無属性魔法って地味ですか? 「派手さがない」と見捨てられた少年は最果ての領地で自由に暮らす

鈴木竜一

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第297話 シルヴィアの選択

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 ジェロム地方に戻ってからも、シルヴィアは悩み続けていた。
 俺としてもなんて声をかけていいのやら……明確な答えを見つけられないでいる。

 シルヴィアは迷いを打ち消すように鍛錬用の木剣を振るう時間が増えた。

「大丈夫かな、シルヴィア……」

 窓の外から一心不乱に剣を振るう彼女を見て、俺はそう呟くことしかできない。これでは婚約者失格だ。シルヴィアのために俺ができることは……

「静かに見守るのもまた大事だと私は思いますよ、ロイス様」

 優しい声でそう言ってくれたのはテスラさんだった。
 振り返ると、エイーダやフィーネのふたりも心配そうな表情でこちらを見つめている。

「今回のお話に関しては、ロイス様になんの落ち度もありません。ラクロア家の問題です」
「そ、それはそうなんだけどさ……」

 頭では理解している。
 でも、心が追いつかない。
 悩んでいるシルヴィアの力になりたいんだ。

 なんとも言えない感情が胸中に渦巻く中、鍛錬を終えたシルヴィアが戻ってきた。

「あ、あの、シルヴィア……?」

 いつものようにと注意しながらも、動揺を隠しきれなかった。
 挙動不審な俺に対して、

「うん? どうした?」

 タオルで汗を拭きながらこちらへと視線を向けるシルヴィア――その表情は先ほど剣を振るっていた時とは違い、どこか晴れやかさがうかがえた。

「いや、その、どうするのかなって……」
「父上の件か?」

 なんだか直接口にするのは悪い気がして遠回しに言ってみたが、シルヴィアはあっさりとしていた。ただ、それまでの態度からどう決断をしたのかについてはすぐに察せられた。

「会いに行くよ」

 迷いのない笑顔とともに、シルヴィアは導きだした結論を教えてくれる。

「いいのか?」
「いずれは行かなくてはいけないと思いつつ、なかなか行動に移せなかったからな。あと、ひとつお願いがあるのだが」
「何?」
「ロイスにもついてきてもらいたいんだ」
「もちろんだよ」

 断る理由なんてない。
 そもそも、いずれは夫となる立場なんだから顔を合わせておく必要がある。そりゃあ、俺たちの結婚はいわゆる政略結婚であり、向こうは俺になんて興味ないかもしれないけど……それでも、やっぱり一度は会わなくちゃな。

「よし。そうと決まったらラクロワ家に向かおう」
「ここからですとかなり移動時間がかかりますので、明朝の出発がよろしいかと」
「あっ、そ、そうか」

 テスラさんからの冷静なツッコミ。
 ふと視線をそちらへ移すと、どこか嬉しそうに見える。 
 さてはこうなることを最初から分かっていたな?
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