上 下
11 / 51

第11話 御三家登場

しおりを挟む
 コニーを舞踏会に誘えたのはよかったが、ここで新たな問題が浮上する。
 それは彼女が着ていくドレスであった。

 貴族の御令嬢ならば何着も持っているのだろうが、彼女の場合はそうもいかない――が、すでにそれは想定内。何せ入学前にはコニーに関する情報を集め終えていたからな。
 
 ただ、ここで俺の想定を超える誤算が生じる。

 彼女のスタイルが事前調査よりもかなり成長(主に胸)しており、用意していたドレスのサイズが合わなくなっていたのだ。

 学園の試着室でルチーナに手伝ってもらいながら着用を試みたが、どれも失敗に終わる。

 最初は「まだ成長途中なのか……」という驚愕と歓喜が入り混じった感情となった。
 しかし、すぐにそれどころじゃないと冷静になる。
 
 ドレスがなければ舞踏会へ参加できない。
 多くの御令嬢や御子息に俺たちギャラード商会の存在を知ってもらえるいい機会だというのに、むざむざそれを手放すなどできん。

 だが、今から父上に連絡したところでとても間に合わない。

「ごめんなさい、レーク様……学園に入る一年くらい前から成長が止まらなくて……下着もすぐに変えなくちゃいけないから、最近は無理やり押し込んでいる状況で……」

 半泣きになりながら赤裸々に自身の成長過程を語るコニー。
 こればかりは仕方がない。
 むしろ巨乳派の俺としては喜ばしい事態だ。

 ……だが、本当に困ったぞ。

 このままでは舞踏会を辞退しなくてはいけなくなる。
 まさかこんな落とし穴があるとは!

「あら、何か困りごとかしら?」

 苦悩する俺に声をかけてきたひとりの女生徒。
 たくさんのメイドを引き連れて試着室へとやってきたのは意外な人物であった。

「っ! これはこれはトリシア様」

 彼女の顔を見た瞬間、思わず緊張してしまった。
 現れたのは俺やコニーより二学年上の先輩で名前はトリシア・ハートランド――この国で強大な権力を持つ通称御三家の一角を担うハートランド家の御令嬢だった。

 おまけに彼女はこの学園の生徒会長も務めている。
 さらに凄いのは、生徒会に所属しているのが彼女ひとりという事実だ。

 なんでも、誰かに頼るよりすべてを思うがままにやりたいという理由で他者の生徒会入りを拒んでいるらしい。

 学園はそんな彼女の意向を尊重しているという。
 教育機関としてその姿勢はどうなんだって気もするが、それがまかり通ってしまうのがこの世界なのだ。

 前世なら確実にSNSで大炎上している案件だな。 
 トレンドはズバリ《ワンオペ生徒会長》だろうか。

 しかし、その根性は見事だ。
 彼女にも社畜となれる資質がある。

 御三家の一角となれば、口説くのはそう容易くないだろう。
 だが、苦労してでも手に入れる価値はありそうだな。

 まあ、そういったわけで、トリシア・ハートランドは学園内においてもっとも逆らってはいけないし、機嫌を損ねてはならない人物なのだ。

 大体、本来ならひとりしか許されないはずの世話役をあんなにたくさん引き連れている時点で規格外の存在っていうのが分かるな。

 周りのメイドたちがドレスを持っていることから、彼女も試着に来たようだ。
 舞踏会は一年生の歓迎会という意味合いもあるので、基本的に他の学年の生徒は参加しないのだが、恐らく生徒会長として挨拶くらいはするのだろう。

 それにしても……噂に違わぬ美しさだ。
 右目の下にある泣きぼくろがまた妖艶さを醸しだしている。

 あれで頭もよく、剣術や魔法の腕は超一流、何より家柄が凄いという。

 天は二物を与えずって言葉があるけど、彼女を見ていたらそれが嘘っぱちだって思えてしまうな。

 生徒たちの間では「女神の生まれ変わり」なんて言われているけど、冗談に聞こえなくなってくる。

 長い青髪を後ろでまとめているトリシア会長は俺たちの様子をひと目見て状況を把握したらしい。

「ドレスのサイズが合わなかったのかしら?」
「よ、よくお分かりに――」
「それで、代わりの物がないと?」
「え、えぇ」

 俺の話をぶった切って話を進めるトリシア会長。
 噂には聞いていたが……本当に圧の強い方だ。

 御三家の中でもっとも扱いづらいとされているのも理解できる。

 そんなトリシアお嬢様だが、こちらが困っている理由を知ると意外な行動に出た。

「よろしければ、わたくしのドレスを一着貸しますわよ?」
「「「えっ!?」」」

 まさかの提案だった。

「わたくしが学園に持ち込んでいるドレスは二百着以上。そして明日着ていくドレスはすでに決めていますの。ですから、それ以外の物でしたらお好きに着ていただいて構いませんわ」
「し、しかし、俺たちは――」
「身分の差を気にされているの?」

 またしても言葉を遮られてしまう。
 ただ、言いたいことは合っているので訂正はせず、そのまま続けてもらおう。

「明日の舞踏会は他の行事と異なり、学園生活で一度しか経験のできないもの……それをつまらない理由で逃し、後悔し続けるというのは生徒会長としても心苦しいですから」

 優等生の回答だな。
 ただ、あれが本心であるかどうかは定かじゃない。

 何せ、相手はひと癖もふた癖もある御三家の一角。
 同時に、俺が学園生活中になんとか弱みを握って縛りつけておきたい存在でもある。

 それを考慮すると、せっかくの厚意を無下にするというのは避けたい。
 向こうからノコノコと近づいてきてくれたんだ。
 この機を逃す手はない。

「コニー、トリシア会長の御厚意に甘えさせてもらおう」
「わ、分かりました」

 緊張で表情を強張らせながらも、コニーはドレスを選択。
 それを持ってルチーナとともに試着室へと入っていった。

 残された俺とトリシア会長。
 そしてたくさんのメイドさんたち。

 ……これ完全にアウェーだな。
 重苦しい空気を振り払おうと話かけようとしたら向こうが先手を取ってきた。

「先日のクレイグ先生との一件はわたくしの耳にも届いております。見事な立ち回りだったそうですわね」
「あれは運がよかっただけですよ」
「御謙遜を。――ただ、わたくしひとつ気になっている点がありますの」

 トリシア会長の目つきが一瞬で変わる。

「クレイグ先生は学園で魔法の研究をなさっていました。今回の事件が公になれば御自身の立場は相当悪くなると理解されているでしょうから、どんな手段を使ってでもあなたたちを捕らえようと――いえ、もしかしたら亡き者にしようと攻撃魔法を使った可能性は高い」

 ジリジリと迫ってくるトリシア会長。
 やがて吐息が聞こえるくらいの距離まで迫ると、核心を突くひと言を放つ。

「魔法に対抗する手段を何ひとつ持っていないはずのあなたが、どうやってクレイグ先生を退けたんですの?」

 トリシア会長の関心はそこにあるようだ。
 
 俺がクレイグの魔法を防げた理由――それは魔銃のおかげだ。

 しかし、俺はまだ魔銃の存在を公表するつもりはない。

 あれは俺の商会で売りだす看板商品となり得るものだ。
 うっかり世に出して他の商会に類似品を作られるのだけは避けたかった。

 この時代には特許とか著作権なんて言葉はなさそうだしな。
「やった者勝ち」がまかり通る可能性は前世より高い。

 だからこそ、量産体制が整うまではこの前のようないざという時以外の使用は控えたい。
 本当は今すぐにでも見せびらかしたいところだが、ここはグッと我慢だ。

 披露する機会はこの先いくらでもあるだろうし、焦って利益を失うわけにはいかない。
 ただでさえ、裏闘技場とベッカード家への脅しという二枚の儲けカードを失っているのだ。
 もっと慎重にならなくては。

 ――なので、ここはどうあっても誤魔化さなくては。

「あの時は無我夢中だったのでよく覚えていないんですよ。たぶん、彼が魔法を使うより先に俺が飛びかかって取り押さえたのでしょう。運がよかったんです」

 クレイグはすでに追放処分となっており、足取りを掴むことは難しいだろう。
 ヤツからの証言が得られないのは俺にとって好都合だった。

「そうですか……あなたとは一度ゆっくりお茶でも飲みながらお話をしたいですわね」
「ハートランド家の御令嬢からお茶会に招待されるなど、平民である私にとっては身に余る光栄ですな。ぜひご一緒させていただきたい」

 ちょうどその時、試着室からドレスを身につけたコニーが出てくる。
 俺は彼女をありったけの言葉でベタ褒めすると、「こちらをお借りします」とだけ告げて試着室を足早に出ていった。

 トリシア・ハートランド――俺たちに近づいたヤツの狙いは一体何なんだ?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

無能な悪役王子に転生した俺、推しの為に暗躍していたら主人公がキレているようです。どうやら主人公も転生者らしい~

そらら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】 大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役王子に転生した俺。 王族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な第一王子。 中盤で主人公に暗殺されるざまぁ対象。 俺はそんな破滅的な運命を変える為に、魔法を極めて強くなる。 そんで推しの為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが? 「お前なんかにヒロインと王位は渡さないぞ!?」 「俺は別に王位はいらないぞ? 推しの為に暗躍中だ」 「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」 「申し訳ないが、もう俺は主人公より強いぞ?」 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング50位入り。1300スター、3500フォロワーを達成!

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

主人公に殺されないと世界が救われない系の悪役に転生したので、気兼ねなくクズムーブをしていたのに…何故か周りの人達が俺を必死に守ろうとしてくる

たゆな
ファンタジー
 岸山鳴海は、前世で有名だった乙女ゲームに登場する悪役――シセル・ユーナスに転生してしまっていた。  原作主人公に殺されて世界が救われるというストーリーだけは知っている。  シセルには、寿命で死んだり、主人公以外の誰かに殺されてしまうと、その力が暴発して星ごと破壊されるというトンデモ設定があった。  死ななければならない……そう理解した鳴海は『流石の主人公も普通に生活しているだけの人間を殺そうだなんて思わないだろう』などという考えから、自身が思い付く限りの悪事を行う事で、自分の命と引き換えに世界を救おうとする。  しかし、クズムーブをしているはずの鳴海の周りには何故か……この男を未来の脅威から守ろうと必死になる者達ばかりが集まっていたッ!

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

処理中です...