悪役豪農に転生した俺のまったり農業革命 ~死亡フラグを回避しつつ婚約者や領民たちと農作業を楽しみながらスローライフを満喫する!~

鈴木竜一

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第1話 気づいたら主人公に殺される悪役豪農だった

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 この日、俺は朝からイラついていた。
 農家は収穫の最盛期を迎えるはずなのだが、集まった作物は予定量の半分にすら満たない。
 
「これでは父上から文句をつけられるな……」

 レブガン王国一の豪農として知られるアースロード家の長男として、俺はこの農作地帯――ローエン地方の統治を任されており、領主となってからちょうど一年が経つ。

 今は領主となって初めてとなる収穫シーズンを迎えているため、ここでなんとか大きな成果をあげて父上に次期当主として相応しいところを見せたかったが……これでは無能者としての烙印を押されてしまう。

 最終的な納品の期限は三ヵ月後。

 今日は大事なスタートの日だというのにこの体たらくとは……これもすべては領民どもが無能だから起きたのだ。

「説明をしてもらおうか、村長」
「そ、それは……」

 俺が尋ねると、周辺農家の代表者であるリーノ村のゼリオル村長はひどく狼狽しながら理由を語り始めた。

「こ、今年は例年よりも寒い日が続き、さらに獣害も多く、また貿易の規制もあって肥料の価格が倍近くにまで高騰してしまったため、満足な農作業ができず――」
「それで俺の顔に泥を塗る、と?」
「い、いえ! 滅相もございません!」
「ならばどうする? たったこれっぽっちの収穫量では父上は満足されん。それどころか、ろくに農業もできん領民ばかりを抱えていると兄弟たちの間で笑い者となるだけだ」
 
 ゼリオル村長の他、集まった村人たちは何も返せずただ沈黙するだけだった。
 大人の男たちの中には怒りに拳を震わせている者もいるが、俺の背後には護衛の騎士や魔法使いたちが控えているため、殴りかかるようなマネはできないだろう。

 ふん!

 どいつもこいつも役立たずばかりだ。
 こうなったら、周辺の村を護衛の騎士や魔法使いに襲わせて収穫した野菜を強奪し、それで足りない分を賄うしかないか。
 
 とりあえず、作物をきちんと納められなかったこいつらには相応の罰が必要だな。
 それを告げようとした次の瞬間――近くの森から一体の魔物が飛び出してきた。

 そいつは巨大なイノシシ型の魔物であり、一直線にこちらへと突っ込んでくる。

「この忙しい時に……おい! 何をしている! さっさと仕留めろ!」

 俺は背後にいた護衛の騎士や魔法使いに命令するが、かなり大きな魔物ということもあってかなり手こずっているようだ。

 当然、野菜を作る以外に何の力もない村人たちはおたおたと逃げ回っている。
 するとその時、ひとりのガキが盛大にすっころんで泣きだした。

 その鳴き声に反応した猪型の魔物は、騎士や魔法使いたちの攻撃をもろともせずガキに向かって突進。

 ああ、死んだな。

 冷めた目で泣きじゃくるガキを眺めていた――次の瞬間、突然そのガキの姿に何かが重なった。

「っ!?」

 直後、なぜか俺は駆け出していた。
 自分でも理由はよく分からない。

 だが、なぜかあの子を助けなくてはという衝動にかられた。

 猪型の魔物に襲われそうになっているガキが、車にはねられそうになっている「あの子」と同じだと――って、あの子って誰だ? 車って何なんだ?

 細かな疑問が次々と湧いてくるが、それらは一旦無視して泣きじゃくるガキを抱きしめた。
 
 それからすぐに凄まじい痛みと衝撃が襲ってきて、体は宙を舞った。

 一体何が起きたのか、何も把握できないまま俺の意識は遠ざかっていった。


  ◇◇◇


 ――ここはどこだ?

 目を開けると、木造の天井が見える。

「お目覚めになりましたか、ソリス様」

 平坦な声でそう言ってきたのは家で雇っている治癒魔法使いのジェニーだった。

「ご気分はいかがでしょう?」

 表情ひとつ変えないといういつもの調子で尋ねてくるジェニー。

「……妙な感覚だな。まるで俺が俺じゃないような気がする」
「記憶の混濁でしょうか? まあ、五メートル近くある巨体の魔物にあれだけ勢いよく吹っ飛ばされたらそうもなりますよ。複数の骨が折れていましたし、出血もひどかったですから。首がもげていればさすがの私でも手の施しようがありませんでした。幸運でしたね……」

 まさに生死の境をさまよったってわけか。
 あと、なんか「幸運でしたね」って言った時にちょっと残念そうな顔してなかった?

 ……そういえば――

「なあ、ジェニー」
「なんでしょうか?」
「俺が抱きかかえたあの女の子は助かったのか?」
「っ!?」

ジェニーはなぜか強い衝撃を受けたような顔で俺の方を振り返り、手にしていた水の入った桶を床へと落した。
おかげでガシャーンという激しい音が響き渡り、それを耳にした者たちが部屋へと集まってくる。

「何事だ!」
「侵入者か!」

 現れたのはふたりの男性騎士。
 どちらも俺が雇った護衛役だ。

 確か、ふたりとも猪型の魔物と激しい戦闘を繰り広げていたっけ。
 名前は……

「ベック、デビット、君たちはさっきの戦いで怪我をしていないか?」
「「っ!?」」

 俺が体の状態を尋ねると、こちらもジェニーと同じくまるでこの世の終わりでも訪れたかのような表情をして構えていた剣を床へと落した。

 ていうか、みんなのリアクションおかしくないか?

「あ、あの、ソリス様? 本当に大丈夫ですか?」
「? 何も問題は――ぐっ!?」

 話しの途中で急に頭痛が襲ってきた。
 やがてその痛みは俺の頭の奥底に眠っていた記憶――それも、前世に関する記憶を引っ張り出してくる。

 大学を卒業して五年。
 立派な社畜として働いていた日本の若者。

 ある日、可愛がっている姪っ子の世話を姉から頼まれたので近所の公園へと遊びに行ったのだが、少し目を離した隙にあの子は道路へと飛び出してしまい、それを助けるために俺も道路へ出てあの子の抱きかかえると路肩へと放り投げたんだ。

 恐らく、俺はあの時に死んだんだ。
 泣きじゃくる姪っ子を見て、「助かったんだ」と安堵した瞬間、糸が切れたようにフッと意識を失った。

 そして、新たに命を授かったこの世界は……俺が最近ハマっている小説によく似ていた。

というか、ソリス・アースロードっていう名前に聞き覚えがあるんだよな。
 確か、社会人になってからハマった転生モノのラノベに出てきたような。

 ……いや、名前だけじゃない。

 頭の中にあるソリス・アースロードの記憶は、そのラノベに登場する同名のキャラの半生と酷似している。

 ということはつまり――俺はあのラノベの中に登場する悪役豪農一族のろくでなし長男に転生したのか!?

 だとしたらまずいぞ!
 あのラノベ通りに進んでいったら……数年後、俺は主人公に殺されるのだから!

「ヤ、ヤバすぎる……」
「どうかされましたか、ソリス様。やはりご気分が優れませんか?」
「大丈夫だ、ジェニー」
「とても大丈夫な人間のする顔色ではありませんけど?」

 ジェニーのヤツめ。
 いつもの調子に戻っているな。
 
 ただ、下手に警戒されるよりはそっちの方がマシか。

 そんなやりとりを終えた直後、部屋の外から何やら声が。
 
「こ、今度はなんだ?」

 兵士のひとりであるベックが事態を確認するため廊下へと出る。
 それからすぐに再び室内へと戻ってきた。

「ソ、ソリス様……実は先ほどソリス様が庇った少女とその両親がぜひ娘を助けたお礼を言いたいと屋敷の前に来ているそうです」

 何?
 ということは――

「あの子は無事だったのか。よかった」
「「「っ!?」」」

 三人の顔芸に磨きがかかった。
 ……まあ、しょうがないんだけど。

「分かった。通してくれ」
「しょ、承知しました。早急に追い返し――って、えぇっ!?」

 ベックは腰を抜かしほど驚いていた。
 そして驚愕の顔芸もさらにパワーアップしている。
 いやいや、いくらなんでも大袈裟すぎだろ。
 
 というか、お礼を言いに来てくれた親子を追い返すなんて……そうか。前世の記憶が戻る前のソリス・アースロードならきっとそう対応していただろう。そもそも子どもを助けたりはしないだろうから、こういった事態にすらならないと思うけど。

「とにかく会って話がしたいから通してくれ」
「は、はい」

 俺からの指示を受けると、ベックは大慌てで屋敷の玄関へ。
 それからしばらくして、例の親子が訪ねてきた。

 最初は頭に包帯を巻き、ベッドで横になっている俺を目の当たりにして両親は青ざめていたが、庇った幼い娘は小さな足でこちらへ駆け寄るとポケットから何かを取り出してそれを俺に渡した。

「これは?」
「栞です! お家の前にとっても綺麗な花が咲いていたので、お母さんに作り方を教えてもらいながら完成させました!」

 そう語る女の子の笑顔が、可愛がっていた姪っ子と重なって見えた。
 ……なるほど。
 だからあの時に危険を顧みず飛び出したのか。
 
 おかげで前世の記憶は完璧に戻ったよ。

「ほぉ……いい出来じゃないか」
「領主様にこれをプレゼントしたくて……助けてくれたお礼です!」
「俺にくれるのか? ありがとう。大切にしよう」

 笑顔でそう答えると、両親だけじゃなくジェニー、ベック、デビットの三人もまるでバケモノでも見るかのような目でこちらを凝視してくる。

 ……まあ、うん。

 そういう反応になるよな。
 前世の記憶が戻る前の俺は、子どもに対してあんな優しく接しなかったし。何か裏があるんじゃないかって疑われても仕方がない。

 ――ただ、それよりひとつ気になったことがある。

 栞をくれた子もその両親も……ひどく痩せていた。
 素人目にも栄養状態が良いとは言えない。

 三人は最後にもう一度お礼を言ってから屋敷を出ていった。

「やるべきことは決まったな」

 もらった栞をジッと眺めながら、俺はある決断を下す。


その日の夜。
見舞いに来てくれた親子の健康状態が心配で、その後出された夕食はまともに喉を通らなかった。

 俺はこうして温かい食事が提供されているけど、あの親子はきっと違うのだろう。
 そう思うと居ても立ってもいられなかった。

「スミゲル」
「はっ。なんでございましょうか」

 食事の後片付けをしていた白髪に白いカイゼル髭が似合う男性――執事たちのまとめ役をしているスミゲルへ声をかけた。

「少し確認したいことがあるから、明日の朝食前に貯蔵庫へ行く」
「貯蔵庫でございますか?」
「ああ。そこで詳しい話をする」
「か、かしこまりました」

 早朝から貯蔵庫へ向かうと聞き、スミゲルは不思議に思ったようだ。
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