上 下
10 / 51

第10話 社畜2号、爆誕!

しおりを挟む
 とりあえず、コニーにあの変態教師の毒牙が届いていなくてよかった。

「これでもう安心だ」
 
 そう声をかけるが、彼女は困惑しているようでうまく話せないでいた。
 
まあ、無理もないか。
ヤツに脅されていたとはいえ、舞踏会への誘いを断ってしかもあの態度。
 心根の優しい彼女の胸中は罪悪感でいっぱいだろう。

 これを利用しない手はない。

「あ、あの、私、脅されていたとはいえレーク様にひどいことを……謝らなくちゃって……」
「気にしなくていいさ。君に何もなかったのならそれで問題ない」

 ハンカチを取り出し、そっと涙を拭いてやる。
 この優しさで彼女も勘違いしてしまっただろう。

 しかし、もう遅い。
 
 変態教師に脅された次は悪役商人に騙されるとは……つくづく運の無いヤツだな。
 
「で、でも、私は……私は……あなたの優しさを裏切って……もう見捨てられても仕方がないのに……罰を受けなくちゃいけないのに……それなのにまた助けてくれて……」

 どうやらコニーは俺に対する態度を相当後悔しているようだった。
 俺としてはあの変態教師に脅されていたと告白してくれたのでそれ以上追及するつもりはなかったのだが……これは好都合だ。

「そこまで君が自分を許せないというなら、罰を求めるというなら――俺のもとでその力を存分に発揮してもらおうじゃないか」
「えっ?」

 放心状態となっているコニーに対し、俺は畳みかけるように語った。

「我が商会の魔法関連部門の責任者として専属契約を結んでもらおう! そしてともに覇道を歩んでもらう! 拒否権はない! 泣いている暇もないぞ! その命が尽きるまで付き合ってもらうのだからな!」

 高らかに「おまえは一生俺の社畜となって働くのだ!」と宣言する。
 今のコニーは罪悪感の塊だ。
 
 こんな鬼のような提案をされても飲み込むしかない。
 彼女の性格からして、ここでもう一度「NO」と言える度胸はないだろう。

 真面目さと優しさが仇になったな、コニーよ。
 
 残酷な現実を突きつけられた彼女は――

「レーク様ぁ!」

 号泣しながら俺に抱き着いてきた。

 しまった。

 玉砕覚悟で俺を亡き者にしようという魂胆か。
 俺としたことが――迂闊!

 ……が、結局それからコニーは何をするでもなく、俺の胸に顔をうずめて泣きじゃくるのだった。

 男の胸なんて平べったくて柔らかくもないし、何もいいことはないと思うのだがな。

 一方、一連のやりとりをすぐ横で眺めていたルチーナは満足そうに頷いていた。

「やはりレーク様は最高にお優しい方ですね」

 ついには訳の分からんことを言いだした。
 
 まったく、一体何を見てきたんだ?
 俺はコニーの罪悪感を利用して優秀な手駒を増やしただけに過ぎない。

 武器を作りすぎるあまり、一般的な感覚とズレがあるのだろうか。
 
 まあ、ルチーナが変なのは今に始まったことではないし、気にしても仕方がない。
 
……さて、コニーはまだ泣き止みそうにないので、このまま抱きしめつつ柔らかい極上の感触を楽しむとしよう。


  ◇◇◇


 その後の流れを掻い摘んで話そう。
 
 変態教師の愚行は白日の下に晒されることとなった。

それは狙い通りだったから別にいいのだが、問題はヤツの実家であるベッカード家の対応だった。

どうも向こうとしても息子の不祥事には散々頭を悩ませていたようで、今回の件は家を追放処分にする良いきっかけになったという。
てっきり今回もありとあらゆる手を尽くしてもみ消しに動くと思ったのだが、あてが外れてしまった。

しかし、未確認情報ではあるが、当主は俺に感謝しているらしいとの話もある。
それはそれで魔法兵団にコネができたとも言えるが、信憑性に関しては眉唾物なので全面的に信頼するわけにはいかない。

ともかく、ヤツは名家のベッカード家にとって最低最悪の汚点となったわけだ。
 
 そういうわけで、クレイグはベッカード家とのつながりがなくなり、ただの一般人へと成り下がってしまったため、せっかくの脅し材料は無駄になってしまった。

 せっかく大金をせしめてやろうと思ったのに……不覚だ。

 裏闘技場の時もそうだったが、どうにも完璧には終われていない。
 結局、俺はルチーナとコニーを救っただけに終わっている。

 まあ、あのふたりが深く感謝して社畜一号と二号になってくれたのはよかったが。

 今後も同じように有能な働き手を増やしていき、俺は学園卒業と同時に優雅な隠居生活へと入れるように頑張ろう。

 ――と、いうわけで、翌日からも普通に登校する俺。

 クレイグとの出来事がすでに広まっており、寮から教室への移動中には周囲からヒソヒソと噂話をされている。
 
「見ろよ、レーク・ギャラードだ」
「クレイグ先生の悪事を全部暴いたらしいわよ」
「おまけに襲われかけていた女子生徒を救ったとか」
「魔法が使えないのにどうやったのかしら」
「剣術じゃねぇか? あいつそっちの成績はいいみたいだし」
「魔法使いを剣一本で倒したのかぁ……やるな」
「コネ入学って話だったけど、ちゃんと実力あるじゃない」
「見直したわ。変なメイド連れてるけど」

 くくく、いいぞ。
 周りの生徒たちの俺の見る目は着実に変わりつつある。

 入学当初はルチーナの暴走(?)もあって少々難儀したが――というか、現在進行形であいつ足引っ張ってないか?

 とはいえ、それは今後の教育で修正していくしかない。
 彼女の鍛冶職人+護衛役としての実力を考慮すれば安いものだ。
 しっかり意識を変えてもらわなくちゃな。

 ――変わったといえば、もうひとつ。

「レーク様ぁ!」

 入学以来、見たことがないくらい明るい笑顔で走ってくるコニー。
 コケるんじゃないぞと心配していたら、やっぱり何もないところで躓いてしまう。
 
 慌ててフォローに入った際にうっかり胸を鷲掴みに近い形で触っちゃったけど、事故だから仕方ない。
 本人も気にしていないようだし!

「だ、大丈夫か?」
「は、はい。また助けられちゃいましたね」

「えへへ」と照れ笑いを浮かべるコニー。

 ……いいなぁ。

 こんな青春は前世で経験がなかったから、彼女の笑顔が輝いて見えるよ。

 おっと、そういえば忘れていたことがあった。
 ふとそれを思い出した俺はコニーへ手を差しだす。

「? レーク様?」
「前は断られたけど、今度は大丈夫そうかなと思ってね」
「えっ? ――あっ!」

 どうやら、コニーも察しがついたらしい。

「明日の舞踏会、俺と一緒に踊ってもらえるか?」
「もちろんです!」

 食い気味に「OK」の返事をしたコニーは俺の手を取る。

 よし。
 これで舞踏会ボッチは避けられたな!

 直後、俺とコニーを祝福するように鐘の音が鳴る。
 ――いや、これ予鈴だ!

「レーク様、コニーさん、早くしないと遅刻してしまいますよ」
「ホントだ! 急ごう、レーク様ぁ!」
「ちょっ! お、おい!」

 コニーに手を引っ張られる形で駆けだす。
 
 想像よりも騒がしい学生生活となりそうだが……それも悪くないな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

主人公に殺されないと世界が救われない系の悪役に転生したので、気兼ねなくクズムーブをしていたのに…何故か周りの人達が俺を必死に守ろうとしてくる

たゆな
ファンタジー
 岸山鳴海は、前世で有名だった乙女ゲームに登場する悪役――シセル・ユーナスに転生してしまっていた。  原作主人公に殺されて世界が救われるというストーリーだけは知っている。  シセルには、寿命で死んだり、主人公以外の誰かに殺されてしまうと、その力が暴発して星ごと破壊されるというトンデモ設定があった。  死ななければならない……そう理解した鳴海は『流石の主人公も普通に生活しているだけの人間を殺そうだなんて思わないだろう』などという考えから、自身が思い付く限りの悪事を行う事で、自分の命と引き換えに世界を救おうとする。  しかし、クズムーブをしているはずの鳴海の周りには何故か……この男を未来の脅威から守ろうと必死になる者達ばかりが集まっていたッ!

無能な悪役王子に転生した俺、推しの為に暗躍していたら主人公がキレているようです。どうやら主人公も転生者らしい~

そらら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】 大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役王子に転生した俺。 王族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な第一王子。 中盤で主人公に暗殺されるざまぁ対象。 俺はそんな破滅的な運命を変える為に、魔法を極めて強くなる。 そんで推しの為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが? 「お前なんかにヒロインと王位は渡さないぞ!?」 「俺は別に王位はいらないぞ? 推しの為に暗躍中だ」 「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」 「申し訳ないが、もう俺は主人公より強いぞ?」 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング50位入り。1300スター、3500フォロワーを達成!

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境左遷の錬金術師、実は人望が国王以上だった〜王国在住の剣聖や賢者達が次々と俺を追って辺境に来たので、のんびり最強領地を経営してみる〜

雪鈴らぴな
ファンタジー
【第4回次世代ファンタジーカップ最終順位7位!】 2024年5月11日 HOTランキング&ファンタジー・SFランキングW1位獲得しました! 本タイトル 国王から疎まれ辺境へと左遷された錬金術師、実は国王達以外の皆から慕われていた〜王国の重要人物達が次々と俺を追って辺境へとやってきた結果、最強領地になっていた〜 世界最高峰のスラム領とまで呼ばれる劣悪な領地へ左遷された主人公がバカみたいなチート(無自覚)で無双しまくったり、ハーレム作りまくったり、夢のぐーたら生活を夢見て頑張る……そんな話。 無能を追い出したと思い込んでる国王は、そんな無能を追って王国の超重要人物達が次々と王国を出ていって焦りだす。

処理中です...