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第39話 レークの計画

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 コロシアムは熱気に包まれていた。

 主に男子生徒からの声援を一身に受けて、俺は舞台へと立つ。
 立ちはだかるように現れたウォルトンの表情は自信に溢れていた。

 負けることなどまったく想定していないって感じだな。
 その力も、本来はクレアから奪い取ったようなものなのに……それを自分自身の実力だと勘違いしている。

 だが、逆に考えれば、ヤツの持つ力はクレアの持つものと同等ってことになる。
 ウォルトン自身に怖さはないが、クレアが育てた魔草たちは脅威となり得るからな。

「それではただいまより決闘を始めますわ!」

 トリシア生徒会長の掛け声とともに、学園の象徴とも呼べる時計塔の鐘が鳴り響く。
 直後、コロシアム内はこれまで以上の歓声で揺れた。
 
「さて……まずは相手の出方をうかがうか」

 ヤツには戦闘中の間、徹底的に煽りまくってボロを出させる。
 もちろん、俺が聞いていたというだけでは信憑性に欠ける――なので、クレイグの時に使った録音機能付き水晶を用意していた。

 ただ、以前と同じ代物だとすぐにバレてしまう。
 以前から俺はルチーナに水晶を小型化するよう依頼していた。
 クレアとの騒動が始まる前に完成してくれていてよかったよ。

 これでヤツの悪事をバッチリ記録できる。

 残すは戦闘だが……こちらは魔銃を封印しているが、万が一の時に使用できるよう懐に忍ばせてはいた。

 一方、ウォルトンはキザったらしく制服の胸ポケットに挿していた黄色い花を手にする。

「この一輪の花でおまえを倒してみせよう」

 腹立たしいくらい格好をつけながら宣言した途端、女生徒たちの声援のボリュームが一層増した。
 あの花……クレアが書庫の中庭で育てていたものだな。
 形状はバラに似ている。
 しかし、よくもまあ恥ずかしげもなくあんな風に高々と掲げられるものだ。

「【雷の花サンダー・フラワー】――商人である君には馴染みのない花かな?」

 花を宙に放り投げると、一瞬の閃光があり、それからすぐに激しい雷となって俺の方へと迫ってくる。

「悪いが……これで終わりじゃないぞ」

 ウォルトンはさらにもう一輪の緑色をした花を取り出すと、同じように放り投げた。あれはアネモネに似ているな。

「目では捉えきれない【風の花ストーム・フラワー】の猛攻をかわせるかな?」

 風と雷の連携攻撃。

 ――見栄えはいい。

 音も大きいし、威力も十分。
 さすがはクレアの育てた魔草だな。

 下手な魔法使いの放つ属性魔法よりずっと強力だ。
 ますます彼女が欲しくなってきたよ。

「どうした! 怖気づいて足がすくんだか! ケンカを売る相手を間違えたと後悔したところでもう遅いんだよ!」

 それにしてもよく喋るなぁ。
 昔はここまで饒舌じゃなかったぞ。

 クレアの魔草の影響でだいぶ強気になったようだな。

 あの魔法だって派手で見栄えはいい――が、それだけだ。
 使用者の実力がともなっていなければ、恐れることはない。

 俺は迫りくる雷撃と風の刃を必要最低限の距離でかわしていく。

「っ!? バ、バカな!?」

 ウォルトンが脳内で描いている世界では、きっともう決着はついているのだろう。
 俺のボロ負けに終わり、大衆の面前で生き恥を晒している光景を想定していたようだが、残念ながらそれは実現しない。

 這いつくばって地面を舐めるのがどちらになるのか。
 ヤツの残念な知能でもそろそろ理解できた頃かな。

「お、俺の攻撃が当たらないはずがない! 魔草だ! 魔草が悪いんだ! この俺の思い描いたような結果を出さない魔草がすべて悪いんだ! この役立たずがぁ!」

 ここへきてもまだ自分の実力不足を認めないか。
 クレアの仕事は完璧だ。
 それを扱いきれないウォルトンの方に責任がある。

 ……まあ、あの様子じゃ一生認めないんだろうけどな。

 取り乱すヤツまでの距離を一気に詰めると、俺は拳を強く握りしめる。

「クレアが負った心の痛みをおまえの体に刻み込んでやる」
「ひっ!?」

 短い悲鳴をあげ、両腕をばたつかせてガードをしているつもりなのだろうが……そんなみっともない動きで止められるはずがない。

俺は渾身の右ストレートをヤツの顔面に叩き込む。

 鼻がグニャリと曲がり、体は捻じれるように回転しながら吹っ飛んでいく。
 
 まずは文字通りの先制パンチ。
 これで幾分か気持ちがスッとした。

 さあ、ここからが本番だ。

少しずつウォルトンを煽り、ボロを出させつつもプライドをズタズタに引き裂く。
ヤツがクレアにしてきたことを後悔するまでやめるつもりはない。

 とりあえず追撃をしようと近づこうとした――すると、突然数人の学園職員たちがステージへとあがり、倒れているウォルトンへと駆け寄った。

 おいおい、まさかここまで露骨にヤツを擁護する気か?
 時間を稼ごうって魂胆なんだろうが無駄なことだ。

 しばらくすると、ひとりの職員が腕で大きな「×」印を描く。

「えっ?」

 ま、まさか……込み上げてくる嫌な予感は現実のものとなった。

「勝負あり! レーク・ギャラードの勝利!」

 トリシア生徒会長が勝利者として俺の名を叫んだ。
 ……いや、ちょっとまて!?
 こっちはまだ実力の三割も出していないんだぞ!?
 まだ準備運動レベルだったのに!?
 いくらなんでも弱すぎるだろ!?

 今度は俺が困惑する番だった。
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