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第4話 領民たちとの和解
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リーノ村の人たちが納めた野菜を馬車の荷台に詰め込んで、俺は屋敷を出た。
同行するのは治癒魔法使いのジェニーと御者を担当する護衛の騎士ローチ。
このふたり以外にも護衛騎士が三人ついてきている。
護衛隊の隊長を務めるローチは元々レブガン王国騎士団に所属しており、腕の立つ騎士として評判だったが、そこを父上が引き抜いたのだ。
実は凄腕であるものの、両親が平民である彼は出世が厳しいとも囁かれていた。
親の持つ権力が強大だと、能力が低くても上に行ける。
……大丈夫なのか、この国は。
原作だと一応滅びずに残ってはいるが、正直、時間の問題なのかもしれない。
まあ、経済力はあるのですぐには崩れたりしないのだろうが。
ちなみに、野菜を村へ届けると聞いた際、最初は疑っていたローチだが、俺の口から直接聞くとさすがに信じたようである。
そんなことを考えているうちにリーノ村へと到着。
「あっ、領主様だ!」
「み、みんな集まれ!」
アポなしでいきなりやってきたため、村の人たちは大慌てで俺たちを出迎える。
だが、彼らの表情は次第に困惑の色へと染まっていく。
そりゃそうだ。
半ば強引に持っていかれた野菜を馬車の荷台にぎっしり詰め込んだ領主が訪ねてきたのだから。
それにしても……みんなやつれているな。
どう見ても栄養不足だ。
すべては俺が強引に収穫した野菜を奪っていったから。
彼らが満足に食事できる量はもう村にほとんど残っておらず、かといって別の村へ移住すればどんな制裁が待っているか分からない。その恐怖から、リーノ村の人たちは極限の状態でこれまでを過ごしてきたのだろう。
「あ、あの、ソリス様、本日はどのような御用件で?」
ゼリオル村長が一歩前に出てそう尋ねる。
その目は完全に怯え切っていた。
「……今日は伝えたいことがあって来た」
俺はそう告げると、荷台に詰め込まれた野菜を指さす。
「この野菜は返す。これを食べて英気を養ってくれ」
「「「「「えぇっ!?」」」」」
途端にざわつきだす村人たち。
にわかには信じられないだろう発言だが……信じてもらうしかない。
だが、さすがにこれまでの悪事がたたってか、誰も野菜へ近づこうとしなかった。あれに手を出したが最後、何を要求されるか分かったものではないと警戒しているのだ。
――しかし、それは理解力のある大人のみ。
お腹を空かせた村の子どもたちは、食料がもらえると思ってこちらへと駆け寄ってきた。
「よ、よせ!」
思わず村の男性が叫ぶも、すぐに口を手で押さえた。
俺に何か言われると思ったのだろう。
子どもたちは男性の声に反応して歩みを止める――が、目の前にあるおいしそうな野菜を前に葛藤が続いているようだ。
……とにかく、今は伝え続けるしかない。
「俺はこれまでの行いを深く反省した。みんなにアースロード家へ野菜を納めさせるためにかなり無理をさせてしまった、と。収穫量が予定の量の大きく下回った大きな要因はそこにあると気づいたんだ」
そう告げて、俺は深々と頭を下げる。
「申し訳なかった。ここにある野菜は私の謝罪の気持ちだ。アースロード家の当主である父上には、収穫量が目標に達しなかった原因が俺の傲慢なやり方が招いた結果であると包み隠さず報告するつもりでいる」
「ソ、ソリス様……」
動揺するゼリオル村長。
村人たちのざわめきも一層大きくなる。
だが、俺が頭を下げたことによって村人たちの反応に変化が訪れた。
「ほ、本当によろしいのですか?」
代表してゼリオル村長がそう尋ねる。
彼らも空腹は限界のはず。
食料が無条件で戻ってくるのなら、これ以上に嬉しいことはないだろう。
「もちろんだ。全員の腹を満たすには足りないかもしれないが、その時は俺を吹っ飛ばしたあのデカいイノシシ型モンスターを狩りに行こうと思っている。――協力してくれるな、ローチ」
「お任せください。私もデビットもベックも騎士団時代にイノシシ狩りは経験済みです。必ずや捕らえてみせましょう」
「頼もしいな。期待しているぞ」
「はっ」
相変わらず仏頂面でクールなんだけど、頼りになる人だ。
一方、野菜に加えてイノシシ肉も手に入ると知った村人たちは大騒ぎ。さっきまでお通夜状態だったというのに、今は抱き合ったりして喜び合っている。
その後、野菜を各家庭に配っていく。
成長途中の子どもたちや妊娠中の女性を優先し、それから他の者たちへ。
なんとか全員の手に行き渡ったようだが、成人男性ではまだ物足りないだろう。
しかし、ある程度は体力も回復できたようで、イノシシ狩りを志願する者まで現れ始めた。
「よし。みんなで協力しておいしいイノシシ肉を手に入れよう」
「「「「「おおおおおおおう!!!!」」」」」
闘志むき出しとなって叫ぶ村の男たち。
彼らの気合に負けていられないな。
同行するのは治癒魔法使いのジェニーと御者を担当する護衛の騎士ローチ。
このふたり以外にも護衛騎士が三人ついてきている。
護衛隊の隊長を務めるローチは元々レブガン王国騎士団に所属しており、腕の立つ騎士として評判だったが、そこを父上が引き抜いたのだ。
実は凄腕であるものの、両親が平民である彼は出世が厳しいとも囁かれていた。
親の持つ権力が強大だと、能力が低くても上に行ける。
……大丈夫なのか、この国は。
原作だと一応滅びずに残ってはいるが、正直、時間の問題なのかもしれない。
まあ、経済力はあるのですぐには崩れたりしないのだろうが。
ちなみに、野菜を村へ届けると聞いた際、最初は疑っていたローチだが、俺の口から直接聞くとさすがに信じたようである。
そんなことを考えているうちにリーノ村へと到着。
「あっ、領主様だ!」
「み、みんな集まれ!」
アポなしでいきなりやってきたため、村の人たちは大慌てで俺たちを出迎える。
だが、彼らの表情は次第に困惑の色へと染まっていく。
そりゃそうだ。
半ば強引に持っていかれた野菜を馬車の荷台にぎっしり詰め込んだ領主が訪ねてきたのだから。
それにしても……みんなやつれているな。
どう見ても栄養不足だ。
すべては俺が強引に収穫した野菜を奪っていったから。
彼らが満足に食事できる量はもう村にほとんど残っておらず、かといって別の村へ移住すればどんな制裁が待っているか分からない。その恐怖から、リーノ村の人たちは極限の状態でこれまでを過ごしてきたのだろう。
「あ、あの、ソリス様、本日はどのような御用件で?」
ゼリオル村長が一歩前に出てそう尋ねる。
その目は完全に怯え切っていた。
「……今日は伝えたいことがあって来た」
俺はそう告げると、荷台に詰め込まれた野菜を指さす。
「この野菜は返す。これを食べて英気を養ってくれ」
「「「「「えぇっ!?」」」」」
途端にざわつきだす村人たち。
にわかには信じられないだろう発言だが……信じてもらうしかない。
だが、さすがにこれまでの悪事がたたってか、誰も野菜へ近づこうとしなかった。あれに手を出したが最後、何を要求されるか分かったものではないと警戒しているのだ。
――しかし、それは理解力のある大人のみ。
お腹を空かせた村の子どもたちは、食料がもらえると思ってこちらへと駆け寄ってきた。
「よ、よせ!」
思わず村の男性が叫ぶも、すぐに口を手で押さえた。
俺に何か言われると思ったのだろう。
子どもたちは男性の声に反応して歩みを止める――が、目の前にあるおいしそうな野菜を前に葛藤が続いているようだ。
……とにかく、今は伝え続けるしかない。
「俺はこれまでの行いを深く反省した。みんなにアースロード家へ野菜を納めさせるためにかなり無理をさせてしまった、と。収穫量が予定の量の大きく下回った大きな要因はそこにあると気づいたんだ」
そう告げて、俺は深々と頭を下げる。
「申し訳なかった。ここにある野菜は私の謝罪の気持ちだ。アースロード家の当主である父上には、収穫量が目標に達しなかった原因が俺の傲慢なやり方が招いた結果であると包み隠さず報告するつもりでいる」
「ソ、ソリス様……」
動揺するゼリオル村長。
村人たちのざわめきも一層大きくなる。
だが、俺が頭を下げたことによって村人たちの反応に変化が訪れた。
「ほ、本当によろしいのですか?」
代表してゼリオル村長がそう尋ねる。
彼らも空腹は限界のはず。
食料が無条件で戻ってくるのなら、これ以上に嬉しいことはないだろう。
「もちろんだ。全員の腹を満たすには足りないかもしれないが、その時は俺を吹っ飛ばしたあのデカいイノシシ型モンスターを狩りに行こうと思っている。――協力してくれるな、ローチ」
「お任せください。私もデビットもベックも騎士団時代にイノシシ狩りは経験済みです。必ずや捕らえてみせましょう」
「頼もしいな。期待しているぞ」
「はっ」
相変わらず仏頂面でクールなんだけど、頼りになる人だ。
一方、野菜に加えてイノシシ肉も手に入ると知った村人たちは大騒ぎ。さっきまでお通夜状態だったというのに、今は抱き合ったりして喜び合っている。
その後、野菜を各家庭に配っていく。
成長途中の子どもたちや妊娠中の女性を優先し、それから他の者たちへ。
なんとか全員の手に行き渡ったようだが、成人男性ではまだ物足りないだろう。
しかし、ある程度は体力も回復できたようで、イノシシ狩りを志願する者まで現れ始めた。
「よし。みんなで協力しておいしいイノシシ肉を手に入れよう」
「「「「「おおおおおおおう!!!!」」」」」
闘志むき出しとなって叫ぶ村の男たち。
彼らの気合に負けていられないな。
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