上 下
12 / 51

第12話【幕間】お嬢様の思惑

しおりを挟む
「……少し強引だったかしら」
 
 逃げるように試着室を出ていく彼の背中を見つめながら呟く。
 
 レーク・ギャラード。

 彼の実家は国内最大級のシェアを誇るギャラード商会。
 その情報網と仕入れ先の豊富さゆえ、国から「特務」という名目で汚れ役も任されていると聞く。

 しかし、彼の父親がやっていることは言ってみれば必要悪。

 国家の運営には、時に綺麗ごとだけでは済まされない事態もある。
 けど、そこに王家が大っぴらにかかわっているとバレたら詳細を知らない国民は不信感を抱くかもしれない。

 どれだけ誠実に説明をしたところで、完全に拭いきれるというものでもないだろう。

 だからこそ、ギャラード商会のような存在は必要なのだ。

 現国王が今の地位に就くより前から懇意にしている間柄らしく、彼の力になりたいとロベルト・ギャラードは自ら汚れ役を買った。

 恐らく、息子であるレーク・ギャラードでさえ知らないでしょうね。

 ですが、いずれ彼もその道を継ぐはず。
 正義を貫くために悪へ染まる存在へと。
 すでにその片鱗は見せつつありますわね。

 ゆえに、平民でありながらも利用価値の高い男。
 それがわたくしの彼に対する率直な評価。

 けど、ここ最近耳にする彼にかかわる噂はそんな悪党からは遠くかけ離れたもの。

 騎士団や魔法兵団が手をこまねいていた裏闘技場の壊滅。
 そして此度のクレイグ・ベッカードの国外追放。
 
 彼が噂に聞く悪徳商人の後継者というなら、利用価値の高いこのふたつの事件を排除するようなマネはしないはず。

 それに、コニー・ライアルが彼に懐いているのは計算外でしたわ。

 平民でありながら類稀な魔法使いとしての資質を持つ者。
 
 あと、恐らく彼女はあの施設・・・・の貴重な生き残りである可能性が高い。

 まあ、本人と話した限りではまだそれに気づいていないようでしたが。

 少なくとも、学園上層部はそれを見抜いて彼女を入学させたのでしょう。
 危うくベッカード家のバカ息子がそれを台無しにしてしまうところでしたが……ここでもレーク・ギャラードに救われました。

 それにしても、彼はなぜコニー・ライアルに近づいたのでしょう。
 ただの偶然?
 いえ、さすがにできすぎな気がします。

 まさか……顔が好みのタイプだったから?
 ――って、そんなわけありませんわね。

 欲望に忠実なタイプではありませんでしたもの。

 ……でも、悔しいですわ。
 本来ならばわたくしが舞踏会にコニー・ライアルを招待し、それからじっくりと可愛がってあげましたのに……これもすべてはあの無能な変態教師のせいですわね。

 あと、彼が世話役として連れていたあのメイドも気になりますわ。
 どこかで見た顔だと思うのですけど……ハッキリと思い出せないというのも気に入りませんわね。

 それにしても……あの男は一体何を企んでいるのかしら。

 民衆を救う英雄気取り?
 それとも本気でこの腐りきった世界を変えようとでも?
 或いは楽して金儲けをしようと有能な人材をかき集めているだけ?

 ……さすがにそこまで低俗ではないかしら。

 第一、金儲けを優先させるなら裏闘技場の支配人を言いくるめて自分の商会で扱っている武器を売りさばいたり、クレイグ先生の弱みを握ってバックにいるベッカード家を脅したりするはず。

 まあ、どっちでもいいですわ。

 わたくしにとってはあの男の存在など些末なこと。
 もしこちらの目的の邪魔をしようというなら、対応すればいいだけの話。

 逆らうようでしたらハートランド家の名において容赦なく叩き潰させてもらいましょう。
 
「明日の舞踏会が楽しみですわね」

 今はゆっくりと高みの見物をさせていただきますわ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

無能な悪役王子に転生した俺、推しの為に暗躍していたら主人公がキレているようです。どうやら主人公も転生者らしい~

そらら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】 大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役王子に転生した俺。 王族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な第一王子。 中盤で主人公に暗殺されるざまぁ対象。 俺はそんな破滅的な運命を変える為に、魔法を極めて強くなる。 そんで推しの為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが? 「お前なんかにヒロインと王位は渡さないぞ!?」 「俺は別に王位はいらないぞ? 推しの為に暗躍中だ」 「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」 「申し訳ないが、もう俺は主人公より強いぞ?」 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング50位入り。1300スター、3500フォロワーを達成!

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

主人公に殺されないと世界が救われない系の悪役に転生したので、気兼ねなくクズムーブをしていたのに…何故か周りの人達が俺を必死に守ろうとしてくる

たゆな
ファンタジー
 岸山鳴海は、前世で有名だった乙女ゲームに登場する悪役――シセル・ユーナスに転生してしまっていた。  原作主人公に殺されて世界が救われるというストーリーだけは知っている。  シセルには、寿命で死んだり、主人公以外の誰かに殺されてしまうと、その力が暴発して星ごと破壊されるというトンデモ設定があった。  死ななければならない……そう理解した鳴海は『流石の主人公も普通に生活しているだけの人間を殺そうだなんて思わないだろう』などという考えから、自身が思い付く限りの悪事を行う事で、自分の命と引き換えに世界を救おうとする。  しかし、クズムーブをしているはずの鳴海の周りには何故か……この男を未来の脅威から守ろうと必死になる者達ばかりが集まっていたッ!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界転生したので、のんびり冒険したい!

藤なごみ
ファンタジー
アラサーのサラリーマンのサトーは、仕事帰りに道端にいた白い子犬を撫でていた所、事故に巻き込まれてしまい死んでしまった。 実は神様の眷属だった白い子犬にサトーの魂を神様の所に連れて行かれた事により、現世からの輪廻から外れてしまう。 そこで神様からお詫びとして異世界転生を進められ、異世界で生きて行く事になる。 異世界で冒険者をする事になったサトーだか、冒険者登録する前に王族を助けた事により、本人の意図とは関係なく様々な事件に巻き込まれていく。 貴族のしがらみに加えて、異世界を股にかける犯罪組織にも顔を覚えられ、悪戦苦闘する日々。 ちょっとチート気味な仲間に囲まれながらも、チームの頭脳としてサトーは事件に立ち向かって行きます。 いつか訪れるだろうのんびりと冒険をする事が出来る日々を目指して! ……何時になったらのんびり冒険できるのかな? 小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しました(20220930)

辺境左遷の錬金術師、実は人望が国王以上だった〜王国在住の剣聖や賢者達が次々と俺を追って辺境に来たので、のんびり最強領地を経営してみる〜

雪鈴らぴな
ファンタジー
【第4回次世代ファンタジーカップ最終順位7位!】 2024年5月11日 HOTランキング&ファンタジー・SFランキングW1位獲得しました! 本タイトル 国王から疎まれ辺境へと左遷された錬金術師、実は国王達以外の皆から慕われていた〜王国の重要人物達が次々と俺を追って辺境へとやってきた結果、最強領地になっていた〜 世界最高峰のスラム領とまで呼ばれる劣悪な領地へ左遷された主人公がバカみたいなチート(無自覚)で無双しまくったり、ハーレム作りまくったり、夢のぐーたら生活を夢見て頑張る……そんな話。 無能を追い出したと思い込んでる国王は、そんな無能を追って王国の超重要人物達が次々と王国を出ていって焦りだす。

処理中です...