89 / 117
連載
第299話 実家
しおりを挟む
長距離移動を経て、俺たちはついにラクロア家の屋敷へとたどり着いた。
「す、凄いな……」
屋敷を目の当たりにしての第一声がそれだった。
言ってみれば、純粋な驚きだ。
ラクロア家は代々騎士団の幹部を務めてきた名家。現に長男のルーカスさんは次期騎士団長にもっとも近い存在と目されているし、次男のマーシャルさんだってすでに部隊を任され、注目を集めている。三男のオーウェンさんは……あんまりいい噂を聞かないな。初めて会った時の印象もよくないし。
到着後はメイドや執事たちが続々と屋敷から出てきた。
荷物を預け、マックを厩舎へと案内してもらっている間、久々に実家へと戻ってきたシルヴィアもみんな喜んで出迎える。
「お帰りなさいませ、シルヴィアお嬢様」
「お元気そうで何よりです」
「ただいま、マリーさん、メルシャさん」
親しげにメイドたちと話をするシルヴィア。
その表情はとても嬉しそうに見える。
幼少期の彼女は騎士への憧れを持ちながらも、「女だから」という理由だけで実力を認めてもらえなかったと聞いていたので、実家に対してあまりいい思い出がなかったんじゃないかって心配もしたけど、どうやら使用人たちとの関係は良好だったようだ。
俺もテスラさんがいてくれなかったらどうなっていたことやら。
「……テスラさん」
「なんでしょうか」
「いつもありがとう」
「っ! と、突然どうしたんですか?」
いつもクールなテスラさんが珍しく動揺している。
確かに、ちょっと脈絡がなさすぎたからなぁ……でも、感謝しているという気持ちは十分伝わったようだ。
「長旅でお疲れでしょう? さあ、こちらへ」
そうこうしているうちに、メイドさんたちの案内で屋敷内へと移動開始。
正直、今頃になってめちゃくちゃ緊張してきたんだけど、それを見透かしたかのようにある人物がフォローに駆けつけてくれた。
「待っていたぞ、ふたりとも」
「マーシャルさん!」
屋敷に入ろうとしたら扉が開き、中からマーシャルさんが出てきた。
「マ、マーシャル兄さんがどうしてここに?」
「君たちが父上と顔を合わせると聞いてな」
「? それだけの理由でここに?」
「……そうだ」
マーシャルさん……妹のシルヴィアをめちゃくちゃ心配して駆けつけたんだろうな。三兄弟の中では特に――というか、ぶっちぎりでシルヴィアを大事にしている人だから、確執のあった父との再会がどうなるか気になって仕方がなかったんだろうな。
「父上は中で待っている。今日は機嫌も体調もよさそうだし、話すなら絶好のタイミングだ」
「はい……」
返事をするシルヴィアだが、その表情が一気に強張った。
どうやら、父親を前に緊張が高まってきたらしい。
よく見ると、体もわずかに震えている。
そんな彼女を勇気づけたくて、俺は手を握った。
「ロ、ロイス!?」
「行こう、シルヴィア」
「っ! ……ああ、そうだな。ロイスと一緒なら、きっと大丈夫だ」
どうやら落ち着いたみたいだな。
さて、どうなることやら。
「す、凄いな……」
屋敷を目の当たりにしての第一声がそれだった。
言ってみれば、純粋な驚きだ。
ラクロア家は代々騎士団の幹部を務めてきた名家。現に長男のルーカスさんは次期騎士団長にもっとも近い存在と目されているし、次男のマーシャルさんだってすでに部隊を任され、注目を集めている。三男のオーウェンさんは……あんまりいい噂を聞かないな。初めて会った時の印象もよくないし。
到着後はメイドや執事たちが続々と屋敷から出てきた。
荷物を預け、マックを厩舎へと案内してもらっている間、久々に実家へと戻ってきたシルヴィアもみんな喜んで出迎える。
「お帰りなさいませ、シルヴィアお嬢様」
「お元気そうで何よりです」
「ただいま、マリーさん、メルシャさん」
親しげにメイドたちと話をするシルヴィア。
その表情はとても嬉しそうに見える。
幼少期の彼女は騎士への憧れを持ちながらも、「女だから」という理由だけで実力を認めてもらえなかったと聞いていたので、実家に対してあまりいい思い出がなかったんじゃないかって心配もしたけど、どうやら使用人たちとの関係は良好だったようだ。
俺もテスラさんがいてくれなかったらどうなっていたことやら。
「……テスラさん」
「なんでしょうか」
「いつもありがとう」
「っ! と、突然どうしたんですか?」
いつもクールなテスラさんが珍しく動揺している。
確かに、ちょっと脈絡がなさすぎたからなぁ……でも、感謝しているという気持ちは十分伝わったようだ。
「長旅でお疲れでしょう? さあ、こちらへ」
そうこうしているうちに、メイドさんたちの案内で屋敷内へと移動開始。
正直、今頃になってめちゃくちゃ緊張してきたんだけど、それを見透かしたかのようにある人物がフォローに駆けつけてくれた。
「待っていたぞ、ふたりとも」
「マーシャルさん!」
屋敷に入ろうとしたら扉が開き、中からマーシャルさんが出てきた。
「マ、マーシャル兄さんがどうしてここに?」
「君たちが父上と顔を合わせると聞いてな」
「? それだけの理由でここに?」
「……そうだ」
マーシャルさん……妹のシルヴィアをめちゃくちゃ心配して駆けつけたんだろうな。三兄弟の中では特に――というか、ぶっちぎりでシルヴィアを大事にしている人だから、確執のあった父との再会がどうなるか気になって仕方がなかったんだろうな。
「父上は中で待っている。今日は機嫌も体調もよさそうだし、話すなら絶好のタイミングだ」
「はい……」
返事をするシルヴィアだが、その表情が一気に強張った。
どうやら、父親を前に緊張が高まってきたらしい。
よく見ると、体もわずかに震えている。
そんな彼女を勇気づけたくて、俺は手を握った。
「ロ、ロイス!?」
「行こう、シルヴィア」
「っ! ……ああ、そうだな。ロイスと一緒なら、きっと大丈夫だ」
どうやら落ち着いたみたいだな。
さて、どうなることやら。
74
お気に入りに追加
5,752
あなたにおすすめの小説
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
チートなタブレットを持って快適異世界生活
ちびすけ
ファンタジー
勇者として召喚されたわけでもなく、神様のお告げがあったわけでもなく、トラックに轢かれたわけでもないのに、山崎健斗は突然十代半ばの少し幼い見た目の少年に転生していた。
この世界は魔法があるみたいだが、魔法を使うことが出来ないみたいだった。
しかし、手に持っていたタブレットの中に入っている『アプリ』のレベルを上げることによって、魔法を使う以上のことが出来るのに気付く。
ポイントを使ってアプリのレベルを上げ続ければ――ある意味チート。
しかし、そんなに簡単にレベルは上げられるはずもなく。
レベルを上げる毎に高くなるポイント(金額)にガクブルしつつ、地道に力を付けてお金を溜める努力をする。
そして――
掃除洗濯家事自炊が壊滅的な『暁』と言うパーティへ入り、美人エルフや綺麗なお姉さんの行動にドキドキしつつ、冒険者としてランクを上げたり魔法薬師と言う資格を取ったり、ハーネと言う可愛らしい魔獣を使役しながら、山崎健斗は快適生活を目指していく。
2024年1月4日まで毎日投稿。
(12月14日~31日まで深夜0時10分と朝8時10分、1日2回投稿となります。1月は1回投稿)
2019年第12回ファンタジー小説大賞「特別賞」受賞しました。
2020年1月に書籍化!
12月3巻発売
2021年6月4巻発売
7月コミカライズ1巻発売
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜
西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。
4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。
そんな彼はある日、追放される。
「よっし。やっと追放だ。」
自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。
- この話はフィクションです。
- カクヨム様でも連載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。