無属性魔法って地味ですか? 「派手さがない」と見捨てられた少年は最果ての領地で自由に暮らす

鈴木竜一

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第303話 書状

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 うちの実家からシルヴィアの実家であるラクロワ家に届けられた書状。
 その内容がかなり衝撃的だったらしく、いつも落ち着いているテスラさんがひどく取り乱していた。幼い頃からの付き合いだが、あんな状態になった彼女を見るのは初めてだ。

 しかし、よく見ると動揺しているのはテスラさんだけじゃなく、ラクロワ家全体が騒然となっている様子。
 よほどめちゃくちゃな内容みたいだな。

 俺とシルヴィアも詳細を確認するために書状をチェックしようとする。メイドさんたちの話だと、どうやら今それを手にしているのはジェレミー様らしい。

 早速俺たちは部屋を訪ねてみようと動きだす――と、

「ち、父上!?」

 シルヴィアの声に反応して振り返ると、そこにはフラフラになりながらも杖を突いて歩いているジェレミー様の姿が。周りに立つ執事やメイドたちは心配そうにしているが止める様子はない。たぶん、散々注意勧告したのだろうが、聞き入れてもらえなかったのだろう。

 とにかく、俺たちも慌てて駆け寄る。
 恐らく、書状の内容について言いたいことがあるのだろう。

「大丈夫ですか、ジェレミー様!」
「父上、お部屋にお戻りください!」
「これだけは……伝えておかなくてはと思ってな」

 どうしても自分の口から伝えたい、という強い意志がうかがえた。
 重い病を患っているジェレミー様にここまでさせる書状の内容……父上は一体なんて書いたんだ?

「これを……」

 俺はジェレミー様から手渡された書状を受け取ると、それを広げて中身を確認する。
 しばらくして、

「っ!? そ、そんなバカな!?」

 あり得ない書状の内容に、俺は怒りを通り越して呆れた心境だった。


 そこには――俺とシルヴィアの婚約を解消すると書かれていたのだ。


 思わず書状を力任せに握り潰そうとしてしまうが、ギリギリのところでなんとか耐える。だが、あまりにも身勝手な父上の考えに、俺はやりきれない思いだった。

「こ、婚約を解消って……」

 シルヴィアも信じられないといった面持ちで青ざめている。
 あり得ない。
 せっかくテスラさんと一緒に三人でボロ屋敷を出て、一からジェロム地方を開拓していったというのに……きっと、相手がシルヴィアじゃなかったらあの辺境領地があそこまで成長することはあり得なかった。

 一体、父上は何を考えているのか。
 その真意を確認するためにも――一度アインレット家に乗り込む必要がありそうだ。
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