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第308話 援軍

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「おまえたちがそこまで互いを想い合っているとはなぁ……」

 叫びに乗せたシルヴィアの想いは、父上に届いた――ように見えたが、

「しかし、それでも婚約は解消だ」
「なぜですか!」

 怒りのあまり声を荒げる。
 それに対し、父上は驚いた表情を浮かべた。恐らく、俺がここまで大声をあげて抵抗するとは予想していなかったのだろう。どうやら、父上の中にある俺の姿は、過去のボロ屋敷でふさぎ込んでいた頃のまま止まっているようだった。
 俺がジェロム地方でしてきたことの数々……それをもう少しだけでも知っていてもらえたなら、このような反応が返ってくると予想できたはずなのだ。

 父上は少し顔を引きつらせながら、解消の理由について説明を始めた。

「おまえにはもっと相応しい相手をあてがってやる。今の当主より息子たちはあらゆる面で力が劣る。ラクロワ家にもう用はない」
「っ!」

 やはり父上の頭の中には損得勘定しかない。
 それも浅はかで幼稚なものだ。

「……あなたのような短絡的な思考ではどのみちアインレット家を再興させることなどできません」
「な、なんだと!?」
「ラクロワ家には優秀な人たちもいます。父上はそれをご存じなのですか?」
「ぐっ……」

 どうやら、父上はラクロワ家の現状について当主のジェレミー様以外の情報を持ち合わせてはいないようだった。そんな浅知恵で威張り散らすから体よく利用されて領地運営の失敗を繰り返し、家計が火の車になったというのに……何も学んでいないんだな。

 もうひと押しすれば婚約破棄をなかったことにできそうだと思った直後、俺たちにとって予想外の援軍が。

「先ほどの話を詳しく聞かせていただけますか?」

 突然部屋の外から声がして、扉が開く。
 すると、三人の人物が入ってきた。

「な、なんだ、貴様ら――うっ!?」

 父上はノックもせずに室内へと入り込んだ者たちの無作法ぶりに怒りをぶちまけたが……その人たちを目の当たりにするとサーッと顔が青ざめていく。
 その三人とは――

「可愛い義弟と義妹の婚約破棄が一方的に決められたと聞いて抗議しに来ましたが……どうやら私とビシェルの婚約についても考え直す必要がでてきましたね」

 ひとりはビシェル兄さんの婚約者で国内でも強大な権力を持つビュフォード家ご令嬢のライザさん。

「僕はもう結婚してキャロラインと幸せに暮らしているけど……ロイスとシルヴィアには随分お世話になったからね。ふたりが婚約破棄を望んでいないというならキャロラインと一緒に少しお話をさせていただこうかと」

 もうひとりはキャロライン姉さんの夫であるヴィンクス家のジルベールさん。
 そして最後のひとりは――

「叔母として、愛する甥っ子姪っ子の結婚を邪魔しようというなら……鉄道都市バーロンはアインレット家との契約をすべて破棄させていただきましょう」

 母上の妹――つまり、俺にとっては叔母にあたるテレイザさんだった。
 ……たぶん、テレイザさんが一番ブチギレてるな。

 ともかく、ここに強力な援軍三銃士が揃ったのだった。
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