上 下
30 / 51

第30話 怪しい兄妹

しおりを挟む
 コニーの状態が元通りとなり、平穏な学園生活が戻って――来るとよかったのだが、そもそも入学してから割とトラブル続きだったことを考えるとまた近いうちに何かあるのではないかと勘繰ってしまう。

 とりあえず何もないことを祈りつつ、魔封石の指輪を送った次の日はトリシア生徒会長に経緯を報告するため生徒会室へとやってきていた。

「話はクレアからも聞いていますわ」

 図書館に引きこもる禁忌書庫の魔女ことクレア・メルツァーロがすでに報告(という名の愚痴)していたらしく、生徒会長はほとんど詳細を把握していた。

「まったく、わたくしに愚痴をこぼすくらいなら授業にちゃんと出て留年しないよう努力をすればいいのに……よっぽど指輪を渡されたのが堪えたようですわね」
「しかし、彼女の家柄を考えれば、もっとちゃんとした宝石をあしらった指輪を買えるはずでは?」
「あなたの言い分は理解できるけど……あの子にとって、値段とか豪華さは判断基準に含まれていませんわ」
「なら、何を基準に?」
「それをわたくしの口から語るのは野暮というものですわ」

 よく分からんが、クレアにも何か穴埋めをした方がいいのだろうな。
 これについては指輪以外で何か考えるか。

「まあ、クレアに元気が戻ったというのは友人として喜ばしいことですが」
「そういえば、それもずっと気になっていたんです。どうしてクレアは図書館の一角に引きこもっているのですか?」

 本人に直接尋ねるのはちょっと抵抗があったので、生徒会長へ聞いてみる――が、やはり答えは想像通りのものであった。

「それもわたくしの口から語ることではありませんわね」
「まあ、そうですよね」
「ですが、ヒントをひとつあげましょう」

 トリシア会長はそう告げるとゆっくり窓へ移動し、何やら外を指さす。
 俺も窓に近づいて見てみると、そこにはひとりの男子生徒とそれを取り囲むように複数人の女子生徒が。
 絵に描いたようなハーレムの図が広がっていた。

 ただ……その男子生徒の顔がなんとなくクレアに似ているような気が。

「あの男子生徒……クレアに似ていませんか?」
「当り前ですわ。彼は――クレアの兄のウォルトン・メルツァーロですもの」
「っ!? ウォルトン……そういえばいたな、そんなヤツ」

 思い出される過去の記憶。
 そうだ。
 クレアには兄がいた。

 エリート思考が強くてプライドが高い。
 何よりも面子を重んじるお手本のような小物。

 それが俺の抱くウォルトン・メルツァーロの印象だ。
 なんとなくクレイグ先生に似たスペックだな。

「しかし、ヤツは落ちこぼれという噂を耳にしていましたが……学園に入れたのはひとえに聖院の力ですか?」
「そういうわけではありませんわ。彼には魔草を扱う優れた技術と知識があるようですわ。学園側もそれを認めているという話」

 ウォルトンが魔草薬の扱いに長けている?
 俺が幼い頃から聞いていたヤツの情報とは相違があるな。

 そりゃあ、努力をして力をつけたという可能性もなくはないが、あの態度を見る限りそれはなさそうに思えるのだが。

「彼が気になりますの?」
「……そうですね。俺の知るウォルトン・メルツァーロとはあまりにも違いがありすぎます」
「わたくしも同意見ですわ。もっとも、彼の過去については何も知りませんが、少なくとも本当に魔草薬に精通しているかどうかは眉唾物と思います」
「では、学園側がメルツァーロ家に忖度を?」
「その可能性もないでしょう――が、必ず何かカラクリがあるはずですわ」

 カラクリ、か。
 トリシア会長もヤツが実力で好成績を修めているとは思っていないらしい。

「妹のクレアからは情報を得られなかったんですか?」
「あそこの兄妹は長らく疎遠らしくて、彼女も詳しいことは分からないそうですわ」

 言われてみれば、昔から仲は良くなかったな。
 俺とクレアは気が合ってよく遊んだけど、兄のウォルトンは誰ともかかわろうとしなかったし。

「よければ調べてみてくださらない?」
「どうして俺が」
「あら、てっきり彼のことが気になっているのだとばかり」
「……まあ、少しくらいなら」

 相変わらず人の心がのぞけるんじゃないかってくらい鋭いな、会長さんは。
 とはいえ、まったく気にならないかと言えば嘘になる。

 俺は魔草薬師としてクレアを商会へ勧誘するつもりでいるが、兄のウォルトンがちょっかいをかけてくる可能性はあるからな。

 ルチーナとコニーにも声をかけて身辺調査と行くか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

稀代の大賢者は0歳児から暗躍する〜公爵家のご令息は運命に抵抗する〜

撫羽
ファンタジー
ある邸で秘密の会議が開かれていた。 そこに出席している3歳児、王弟殿下の一人息子。実は前世を覚えていた。しかもやり直しの生だった!? どうしてちびっ子が秘密の会議に出席するような事になっているのか? 何があったのか? それは生後半年の頃に遡る。 『ばぶぁッ!』と元気な声で目覚めた赤ん坊。 おかしいぞ。確かに俺は刺されて死んだ筈だ。 なのに、目が覚めたら見覚えのある部屋だった。両親が心配そうに見ている。 しかも若い。え? どうなってんだ? 体を起こすと、嫌でも目に入る自分のポヨンとした赤ちゃん体型。マジかよ!? 神がいるなら、0歳児スタートはやめてほしかった。 何故だか分からないけど、人生をやり直す事になった。実は将来、大賢者に選ばれ魔族討伐に出る筈だ。だが、それは避けないといけない。 何故ならそこで、俺は殺されたからだ。 ならば、大賢者に選ばれなければいいじゃん!と、小さな使い魔と一緒に奮闘する。 でも、それなら魔族の問題はどうするんだ? それも解決してやろうではないか! 小さな胸を張って、根拠もないのに自信満々だ。 今回は初めての0歳児スタートです。 小さな賢者が自分の家族と、大好きな婚約者を守る為に奮闘します。 今度こそ、殺されずに生き残れるのか!? とは言うものの、全然ハードな内容ではありません。 今回も癒しをお届けできればと思います。

ノンケDK♡痴漢メス堕ち♡性処理担当

BL
真面目でノンケなDK、「結城陸」が痴漢に遭い、未挿入で散々アクメでメス堕ちさせられたのち、同級生から襲われてハメハメ♡ドスケベ性活を謳歌するようになる話。フィクションとして切り分けてお楽しみください。 Skebでのコミッション作品です。ありがとうございました! pixiv/ムーンライトノベルズにも同作品を投稿しています。   なにかありましたら(web拍手)  http://bit.ly/38kXFb0   一次Twitter垢・拍手返信はこちらから行っています https://twitter.com/show1write

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

シンデレラ。~あなたは、どの道を選びますか?~

月白ヤトヒコ
児童書・童話
シンデレラをゲームブック風にしてみました。 選択肢に拠って、ノーマルエンド、ハッピーエンド、バッドエンドに別れます。 また、選択肢と場面、エンディングに拠ってシンデレラの性格も変わります。 短い話なので、さほど複雑な選択肢ではないと思います。 読んでやってもいいと思った方はどうぞ~。

【完結】数十分後に婚約破棄&冤罪を食らうっぽいので、野次馬と手を組んでみた

月白ヤトヒコ
ファンタジー
「レシウス伯爵令嬢ディアンヌ! 今ここで、貴様との婚約を破棄するっ!?」  高らかに宣言する声が、辺りに響き渡った。  この婚約破棄は数十分前に知ったこと。  きっと、『衆人環視の前で婚約破棄する俺、かっこいい!』とでも思っているんでしょうね。キモっ! 「婚約破棄、了承致しました。つきましては、理由をお伺いしても?」  だからわたくしは、すぐそこで知り合った野次馬と手を組むことにした。 「ふっ、知れたこと! 貴様は、わたしの愛するこの可憐な」 「よっ、まさかの自分からの不貞の告白!」 「憎いねこの色男!」  ドヤ顔して、なんぞ花畑なことを言い掛けた言葉が、飛んで来た核心的な野次に遮られる。 「婚約者を蔑ろにして育てた不誠実な真実の愛!」 「女泣かせたぁこのことだね!」 「そして、婚約者がいる男に擦り寄るか弱い女!」 「か弱いだぁ? 図太ぇ神経した厚顔女の間違いじゃぁねぇのかい!」  さあ、存分に野次ってもらうから覚悟して頂きますわ。 設定はふわっと。 『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』と、ちょっと繋りあり。『腐ったお姉様~』を読んでなくても大丈夫です。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

異世界往来の行商生活《キャラバンライフ》:工業品と芸術品でゆるく生きていくだけの話

RichardRoe(リチャード ロウ)
ファンタジー
【短いあらすじ】 ・異世界と現世を往来できる不思議な鏡を見つける ・伝統工芸品を高値で売りさばいて大儲けして、裕福な生活を送る ・ホームセンターは最強() 【作品紹介】 「異世界と日本を行き来できるって、もしかしてすごく儲かるんじゃないか……!?」  異世界に転移できる鏡を見つけてしまった灰根利人(はいね りひと)。転移した先は、剣と魔法のいわゆるナーロッパ世界。  二つの世界を見比べつつ、リヒトは日本の物を異世界に持ち込みつつ、日本にも異世界の映像などを持ち込むことで一儲けすることを企むのだった――。  可愛い亜人娘たちに囲まれる生活もいいが、コツコツ副業に精を出すのもいい。  農業、商業、手工芸、あれもこれもと手を出して進める。  そんな異世界まったりスローライフ物語。 ※参考:出てくる工芸品・織物等(予定含む)  江戸切子  津軽塗(唐塗梨子地)  九谷焼(赤色金襴手)  ベルナルド<エキュム・モルドレ>  シフォン生地のシュミーズ  ベルベット生地(天鵞絨)  カガミクリスタル<月虹>  西陣織(金襴生地・七宝柄)  マイセン<ノーブルブルー> ※参考:出てくる金儲けネタ(予定含む)  しいたけ栽培  Amazon Kindle出版  キャンドル作り  仮想通貨マイニング  歌ってみた  Vtuber稼業  イアリング作り  ライトセイバーバトル ※参考:出てきた魔道具(予定含む)  遠見の加護の首飾り  快眠の指輪  匂いくらましの指輪  深呼吸の指輪  柔軟の加護の耳飾り  暗視の加護の首飾り  鼻利きの加護の指輪  精神集中の指輪  記憶の指輪

処理中です...