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第21話 万死に値する!

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 コニーがまさかのブチギレで場は一気に凍りつく。
 ――いや、これ比喩じゃなくて本当にめちゃくちゃ寒くなってきてる。

「これは……魔力を冷気に変えているのか……?」

 怒りで体温が上がるって話は耳にするが、逆に冷気を発するとは。
 驚くべき逆転の発想――なんて言っている場合じゃない。

 パキパキと音を立てながら、コニーの触れている部分がどんどん凍っていく。
 
 ……妙だな。

 彼女の全身から漂う冷気から察するに、恐らくは氷属性――と、言いたいが、そもそも魔法属性に氷なんてない。

 貴族か、或いはうちのように裕福な家庭は魔法の属性診断を行う。

 俺もそれで魔法使いとしての適性がないと診断されたから、早々にそれを補う武器の開発を目指し、商人として世界を牛耳ってやろうって方向にシフトし、対策に着手した。

 ただ、平民の場合は入学後に属性診断をすることになっている。

 今はまだ基礎的な座学中心だが、近々実戦形式の鍛錬も取り入れていくらしく、それに合わせてコニーも診断をする予定になっていたのだが……一体どんな属性なんだ?

 ただ、俺以上に困惑していたのがザルフィンだった。

 最初は変わらずヘラヘラとしていたが、コニーが魔力を冷気へと変えた直後から明らかに動揺の色がうかがえる。
 
「お、おまえ……まさか……あの施設の生き残りか!?」

 涙目になりながら叫ぶザルフィン。
 あの怯えようは普通じゃないな。

 それに……「あの施設」とは一体何を指すのだろう。

 なぜか分からないが、ヤツはコニーに対してビビりまくっている。
 今ならちょっと脅すだけで知りたい情報を手に入れられるだろう。

 あくどい商売を繰り返してきたヤツなら、おいしいネタも持っているはずだ。
 クレイグ・ベッカードの件で俺はネタを失っていたからちょうどいい。

 ありったけの情報を引きだそうと交渉を――

「あなただけは許さない……【凍りつく世界ダイアモンド・ダスト】」

 ザルフィンに近づこうとした瞬間、コニーの氷魔法が発動。
 辺り一面はあっという間に白銀の世界へと変わってしまった。

「す、凄い……すべてが凍りついています」

 呆然と立ち尽くすルチーナ。
 俺も目の前の光景が信じられずにいた。

 コニーの放った【凍りつく世界ダイアモンド・ダスト】は、瞬きをする間に辺りを凍らせてしまっていたのだ。

 助かったのは俺とルチーナのみ。
 その場にいたザルフィンとヤツの配下は氷の中で冷凍保存状態だ。

「し、死んだのか?」
「いえ、かろうじて生きているようです」
「なら全員を氷から引っ張り出して拘束しておくんだ。死なせるわけにはいかない」
「おぉ……なんと慈悲深い……さすがはレーク様」
「ふっ、だろう?」

 本当はヤツらから引っ張れるだけ情報を引っ張ってやろうかと思っただけなので、別に慈悲とかそういうのじゃない。

 とりあえず、氷の中からの救出作業はルチーナに任せるとして……俺は魔法を放った直後にその場へと座り込んでしまったコニーへと歩み寄る。

「一度に魔力を使いすぎたようだな」
「す、すいません……もっとイケると思ったんですけど……」

 謝罪するコニーの顔は真っ青だった。
 これは魔力消費だけが原因ではないようだな。

 例の施設、か。

 そういえば、コニーは教会で暮らす前の記憶がなかったんだよな。
 
 となると、教会へ来る前はザルフィンの言った施設とやらで暮らしていたのか?
 詳しい話を聞き出したいところではあるが……さっきの氷魔法ですでに虫の息となっているようだから、すぐにとはいかないだろう。

「私……どうしても……許せなくて……」
「許せない?」
「だって……さっきの人……」

 コニーは残された最後の力を振り絞るようにして叫ぶ。

「レーク様はハーレムになんて興味ないのに……まるで底なしの女好きみたいな言い方をしたから……」
「そうだったのか。それは――えっ?」

 いやいやコニーさん?
 バリバリ興味ありますよ?

 だからこうして人材を集めているわけですし?

 ……ただ、ここで肯定すると今度は俺が氷漬けになるかもしれない。

「ふっ、まったくだな。コニーの言う通りだ」
「ですよね!」

 圧が凄い。
 あと顔が近い。

 少しは元気が出たようだが、代償としてコニーの前ではハーレム関連の発言に制限がかけられるようになった。

 ――だが、あきらめるわけにはいかない。

 せっかく俺の理想とする商会の形が出来上がりつつあるのだ。

 それに、コニーの魔法使いとしての力は俺の想像を遥かに超える領域に達している。
 
 本来であれば存在しないはずの氷の魔法を使うというのも気がかりだ。
 ザルフィンはこれから騎士団や魔法兵団の取り調べを受けるから、詳しい情報を得るのに時間がかかるだろう。

だが、彼女の資質を見抜いて学園に招き入れた人物――その人ならば、何か知っているかもしれない。

「学園長、か……」

 生徒の入学に関して、最終決定権を持っているのは学園長だ。
 何も知らずにうっかり入学させてしまったなんてことはないだろうから、きっと何か事情を知っているはずだ。

「はれ?」
「おっと」

 考えごとをしていたら、突然コニーがふらついて倒れそうになる。
 頭から転倒しそうになるところを両腕でしっかりキャッチし、なんとか防止。
 
 その際、がっつりと胸を触ってしまっているが、これは不可抗力だ。
 やましい気持ちなんてほんのわずかしかない。

一方、コニーは俺の両腕に抱かれた状態のまま静かに寝息を立てていた。

「眠ってしまったのか……」

 よほど消耗したらしいな。

 ともかく、思わぬ形ではあったがザルフィンのオークションを潰すという当初の目的は達成された。
 あとは騎士団と魔法兵団に通報して事後処理をやってもらうとしよう。
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