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【書籍第1巻発売記念SS】とあるメイドたちの華麗な一日
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「それじゃあ、いってきます」
「夕方には戻ってきますから」
「かしこまりました。ロイス様もシルヴィア様もお気をつけて」
同じメイドのエイーダとともに、主人であるロイスとシルヴィア、そして護衛を務めるダイールとレオニーの四人を見送る。
このジェロム地方へと移住してからしばらく経つが、ここ最近はこのような朝を過ごすことが多くなった。
「それでは、私たちは私たちの仕事をしましょうか」
「はい!」
屋敷メイドであるテスラとエイーダにとって、ここからが仕事の本格的なスタート。
まずは洗濯、それから部屋の掃除、それらがひと通り片付く頃にはお昼近くになるため、自分たちの食事の用意。それを済ませると今度は庭の手入れを行い、ひと段落着いたらようやく休憩となる。
当初、このハードなスケジュールはエイーダにとって厳しいだろうとテスラは想定していた。まだ自分がオルランド家にいた時に新入りメイドの教育係を任命されたこともあったが、中にはついていけずに辞める者も少なくない。
だが、エイーダは違った。
前向きな性格と父親譲り(?)の体力でこれを乗り切ったのである。正直言って、これまで見てきたどの新入りメイドたちよりも将来有望な人材だった。
「では、そろそろお茶にしましょうか」
「はーい!」
テスラの呼びかけに元気よく返事をするエイーダ。
その時、
「こんにちはー」
玄関の方から女性の声がした。
「あら、来客のようですね」
「誰かな?」
ふたりは来客を出迎えるため、玄関へと向かう。扉を開けると、そこにはよく見知った少女が立っていた。
「あっ、テスラさん」
「ユリアーネ様でしたか」
近くで書店を運営しているユリアーネだった。彼女は領主であるロイスやその婚約者のシルヴィアと面識があり、親しい間柄。読書が趣味というロイスは、無属性魔法に関する魔導書や趣味で楽しむ小説をユリアーネの店でよく買っていた。
そのつながりから、ユリアーネは屋敷を訪れる機会が多く、そのうちにテスラやエイーダとも仲良くなっていた。
「領主様に頼まれていた本が入荷したので持ってきたのですが……もう行っちゃったみたいですね」
「はい。ですので、こちらで預かっておきます」
「お願いします」
ユリアーネから本を手渡された後、帰ろうとする彼女へ、
「あの、ユリアーネ様」
「はい?」
「よければこれから一緒にお茶などいかがですか?」
「私たちちょうど休憩に入るんだ! テスラさんの作ったおいしいケーキもあるよ!」
「!? ぜ、ぜひ! ちょっとお店を臨時休業にしてきます!」
そう言うと、ユリアーネは全力疾走で店へと戻っていった。
――数分後。
準備を整えて合流したユリアーネとともに、まったりとしたティータイムを楽しむ。女子三人が集まってのトーク――しかし、その内容はまるで女子らしくない、ロイドの領地運営に関するものが中心だった。
そんな楽しい時間はあっという間に過ぎ、気がつくと夕暮れが迫っている。
「いけない! そろそろ戻らなくちゃ!」
店へ戻るユリアーネを見送ると、タイミングを見計らったかのようにロイスたちが山の探索から戻ってきた。
「あれ? こんな時間に外にいるなんて……どうかしたの、ふたりとも」
「いえ、なんでもありませんよ。すぐに夕食の用意をいたします」
テスラはわずかに微笑むと、エイーダと一緒に屋敷へと入っていく。
メイドたちの一日は、まだ終わらない。
「夕方には戻ってきますから」
「かしこまりました。ロイス様もシルヴィア様もお気をつけて」
同じメイドのエイーダとともに、主人であるロイスとシルヴィア、そして護衛を務めるダイールとレオニーの四人を見送る。
このジェロム地方へと移住してからしばらく経つが、ここ最近はこのような朝を過ごすことが多くなった。
「それでは、私たちは私たちの仕事をしましょうか」
「はい!」
屋敷メイドであるテスラとエイーダにとって、ここからが仕事の本格的なスタート。
まずは洗濯、それから部屋の掃除、それらがひと通り片付く頃にはお昼近くになるため、自分たちの食事の用意。それを済ませると今度は庭の手入れを行い、ひと段落着いたらようやく休憩となる。
当初、このハードなスケジュールはエイーダにとって厳しいだろうとテスラは想定していた。まだ自分がオルランド家にいた時に新入りメイドの教育係を任命されたこともあったが、中にはついていけずに辞める者も少なくない。
だが、エイーダは違った。
前向きな性格と父親譲り(?)の体力でこれを乗り切ったのである。正直言って、これまで見てきたどの新入りメイドたちよりも将来有望な人材だった。
「では、そろそろお茶にしましょうか」
「はーい!」
テスラの呼びかけに元気よく返事をするエイーダ。
その時、
「こんにちはー」
玄関の方から女性の声がした。
「あら、来客のようですね」
「誰かな?」
ふたりは来客を出迎えるため、玄関へと向かう。扉を開けると、そこにはよく見知った少女が立っていた。
「あっ、テスラさん」
「ユリアーネ様でしたか」
近くで書店を運営しているユリアーネだった。彼女は領主であるロイスやその婚約者のシルヴィアと面識があり、親しい間柄。読書が趣味というロイスは、無属性魔法に関する魔導書や趣味で楽しむ小説をユリアーネの店でよく買っていた。
そのつながりから、ユリアーネは屋敷を訪れる機会が多く、そのうちにテスラやエイーダとも仲良くなっていた。
「領主様に頼まれていた本が入荷したので持ってきたのですが……もう行っちゃったみたいですね」
「はい。ですので、こちらで預かっておきます」
「お願いします」
ユリアーネから本を手渡された後、帰ろうとする彼女へ、
「あの、ユリアーネ様」
「はい?」
「よければこれから一緒にお茶などいかがですか?」
「私たちちょうど休憩に入るんだ! テスラさんの作ったおいしいケーキもあるよ!」
「!? ぜ、ぜひ! ちょっとお店を臨時休業にしてきます!」
そう言うと、ユリアーネは全力疾走で店へと戻っていった。
――数分後。
準備を整えて合流したユリアーネとともに、まったりとしたティータイムを楽しむ。女子三人が集まってのトーク――しかし、その内容はまるで女子らしくない、ロイドの領地運営に関するものが中心だった。
そんな楽しい時間はあっという間に過ぎ、気がつくと夕暮れが迫っている。
「いけない! そろそろ戻らなくちゃ!」
店へ戻るユリアーネを見送ると、タイミングを見計らったかのようにロイスたちが山の探索から戻ってきた。
「あれ? こんな時間に外にいるなんて……どうかしたの、ふたりとも」
「いえ、なんでもありませんよ。すぐに夕食の用意をいたします」
テスラはわずかに微笑むと、エイーダと一緒に屋敷へと入っていく。
メイドたちの一日は、まだ終わらない。
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