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第3話 生きるために
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翌朝。
貯蔵庫へと向かう前に洗面台へと立ち寄って顔を洗う。
目の前の鑑に映し出されている顔――緑色の髪に薄茶色の瞳は、日本で暮らしていた頃の顔の特徴と似ても似つかないし、何より若い。
そりゃそうだろうな。
前世で死んだ時はアラフォーの中間管理職だったのに、今は二十代で金持ちのボンボンだ。
肌も綺麗だし、最近ちょっと出始めていたお腹はスッキリしている。
身体的特徴はまったくの別人なのだが、なぜか妙に「自分の顔だ」としっくりきていたんだよなぁ。
この辺は記憶の混同がみられる。
いろいろと考えたが、きっとあのイノシシに跳ね飛ばされた際、それまでのソリス・アースロードは死んだんじゃないかな。
そして、前世の記憶を持つ俺の魂が肉体に宿った……なんか、原作小説で主人公が転生してきた際にそんな表現がされていた気がするんだよな。
まあ、この辺はいくら考えても正しい答えなんて出ないだろうし、追々情報を集めていくとするか。
簡単に身支度を整えると、俺は早速スミゲルを連れて貯蔵庫へ。
途中で出くわしたジェニーとローチも加わり、三人でやってきたわけだが……スミゲルもジェニーも俺がここへ来た理由についてはまったく見当がついていないようだ。
「収穫した野菜を確認するのですか?」
「それもあるが……もっと重要な案件だ」
なるべく領主としての威厳を保とうと、それっぽい話し方をする。
その後、貯蔵庫の内部へ足を踏み入れると、広さに比べて積まれている野菜の量の少なさに戸惑った。
「やはり少ないな」
「いかがいたしましょう。この量では御当主様は……」
スミゲルは少し怯えたように言う。
俺についてくるまでは長年父上のそばにいたらしいので、その怖さが分かるのだろう。
俺もソリス・アースロードの記憶の中にある父の姿を想像して震えたが、今は俺が怒られるかどうかよりも重要なことがある。
「スミゲル。すぐに荷台付きの馬車を手配してくれ」
「ど、どうされるおつもりですか?」
「この野菜を持ってリーノ村へ行く」
「リーノ村へ?」
質問をぶつけてきたのはジェニーだった。
ますます俺が意味不明な行動をしているので不安になったのだろう。
……ただ、これを話すと余計にふたりが混乱してしまうかもしれない。
「収穫した野菜を村民たちへ返す。自分たちが食べる分も困っているだろうからな」
「「「なっ!?」」」
三人とも、やっぱりそういう反応になるか――と、思いきや、スミゲルは急に何かを思いついたように手をポンと叩いた。
「この大量の野菜を領民に貸し付けてあとから金を取ろうと!」
いや、そんな鬼畜なマネしないし。
何サラッととんでもない発言してんだ。
まあ、以前の俺(ソリス)ならそう言い出してもおかしくはないけど。
「そんなことはしないぞ。というか、貸すのではなく供給する。食料がなければ働く気力も体力もなくなるからな。将来的にはそちらの方が痛手だ」
「ほ、本当にどうされたんですか、ソリス様」
ついに耐えきれなくなったジェニーから本音が漏れた。
「昨日、ベッドで横になりながら考えたんだ。どうしてここまで収穫量が少ないのか。その理由についてはリーノ村のゼリオル村長が丁寧に説明してくれていたが……俺は聞く耳を持たなかった」
「ソリス様……」
俺が真剣な眼差しで、かつ穏やかな口調のまま語り始めると、ジェニーもスミゲルも神妙な面持ちで耳を傾けてくれた。真面目に話しているっていうのは伝わったようだな。
安堵しつつ、そのまま続けた。
「この領地が持つポテンシャルはこんなものじゃないはずだ。そして、それを生かせる農家の人々はまさに宝。にもかかわらず収穫量が少ないのは領主である俺の責任だ。がなり立てて迫る以外に成すべきことをする……その重要性を思い知ったんだ」
俺が力強く宣言すると、ジェニーもスミゲルも最初こそポカンと口を半開きにして聞いていたが、やがてこちらの言葉の意味を脳がしっかりと理解したのか、ゆっくりとだが拍手をして賛成してくれた。
「そうと決まれば早速この食料の一部を農家の人々へと返し、彼らの空腹を満たせるようにしなければ」
「では、馬車の用意をしてまいります!」
「私は護衛隊のローチ殿へ声をかけてきます!」
スミゲルもジェニーもテンション高めに準備を始めた。
……しかし、これでうまくいくかどうかは未知数だ。
この地が農業に適しているのは事前の調査でハッキリしている。
それに収穫量が見合わないとしたら、考えられる可能性は農民たちのコンディション不良だろう。これについては俺の――いや、ソリスの記憶に刻まれたリーノ村の人たちの様子から断言できる。
俺には農業の知識がない。
どうしても専門家の力が必要となる。
これまで散々悪さをしてきた俺をリーノ村の人たちがそう簡単に許してくれるとは思えないが……こうなった以上、ありったけの誠意をもってぶち当たるしかないだろう。
「さて、どうなることやら……」
うまくいくのか。
あえなく失敗に終わるのか。
果たして、どちらに転ぶのか……
貯蔵庫へと向かう前に洗面台へと立ち寄って顔を洗う。
目の前の鑑に映し出されている顔――緑色の髪に薄茶色の瞳は、日本で暮らしていた頃の顔の特徴と似ても似つかないし、何より若い。
そりゃそうだろうな。
前世で死んだ時はアラフォーの中間管理職だったのに、今は二十代で金持ちのボンボンだ。
肌も綺麗だし、最近ちょっと出始めていたお腹はスッキリしている。
身体的特徴はまったくの別人なのだが、なぜか妙に「自分の顔だ」としっくりきていたんだよなぁ。
この辺は記憶の混同がみられる。
いろいろと考えたが、きっとあのイノシシに跳ね飛ばされた際、それまでのソリス・アースロードは死んだんじゃないかな。
そして、前世の記憶を持つ俺の魂が肉体に宿った……なんか、原作小説で主人公が転生してきた際にそんな表現がされていた気がするんだよな。
まあ、この辺はいくら考えても正しい答えなんて出ないだろうし、追々情報を集めていくとするか。
簡単に身支度を整えると、俺は早速スミゲルを連れて貯蔵庫へ。
途中で出くわしたジェニーとローチも加わり、三人でやってきたわけだが……スミゲルもジェニーも俺がここへ来た理由についてはまったく見当がついていないようだ。
「収穫した野菜を確認するのですか?」
「それもあるが……もっと重要な案件だ」
なるべく領主としての威厳を保とうと、それっぽい話し方をする。
その後、貯蔵庫の内部へ足を踏み入れると、広さに比べて積まれている野菜の量の少なさに戸惑った。
「やはり少ないな」
「いかがいたしましょう。この量では御当主様は……」
スミゲルは少し怯えたように言う。
俺についてくるまでは長年父上のそばにいたらしいので、その怖さが分かるのだろう。
俺もソリス・アースロードの記憶の中にある父の姿を想像して震えたが、今は俺が怒られるかどうかよりも重要なことがある。
「スミゲル。すぐに荷台付きの馬車を手配してくれ」
「ど、どうされるおつもりですか?」
「この野菜を持ってリーノ村へ行く」
「リーノ村へ?」
質問をぶつけてきたのはジェニーだった。
ますます俺が意味不明な行動をしているので不安になったのだろう。
……ただ、これを話すと余計にふたりが混乱してしまうかもしれない。
「収穫した野菜を村民たちへ返す。自分たちが食べる分も困っているだろうからな」
「「「なっ!?」」」
三人とも、やっぱりそういう反応になるか――と、思いきや、スミゲルは急に何かを思いついたように手をポンと叩いた。
「この大量の野菜を領民に貸し付けてあとから金を取ろうと!」
いや、そんな鬼畜なマネしないし。
何サラッととんでもない発言してんだ。
まあ、以前の俺(ソリス)ならそう言い出してもおかしくはないけど。
「そんなことはしないぞ。というか、貸すのではなく供給する。食料がなければ働く気力も体力もなくなるからな。将来的にはそちらの方が痛手だ」
「ほ、本当にどうされたんですか、ソリス様」
ついに耐えきれなくなったジェニーから本音が漏れた。
「昨日、ベッドで横になりながら考えたんだ。どうしてここまで収穫量が少ないのか。その理由についてはリーノ村のゼリオル村長が丁寧に説明してくれていたが……俺は聞く耳を持たなかった」
「ソリス様……」
俺が真剣な眼差しで、かつ穏やかな口調のまま語り始めると、ジェニーもスミゲルも神妙な面持ちで耳を傾けてくれた。真面目に話しているっていうのは伝わったようだな。
安堵しつつ、そのまま続けた。
「この領地が持つポテンシャルはこんなものじゃないはずだ。そして、それを生かせる農家の人々はまさに宝。にもかかわらず収穫量が少ないのは領主である俺の責任だ。がなり立てて迫る以外に成すべきことをする……その重要性を思い知ったんだ」
俺が力強く宣言すると、ジェニーもスミゲルも最初こそポカンと口を半開きにして聞いていたが、やがてこちらの言葉の意味を脳がしっかりと理解したのか、ゆっくりとだが拍手をして賛成してくれた。
「そうと決まれば早速この食料の一部を農家の人々へと返し、彼らの空腹を満たせるようにしなければ」
「では、馬車の用意をしてまいります!」
「私は護衛隊のローチ殿へ声をかけてきます!」
スミゲルもジェニーもテンション高めに準備を始めた。
……しかし、これでうまくいくかどうかは未知数だ。
この地が農業に適しているのは事前の調査でハッキリしている。
それに収穫量が見合わないとしたら、考えられる可能性は農民たちのコンディション不良だろう。これについては俺の――いや、ソリスの記憶に刻まれたリーノ村の人たちの様子から断言できる。
俺には農業の知識がない。
どうしても専門家の力が必要となる。
これまで散々悪さをしてきた俺をリーノ村の人たちがそう簡単に許してくれるとは思えないが……こうなった以上、ありったけの誠意をもってぶち当たるしかないだろう。
「さて、どうなることやら……」
うまくいくのか。
あえなく失敗に終わるのか。
果たして、どちらに転ぶのか……
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