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第15話 新しいビジネスの予感

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 休日を利用し、俺はルチーナとコニーを連れて帰省。
 とはいえ、今回は父上による呼び出しなのであまり気乗りはしていない。

 わざわざ俺を呼び出すなんて……厄介ごとでも舞い込んできたか?
 考えられるのは先日起きたクレイグの一件だが、あれはベッカード家がヤツを追放処分したことで決着したはず。

 まったく見当もつかない状況のまま、屋敷に到着してすぐに父上の待つ書斎へと入っていった。

「来たか、我が息子よ」
「いきなり手紙で呼び出しとは、何かありましたか?」
「うむ、実は――と、そちらの子は?」

 父上の視線がコニーを捉える。
 それに気づいた彼女は背筋を伸ばしてから深々と頭を下げた。

「は、はじめまして! 私はレーク様と同じクラスのコニー・ライアルと申しましゅ!」

 最後の最後で噛んだな。

 クラスメイトを連れてきたことに父上は首を傾げていたが、そこに至るまでの経緯を説明すると納得してくれた。

「なるほど。ベッカード家の一件ではこちらにも話が来ている。息子さんによろしくと伝言をもらったくらいだ」

 どうやら俺の知らない間にうちと魔法兵団の上層部であるベッカード家とのつながりが深まっていたようだ。

「もしや、今日の呼び出しはそれを伝えるために?」
「いや、それはあくまでもおまけだ。本題は別にある」

 父上の眼光が鋭くなった。
 あれは商談をする際の目……つまり本気というわけだ。

「ガノスという町は知っているな?」
「当然です。我が国にとっては欠かすことのできない交易都市ですからね」

 この国で商人をやっている者でガノスを知らないなんて言うのはモグリだ。
 それくらい、あの町は重要視されている。
 言ってみれば経済拠点だ。

 規模としても国内トップクラス。
 町中には運河が流れており、そこには外国籍の船もある。
 ここで揃わないなら国内にあるどの町にも置いていないと言われるほど品数が豊富なのはこのためだ。

 あそこで店を出すのは商人にとって夢。

 もっとも、かなりの額の税金を支払わなくてはならないので店を出すにしても相当勇気がいるらしい。

「そのガノスにはすでにうちの商会がいくつか店を出しておるのだが、今回新しく武器や魔道具を扱う店を出そうと思ってな。――おまえにそこを任せたい。すでに店舗用の空き物件はおさえてある」
「っ!」

 正直、驚いた。
 ガノスという大都市で俺みたいな若造が店を出す。

 おまけにまだ学園を卒業する前の身。
 常に安牌しか切らないような性格の父上にしては随分と思い切った判断だ。

「まだ在学中ですが、それでも俺にガノスの店を任せると……本気ですか?」
「無論だ。ここ最近のおまえの活躍を見て決断した。おまえはいい商人としての資質に溢れているからな。本当は小さな町の商会からスタートさせようかとも思ったが、その必要もないだろう」

 父上は相当俺をかってくれているようだな。

 しかし……悪い話じゃない。

 俺の夢――楽して儲けて楽しく遊び暮らすという夢を実現させる舞台としては申し分ない。
 正直、最初はもっと田舎町からスタートしてステップアップをさせてくるのだろうと予想していたが、よほどクレイグの件が嬉しかったのだろうな。

 またしても嬉しい誤算ってヤツだ。

 脅しのネタがなくなってガックリとしていたが、あのガノスに店を構えられるというなら損失分をペイできる。

「ガノスはここから遠くない。今から行ってみたらどうだ? いくつかある店の者はみんなおまえのことを知っているし、遅くなれば宿の手配もしてくれるだろう」
「そうですね。せっかくここまで来たのですし、様子を見てきます」
 
 ガノスには幼い頃、父上に連れられて一度だけ行ったことがある。
 もうだいぶ昔の記憶だが、それでも鮮明に覚えていた。

 活気と熱気に溢れた町。
 それが素直な第一印象だったな。

 とはいえ、あくまでも俺が子どもの頃の記憶にすぎない。
 あれから数年経っているのでいろいろ変わっている面もあるだろうから、一度この目で見ておくべきだろう。

「ガノスかぁ……私はまだ一度も行ったことがないんだよねぇ」
「私は仕事で何度か」

 もうメイド姿が見慣れているけど、本来ルチーナって鍛冶職人なんだよな。
 まだ穏やかな笑顔が似合う頃の話だ。
 今ではひとりで裏闘技場の闘士たちを全滅させられるくらいたくましくなったけど。

 
  ◇◇◇


 屋敷で昼食を取った後、俺たちはガノスへと馬車で移動。
 距離も遠くなく、割とすぐに目的地へとたどり着けた。

「わあ! 凄い!」

 目を輝かせながら辺りを忙しなく見回すコニー。
 まるで大量のおもちゃを同時に与えられた子犬みたいな反応だ。

「昔とあまり変わっていませんね」
「だな。相変わらず人は多いし、どこの店も元気だ」

 店を出すための土地代を納めなくちゃいけないから、ここで商売をやる者たちはみんな必死だ。

 競争率が高いからこそ、安くて上質なものが生まれる。

 セレブを相手にした高級志向の店もなくはないが、そっちは少数派だな。
 大半は民衆受けを狙った一般店舗が乱立しているという印象を受ける……これも昔と変わっていない。

「レーク様! 出店もいっぱいありますよ! あちこちからおいしそうな匂いが漂ってきています! 食べ物が私に食べられたがっています!」

 すっかりガノスに魅了されているな、コニーは。
 空腹のせいか、語彙力がだいぶ低下している。

 この子の場合は色気より食い気って感じだな。
 まあ、すでにそのスタイルの良さで色気は爆発気味だが。

「俺も楽しみではあるが、まずは新しい店舗になる予定の空き物件に行ってみよう」

 ここでは準備が出来次第、俺の店をオープンする予定になっている。
 王立学園に通いながら商会支部の運営……これは骨が折れるな。

 できれば、優秀な参謀役が欲しい。

 ルチーナやコニーは製造部門担当になるが、それと違って商会の運営を補助――いや、最終的には俺に代わってバリバリこなしていってくれる者がいい。

 さすがにこれはすぐに調達できる人材ではないため、当面は俺がやらなくちゃいけないんだよな。

 早くなんとかして卒業と同時に隠居生活がしたい。

 そんなことを考えているうちに店舗予定の空き物件に到着したのだが――これがとんでもないボロ家だった。

「な、なんだ……これは……」

 まるで強盗にでも襲われたかのような荒れっぷり。
 直すには相当な時間と金がかかりそうだぞ。
 一体、ここで何があったっていうんだ?

 三人揃って呆然と立ち尽くしていたら、そこに声をかけてきた女がいた。

「あんたたち……もしかしてギャラード商会の関係者?」
「そ、そうだが?」
「ああ、やっぱり? 雁首揃えてボケッとしているからそうじゃないかなぁって思っていたのよ。こんな状況になってさぞ驚いたでしょ?」
 
 ヘラヘラと笑いながら、馴れ馴れしい口調で迫る謎の女。
 あまりにも軽薄な態度にルチーナが警戒心を抱き、俺の前に立って彼女の進路を塞ごうとした――が、俺は腕を伸ばしてそれを制止する。

「一体何者だ、おまえ」
「うち? うちは情報屋のアルゼ」
「情報屋?」

 こういう大きな町にはいるんだよな。
 さまざまな情報を仕入れ、それを売買することで生計を立てる情報屋が。
 大抵はいろんなところにコネがある老獪な人物がやっているのだが……彼女は俺の抱く情報屋のイメージとまったく違うタイプだった。

「ねぇ、うちから情報を買わない? これだけ荒れている真相を教えてあげるよ?」

 情報屋のアルゼ、か。
いまひとつ信用できそうにないが、本当に情報を握っているというなら聞こうじゃないか。
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