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第22話 交易都市ガノスの新しい日々

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 交易都市ガノスを裏から支配していたザルフィン一味は全員御用となった。
 ルチーナの通報を受け、先に騎士団が到着。

 我が商会のオリジナルアイテムである魔鉱石製の拘束具で身動きを封じられたザルフィンたちは次々と護送用の馬車へと乗せられていく。

 俺はボスであるザルフィンからコニーの出生について知っていることを話しもらおうとしたが、さすがにその許可は下りなかった。

 功労者でもあるんだからそれぐらい優遇してほしいものだが、お役所仕事というかなんというか……最後に団長自らが俺のもとを訪ねてきて礼の言葉を述べていった。

 騎士団長、か。
 名前は確かビリー・ステンゲルといったか。
 あまり評判のいい人物ではなかったな。

 不正を働いているわけじゃないが、無気力で仕事熱心ではないという情報が入っている。

 あと、これは噂の域を出ないのだが、貴族などが犯罪に加担していたことがバレた際、いろいろと便宜を図っているらしい。
 これが本当なら普通に犯罪者だな。

 そんな人を国防組織のトップに据えて大丈夫なのかと心配になるが、さらに上の立場に立つ者たちからすればいいように動かしやすい人材として重宝されるのだろう。

 最近は他国と大きな戦争もないし、和平主義を掲げる国も増えたからそういう人事もできるってわけか。

 国民からすればたまったものではないが……悪徳商人としては扱いやすい。
 むしろ歓迎すべき状況だ。
 上を懐柔できれば下も道連れにできるわけだしな。

 ただ、うちにはルチーナがいる。
 彼女は騎士団に恨みを持っていた。

 何せ、順風満帆に進んでいた鍛冶職人としての人生が、三流悪徳商人とつるんでいた騎士によって台無しにされてしまったのだからな。

 いずれ騎士団内にも太いパイプを持っておきたいところだが、焦る必要もない。
 我が商会の実力と成果は十分見せつけられたわけだし。

 今はそれでよしとしよう。
 うちにとって欠かせない戦力(社畜)となるルチーナへのフォローが最優先だ。

 事件が解決し、騎士団への報告を終えた後、爆睡するコニーを背負って教会へと戻った。
 ルチーナが交代を申し出てくれたが断る。

「お優しいですね、レーク様は」

 と目を細めながら言うルチーナ。
 背中から伝わるこの柔らかな感触をもっと味わっていたいからという真相は口が裂けても言えないな。

 そうこうしているうちに教会へとたどり着く。
 夜が明けてもう昼前という時間だが、アルゼとシスター・フィノは俺たちの帰りをずっと寝ずに待っていてくれたようだ。

「ただいま、ふたりとも」

 爽やかさを前面に押し出しながら、俺はふたりへ微笑みかけた。

「ま、まさか、本当にあいつらを倒したの?」
「ああ。今町の中心部はヤツらによって発生した被害を確認するため、騎士団や魔法兵団の関係者でごった返している。しばらくはいつもと違った賑わいを見せることになってしまうだろうな。その点は申し訳ない」
「…………」
「? どうかしたか、アルゼ」
「い、いや、その……ちょっと信じられなくて」
「俺は嘘をつかない男だ。一度約束したことは絶対に守るよ」

 すかさずのぞかせる爽やかスマイル。
 ふっ、決まったな。

 感動のあまり、アルゼは涙ぐんでいる。
 ――例の話を持ちかけるには十分な頃合いかな。

「アルゼ、実は君に頼みたいことがあるんだ」
「えっ? うちに?」
「そうだ。前に一度断られてしまったが、やはりどうしてもあきらめきれなくてね。――うちの商会で働かないか?」
「えぇっ!?」

 いきなりの提案に、アルゼは飛びあがるほど驚いていた。

「前にも言ったが、俺は学園を卒業後にギャラード商会のガノス支部を任されることになっている。君にはその商会の情報収集担当を任せたい」
「い、一度断ったのに……うちが業界最大手のギャラード商会で……レーク様のもとで働ける……?」

 業界最大手――我が商会のことながら、実にいい響きだ。
 就活生にとってはもっとも魅力的なワードのひとつだろう。

「学園卒業まであと約三年……それまで、君にはこの町にあるうちの系列商会に所属してもらって業界のことを学んでもらう。その修業期間が、俺の卒業と同じ三年。どうだろう?」
「もちろんやらせてもらいます!」

 ふたつ返事でOKしてくれたアルゼ。

 くくく、これでまた俺のために働く社畜兼ハーレム要員を確保できた。
 おまけに厄介なライバルとなり得たザルフィンもいなくなり、万々歳だ。
 
 ちなみに、ギャラード商会系列の店でありながらそのザルフィンに従っていた者たちは事件解決直後に物凄いスピードで土下座をしてきたが……俺は全員を許した。

 これで彼らには一度裏切ったという負い目ができる。
 もともと真面目な性格だというのは父上から教えられていたので、これからは粉骨砕身して商会に貢献してくれるだろう。

 後進の育成という名目でアルゼの教育も任せられるし。

 号泣するアルゼに対し、俺は「期待しているぞ」と声をかけ、爆睡するコニーを寝かしつけられるベッドへ案内してほしいとお願いする。

 名残惜しいが背負っているコニーをルチーナへと引き渡し、今度はシスター・フィノへと向き直った。

「シスター、実はあなたにもお願いがあるのです」
「わ、私にですか?」

 俺は例の奴隷オークションで保護された子どもたちの引き取り先について騎士団が困っていると伝える。
 そこで、この教会で子どもたちを育ててくれないかと持ちかけた。
 
 コニーがそうだったように、教会はそういった子どもたちの救いの場としての役割も担っている。

「そうしたいのは山々なのですが……」
「費用はこちらが全額負担します」
「えっ!? ぜ、全額ですか!?」
「大人の都合で子どもたちが未来への希望を失ってしまうようではいけないと思うんです。父上は俺が説得するので、あなたには子どもたちのお世話をお願いしたい」

 ――もちろん、その理由はでっち上げである。
 ここで恩義を売り、商会の息がかかった者に教育させ、未来の社畜を育成する。

 くくく、この教会にはその礎となってもらおう。

「レーク様……分かりました。子どもたちはこちらで引き取ります」
「よかった。では、具体的に話を詰めてまいりましょう」
「分かりました。しかし、お疲れではないですか?」
「何も問題はない――とは言い切れませんが、俺は今日の夕方にはここを発たないと明日の授業に間に合いませんので」

 かなり弾丸スケジュールになるが、これも未来の自堕落な生活のため。

 俺はシスター・フィノと子どもたちの受け入れに関する必要事項を確認するため、教会の応接室へと入っていった。
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