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第133話 涙の訴え

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ジャンの言葉を受けた途端、酒場に集まっていた男たちの目の色が変わる。

「ほ、本当なのか?」
「し、信じられるかよ」
「いや、少しでも可能性があるなら俺はその話に乗りたい」

 視線を集めるのは全員一緒でも、発した言葉はそれぞれ違っていた。そこがまた各個人の事情が透けて見えて、この町の闇の深さを感じさせられる。
 だが、反応こそ異なるものの、そこから覗く全員の願望は――この町から抜けだしたいというもので一致していた。
 俺はその部分を強調して伝える。

「落ち着いて聞いてもらいたい。俺はセラノス王都からこの町を調査しにやってきた者だ」
「「「「「っ!?」」」」」

 店内のざわめきが一層強まった。
 
「お、王都の者が何をしに来たんだ?」
「とある商会からタレコミがあったんだ。この町では違法な取引などが行われていると――たとえば奴隷商とか、取り扱いが禁じられている魔草とか」
「うっ……」

 ジャンをはじめ、周りの男たちはみんな思い当たる節があるようで俯いてしまう。だが、逆に言えば、全員やりたくもないことを半ば強制的にやらされ、それに対する罪悪感を覚えているような反応であった。

「顔を上げてくれ。もう二度とそんなマネをしないよう、ここの黒幕を叩いて抜けだそうじゃないか」

 なんとか彼らにも立ち上がるきっかけを持ってもらいたくてそう呼びかける。
 
「……俺は嫌だ」

 まず声をあげたのはここまで案内してくれたジャンだった。

「これ以上、ヤツらの悪事に加担するようなマネはもうしたくねぇ。俺はガキの頃からの夢だった一流の冒険者になる道を歩き直したい……」

 涙ながらに、ジャンは訴えた。
 恐らく、これまでに自分が犯してきた罪を思い返しているのだろう。
 きっとそれは自分が望んでいた未来の姿じゃなかった。彼自身が語ったように、本来は一流の冒険者となろうと鍛錬を重ねていたはずなのだ。
 
 ジャンの告白をきっかけに、周りからは次々と嗚咽が聞こえてきた。
 みんな、思いはひとつなのだ。

 とはいえ、これまでの犯罪行為が見過ごされるわけじゃない。彼らは事件が片付いたあとで騎士団に捕まるだろう――が、事件の黒幕が発覚し、強制されていたと分かれば罪は軽くはずだ。

 そのためにも、ジャンたちから得られる情報は大きな鍵となる。
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