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第307話 シルヴィアの叫び

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 冷静に話をしなくちゃいけない。
 心の中で何度もそう呟いたが、父上の部屋に近づいていくと怒りが湧いてうまく感情をコントロールできそうになかった。

 けど、そんな俺の状態を見透かしていた人物がふたり。

「領主殿、一度深呼吸をして心を落ち着けましょう」
「ダイールさんの意見に私も賛成です」

 年長者であるダイールさんとテスラさんが俺の肩に手を添えながら告げる。ふたりは背中しか見えていないはずだが、それでも分かるくらい心が乱れていたらしい。

「ありがとうございます……」
「ロ、ロイス……」
「大丈夫だよ、シルヴィア。ふたりのおかげで視界が開けた気分だ」

 これは本心だった。
 ダイールさんとテスラさんが声をかけてくれるまでは、真っ直ぐ前しか見えていないような状況だった。入れ込みすぎでシルヴィアの存在さえ忘れていたくらいだ。この状態で父上と対面しても、きっとまともな話し合いは難しかっただろう。
 だからこそ、ふたりの助言はありがたかった。

 そして――ついに父上の部屋の前にたどり着いた。
 マナーとしてはノックをして返事を待つべきだろうが、正直、それをやっても入れてはもらえないだろうからこのまま突入する。

「父上!」
「っ!? ロ、ロイスか!? 一体何をしに来た!?」

 いきなりの訪問に父上は動揺。
 恐らく、仮に俺が訪ねてきても追い返せって命じていたからだな。この屋敷を出ていってから、ジェロム地方でどんな生活をしていたのか……恐らく知ろうとすらしなかったから、俺がどれだけ無属性魔法を扱えるか見当もつかなかっただろうな。

「追い返されそうだったので、押し入らせてもらいました」
「バ、バカな、屋敷の前には見張りの兵がいたはずだ!」
「彼らには少し休んでもらっています」
「何っ!?」

 父上からすれば、兵士たちがあっさりと俺を通したという事実が信じられないらしい。

「い、一体なんの用がここへ来た?」
「理由に関してはご自身が一番よく理解されていると思いますが?」
「……婚約破棄の件か」

 やはり分かっていたか。
 バツが悪そうに視線を外す父上。 
 俺たちだけじゃなく、シルヴィアも一緒というのが大きいんだろうな。

「説明をしてください。なぜ俺とシルヴィアの婚約を破棄するんですか?」
「わ、私も知りたいです。もし私に問題があるようでしたら改善できるよう努力します。ですから……ロイスと結婚させてください!」

 シルヴィア渾身の叫びがアインレット家の屋敷内に響き渡った。
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