから、ロミーナの荷物をうちの屋敷内へ運び込む作業が始まった。
父上も母上も妙に張りきっているが……公爵家に名前を売り込むチャンスと思っているのかな。あんまり効果はなさそうだけど。
ともかく、これにてロミーナ移住の準備は整った。
彼女以外にも、近衛騎士のパウリーネさんや専属メイドさん数人がうちに滞在する予定となっている。
「改めて、今日からよろしくね、アズベル」
「こちらこそ」
沈む夕日を背景に、俺とロミーナはこれからの生活を想像しながら笑い合うのだった。
◇◇◇
アズベルとロミーナの生活が上々の滑り出しを見せていた頃――ペンバートン家では家族会議が開かれていた。
とはいえ、参加しているのはロミーナのふたりの姉のみ。
つまり家族会議ではなく姉妹会議であった。
「聞きましたか、エクリアお姉さま!!」
次女であるカテリノ・ペンバートンが姉のエクリア・ペンバートンの私室のドアを勢いよくこじ開けるとそう叫んだ。
「うるさいわよ、カテリノ。相変わらず品がないわね、あなたは。あと声が大きい」
「あっ、ご、ごめんなさいですわ……で、でも、とんでもない情報が――」
「ロミーナのことでしょう?」
「っ!? ご存じだったのですか!?」
カテリノが驚いたように尋ねると、エクリアは「ふっ」と小さく笑い、持っていた書物を机に置き、腰かけていた椅子から立ち上がる。
「まさかあの子に婚約者ができるなんてって思ったけど、相手は王都からもっとも離れた辺境の地の領主一族……大方、公爵家令嬢の肩書につられて婚約をしたのでしょう。どうせ一ヵ月もしないうちに出戻ってくるわ」
不敵な笑みを浮かべるエクリアだが、カテリノはそれでは納得していない様子。
「しかし、それではお母様の計画が……」
「安心なさい。すでに手は打ってあるようよ」
「っ! さ、さすがはお母様ですわ!」
企てた計画が頓挫するかもしれないという焦りでいっぱいだったカテリノだが、母親がすでに対策を講じていると知って落ち着きを取り戻す。
「あの子には……すべてを抱えて沈んでもらわなくちゃいけないものね」
窓の外。
夜空に浮かぶ半月を見つめながら、エクリアはそう呟くのだった。
――「公開」とつけたのは、この場に俺とパウリーネさんだけでなく、ウィドマーク家とペンバートン家の関係者も見守っているからだ。
まあ、ペンバートン家の人たちの立場になってみれば、大事なご令嬢を預ける相手が酒臭い魔女ってなるとさすがに「ちょっと待て」と言いたくもなるよな。
一方、父上も母上も「イルデなら大丈夫」とまったく心配していない。
俺も自分の属性をスパッと見抜いてくれたという実績から、きっと大丈夫だろうと信じてはいるが……果たしてどうなるか。
ただ、気がかりなのはロミーナの魔法特訓は今回が初めてではないという点。
公爵家令嬢ともなれば、すでに腕利きの魔法使いたちにアドバイスを求めている――それでも改善しなかった魔力の暴走を無名の魔女が止められるのか。俺もこの点だけはちょっと不安なんだよな。
「ギャラリーも揃ったようだし……そろそろその強力な氷魔法とやらを見せてもらえないかい?」
「は、はい……」
イルデさんは「見せて」と言ったが、あれって確か感情が高ぶると突発的に発動するヤツじゃなかったっけ?
でも、ロミーナはすんなり返事をして集中し始めていた。
どうやら任意でもあれくらいの威力を有した発動させられるようだが、やはり完璧に制御はできないのだろう。
「遠慮はいらない。すべてをぶつけるつもりで放ってごらん」
「で、ですが……」
「いいから」
これまでの結果を知るロミーナには戸惑いがうかがえる。
王国でも名のある魔法使いたちでさえ、氷魔法の暴走を止められなかったわけだからな無理もないか。
それでも、自分の魔力をしっかり制御したいと願うロミーナは氷魔法を披露する。
案の定、ロミーナの魔力によって生みだされた氷は少しずつ巨大化していき、やがて氷山のようなサイズにまで成長する――が、突然、氷の巨大化が止まった。
「「「「「おぉ!?」」」」」
周りで見守っていた人たちから歓声があがる。
「いい魔法だ。魔力量も常人のそれを遥かに凌駕している。一流になり得る資格は十分にあるようだね」
ヒルデさんは宣言通り、ロミーナの氷魔法を自身の結界魔法によって抑え込むことに成功した。
おまけにロミーナの魔法の才能を手放しに褒めるくらい余裕がある。
さすがは原作【ブレイブ・クエスト】にて公式チートの呼び声高い有能スポット参戦キャラだ。マジでこの人はなんでうちの領地にある森でひっそりと暮らしていたのだろうか。そしてなぜ原作では敵対関係になってしまったのか。
諸々疑問は残るけど、これだけの実力者がそばにいてくれるのは本当に心強い。
「どうだい? これなら平気だろう?」
「た、確かに……」
「今ならこれ以上あんたの魔法は暴走しないよ。ほら、制御するためにまずは意識を集中させるんだ」
「わ、分かりました」
戸惑いながらも、ロミーナは指示通りに目を閉じて意識を集中。
すると、少しずつだが彼女が魔力で生みだした氷の塊は小さくなっていく。
「上出来だ」
満足そうに頷くイルデさん。
しかし、一体どういう仕組みなんだ?
首を傾げていると、すぐ横に立っていたパウリーネさんが語り始める。
「そうか……一度発動した氷魔法は魔力の暴走でどんどん大きくなり、やがて人を傷つけてしまうため、お嬢様は集中することができなかったのか」
「えっ? そ、それって……」
「あのように第三者が氷魔法を封じている間なら、魔力の制御に時間をかけられる。ロミーナ様ならば、それが可能だ」
つまり、制御できなかった一番の要因は発動したことによって誰かが被害を受けるかもしれないと気になって集中できていなかったからというわけか。
普通、魔法の修行を始める前っていうのはほとんどの人が魔法を使えない状態で行う。当然ロミーナもそうだったのだが、彼女の場合は秘められた魔力量が常人と比べて段違いに多かったことが逆に災いし、魔法の暴走を招いたのだ。
けど、パウリーネさんの言うように、ああやって氷魔法を抑え込んでおけば、ロミーナは魔力制御に集中できる――と、思われたのだが、事態はそう簡単に解決するようなものではなかった。
「あう……」
突然、ロミーナは膝から崩れ落ちた。
それと同時に氷もすべて消え去ってしまう。
「「「「「ロミーナお嬢様!?」」」」」
同行していたペンバートン家の使用人たちが駆け寄ろうとするも、それに気づいたロミーナは顔を上げて気丈にも笑顔を見せた。
「大丈夫よ……軽くめまいがしただけだから」
みんなに心配をかけまいとするロミーナ。
氷が消えた瞬間はうまく制御できたのかと喜んだが、どうも魔力が尽きかけていたのが原因で自然消滅したらしい。
「今日のところはこんなものでいいんじゃないかな。初めてにしては上々の結果だよ」
これを見て、イルデさんも特訓の終了を告げた。
しかし、ロミーナは納得してないようだ。
「す、少し休憩をしたらもう一度……」
「それは許可できないねぇ。そんなに焦る必要もないじゃないか。どうせ今日からこの屋敷で暮らすのだろう?」
「え、えぇ」
「魔法をきちんとコントロールしたければ体調管理も万全にしておくものだよ。そういうわけだから、明日に備えて休むんだ」
「……分かりました」
イルデさんの言う通りだな。
パルザン地方にいる間は、彼女に何かを強要するようなマネはしない。原作と同じく悪役女帝となってしまわないように穏やかで平和な日々を過ごしてもらいたいと俺は考えている。そのためには、やっぱりあの氷魔法の制御は欠かせない。
魔女イルデの実力は原作通りだ。
ここは彼女に任せておくのがベストだろう。
「ロミーナ、大丈夫?」
「アズベル……平気よ。でも、ちょっと疲れちゃった」
額からは玉のような汗が滴り落ち、息も荒い。
無理もないか。
本格的に氷魔法の制御を試みたのは今回が初めてだろうし、これから徐々に慣れていくしかない。
……俺も可能な限り協力をしていきたいな。
ロミーナと話をしていると、視界の端にイルデさんへ近づく女性の姿を発見する。
あれは……パウリーネさん?
「先ほどの無礼な振る舞い……申し訳ない」
そう言って、イルデさんに対し深々と頭を下げたパウリーネさん。
どうやら疑いを持ったことについて謝罪をしているようだ。
「問題はないよ。理解をしてもらえたのなら、これ以上何も求めはしないさ。それに、君の仕事の都合上、あたしのような人間を疑うのは職務に忠実な証拠だ」
「寛大な心遣いに感謝いたします」
ふたりは握手を交わして和解成立。
嫌なわだかまりが残らなくてよかったよ。
それから、ロミーナの荷物をうちの屋敷内へ運び込む作業が始まった。
父上も母上も妙に張りきっているが……公爵家に名前を売り込むチャンスと思っているのかな。あんまり効果はなさそうだけど。
ともかく、これにてロミーナ移住の準備は整った。
彼女以外にも、近衛騎士のパウリーネさんや専属メイドさん数人がうちに滞在する予定となっている。
「改めて、今日からよろしくね、アズベル」
「こちらこそ」
沈む夕日を背景に、俺とロミーナはこれからの生活を想像しながら笑い合うのだった。
◇◇◇
アズベルとロミーナの生活が上々の滑り出しを見せていた頃――ペンバートン家では家族会議が開かれていた。
とはいえ、参加しているのはロミーナのふたりの姉のみ。
つまり家族会議ではなく姉妹会議であった。
「聞きましたか、エクリアお姉さま!!」
次女であるカテリノ・ペンバートンが姉のエクリア・ペンバートンの私室のドアを勢いよくこじ開けるとそう叫んだ。
「うるさいわよ、カテリノ。相変わらず品がないわね、あなたは。あと声が大きい」
「あっ、ご、ごめんなさいですわ……で、でも、とんでもない情報が――」
「ロミーナのことでしょう?」
「っ!? ご存じだったのですか!?」
カテリノが驚いたように尋ねると、エクリアは「ふっ」と小さく笑い、持っていた書物を机に置き、腰かけていた椅子から立ち上がる。
「まさかあの子に婚約者ができるなんてって思ったけど、相手は王都からもっとも離れた辺境の地の領主一族……大方、公爵家令嬢の肩書につられて婚約をしたのでしょう。どうせ一ヵ月もしないうちに出戻ってくるわ」
不敵な笑みを浮かべるエクリアだが、カテリノはそれでは納得していない様子。
「しかし、それではお母様の計画が……」
「安心なさい。すでに手は打ってあるようよ」
「っ! さ、さすがはお母様ですわ!」
企てた計画が頓挫するかもしれないという焦りでいっぱいだったカテリノだが、母親がすでに対策を講じていると知って落ち着きを取り戻す。
「あの子には……すべてを抱えて沈んでもらわなくちゃいけないものね」
窓の外。
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