悪役豪農に転生した俺のまったり農業革命 ~死亡フラグを回避しつつ婚約者や領民たちと農作業を楽しみながらスローライフを満喫する!~

鈴木竜一

文字の大きさ
上 下
4 / 22

第4話 領民たちとの和解

しおりを挟む
 リーノ村の人たちが納めた野菜を馬車の荷台に詰め込んで、俺は屋敷を出た。

 同行するのは治癒魔法使いのジェニーと御者を担当する護衛の騎士ローチ。
 このふたり以外にも護衛騎士が三人ついてきている。
 護衛隊の隊長を務めるローチは元々レブガン王国騎士団に所属しており、腕の立つ騎士として評判だったが、そこを父上が引き抜いたのだ。

 実は凄腕であるものの、両親が平民である彼は出世が厳しいとも囁かれていた。
 
 親の持つ権力が強大だと、能力が低くても上に行ける。

 ……大丈夫なのか、この国は。

 原作だと一応滅びずに残ってはいるが、正直、時間の問題なのかもしれない。 
 まあ、経済力はあるのですぐには崩れたりしないのだろうが。
ちなみに、野菜を村へ届けると聞いた際、最初は疑っていたローチだが、俺の口から直接聞くとさすがに信じたようである。

 そんなことを考えているうちにリーノ村へと到着。

「あっ、領主様だ!」
「み、みんな集まれ!」

 アポなしでいきなりやってきたため、村の人たちは大慌てで俺たちを出迎える。
 だが、彼らの表情は次第に困惑の色へと染まっていく。

 そりゃそうだ。

 半ば強引に持っていかれた野菜を馬車の荷台にぎっしり詰め込んだ領主が訪ねてきたのだから。

 それにしても……みんなやつれているな。
 どう見ても栄養不足だ。

 すべては俺が強引に収穫した野菜を奪っていったから。
 彼らが満足に食事できる量はもう村にほとんど残っておらず、かといって別の村へ移住すればどんな制裁が待っているか分からない。その恐怖から、リーノ村の人たちは極限の状態でこれまでを過ごしてきたのだろう。

「あ、あの、ソリス様、本日はどのような御用件で?」

 ゼリオル村長が一歩前に出てそう尋ねる。
 その目は完全に怯え切っていた。

「……今日は伝えたいことがあって来た」

 俺はそう告げると、荷台に詰め込まれた野菜を指さす。

「この野菜は返す。これを食べて英気を養ってくれ」
「「「「「えぇっ!?」」」」」

 途端にざわつきだす村人たち。
 にわかには信じられないだろう発言だが……信じてもらうしかない。

 だが、さすがにこれまでの悪事がたたってか、誰も野菜へ近づこうとしなかった。あれに手を出したが最後、何を要求されるか分かったものではないと警戒しているのだ。

 ――しかし、それは理解力のある大人のみ。

 お腹を空かせた村の子どもたちは、食料がもらえると思ってこちらへと駆け寄ってきた。

「よ、よせ!」

 思わず村の男性が叫ぶも、すぐに口を手で押さえた。

 俺に何か言われると思ったのだろう。
 子どもたちは男性の声に反応して歩みを止める――が、目の前にあるおいしそうな野菜を前に葛藤が続いているようだ。

 ……とにかく、今は伝え続けるしかない。

「俺はこれまでの行いを深く反省した。みんなにアースロード家へ野菜を納めさせるためにかなり無理をさせてしまった、と。収穫量が予定の量の大きく下回った大きな要因はそこにあると気づいたんだ」

 そう告げて、俺は深々と頭を下げる。

「申し訳なかった。ここにある野菜は私の謝罪の気持ちだ。アースロード家の当主である父上には、収穫量が目標に達しなかった原因が俺の傲慢なやり方が招いた結果であると包み隠さず報告するつもりでいる」
「ソ、ソリス様……」

 動揺するゼリオル村長。
 村人たちのざわめきも一層大きくなる。
だが、俺が頭を下げたことによって村人たちの反応に変化が訪れた。

「ほ、本当によろしいのですか?」

 代表してゼリオル村長がそう尋ねる。
 
彼らも空腹は限界のはず。
 食料が無条件で戻ってくるのなら、これ以上に嬉しいことはないだろう。

「もちろんだ。全員の腹を満たすには足りないかもしれないが、その時は俺を吹っ飛ばしたあのデカいイノシシ型モンスターを狩りに行こうと思っている。――協力してくれるな、ローチ」
「お任せください。私もデビットもベックも騎士団時代にイノシシ狩りは経験済みです。必ずや捕らえてみせましょう」
「頼もしいな。期待しているぞ」
「はっ」

 相変わらず仏頂面でクールなんだけど、頼りになる人だ。
 一方、野菜に加えてイノシシ肉も手に入ると知った村人たちは大騒ぎ。さっきまでお通夜状態だったというのに、今は抱き合ったりして喜び合っている。

 その後、野菜を各家庭に配っていく。
 成長途中の子どもたちや妊娠中の女性を優先し、それから他の者たちへ。

 なんとか全員の手に行き渡ったようだが、成人男性ではまだ物足りないだろう。

 しかし、ある程度は体力も回復できたようで、イノシシ狩りを志願する者まで現れ始めた。

「よし。みんなで協力しておいしいイノシシ肉を手に入れよう」
「「「「「おおおおおおおう!!!!」」」」」

 闘志むき出しとなって叫ぶ村の男たち。
 彼らの気合に負けていられないな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。 女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。 ※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。 修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。 雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。 更新も不定期になります。 ※小説家になろうと同じ内容を公開してます。 週末にまとめて更新致します。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!

果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。 次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった! しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……? 「ちくしょう! 死んでたまるか!」 カイムは、殺されないために努力することを決める。 そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る! これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。    本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています 他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...