上 下
9 / 51

第9話 絶望するにはまだ早い!

しおりを挟む
 ついにこの時がやってきた。

 ルチーナの情報によれば、ヤツが学園長に無理を言って増設させた研究室にコニーはいるという。

 あと……どうもクレイグという教師はかなりの女たらしのようで、過去にも何度か問題を起こしていたらしい。

 親は魔法兵団長の右腕として高い地位に就くベッカード家。
 まあ、過去の不祥事はもみ消したんだろうな。
 決定的な証拠でもあれば処罰の対象にもなるのだろうが、そこまで用意周到にはできなかったか。
 
 そんな危ない教師と平民だが将来有望な魔法使いでしかも可愛くてスタイル抜群の女生徒が密室でふたりきり。

 ……いろいろと問題ありの組み合わせだな。
 まあ、いい。

 生徒に手を出す教員はこの世界であっても罪に問われ、どんなに軽くても国外追放になるだろうという。

 通っているのが貴族の御子息や御令嬢ばかりだから、悪影響を考慮するとそれくらい厳しい処分となってしまうんだよね。

 ただ、ヤツがやろうとしていることはそんな生易しいものではない。
 俺は念のため、ルチーナとコニーの合作である新しい武器を携える。
 
正直、まだ実験段階の域を出ていない。

ぶっつけ本番になるが、仕方がないだろう。
何せ相手は魔法のスペシャリストだ。

これくらいの武器がなくては太刀打ちできない可能性もあるからな。

 ヤツが動きだすとされる舞踏会の前日――この日、ルチーナは新しい研究室へ入っていくコニーとクレイグを目撃していた。

 いよいよ動きだしたと察した俺たちは揃ってヤツの研究室へと乗り込もうとした――が、それを阻む存在が。

「む? こいつは……」
「結界魔法のようですね」

 研究室にたどり着いたはいいが、中へは入れそうにない。
 結界魔法――特定の場所に侵入されないように守る特殊防御魔法のひとつ。

 学園内でも扱える者は少ないと聞くが、あの変態教師はその少ない実力者の中に入っているようだ。

 実にもったいない。

 大人しく教職の道を歩んでいれば生涯安泰だったというのに。

 ただ、結界魔法を打ち消せるのは魔法のみ。
 魔法を使えない俺とルチーナではこの先に進むことはできない――と、あいつは思っているのだろうな。

「他の教員を呼びに行く時間はないな。――仕方がない」

 俺はルチーナとコニーの協力によって完成したあの武器を取りだす。
 それは前世でいう拳銃の形をしており、俺はこいつを【魔銃】と名づけた。

 そして込める弾丸だが、これは魔鉱石という鉱物を使用して作られている。
 魔鉱石にはそれぞれ魔法と同じ属性がついているのだが、その効果は微々たるもの。
 
 生活の補助としては役に立つが、とても戦闘に使用できる代物じゃない。
 だが、魔銃はその効果を増幅させて放つことが可能となるのだ。

コニーの協力によって魔鉱石を加工した弾丸――魔弾は完成したものの、数はまだ五つしかない。

「ここは威力の高い【雷の魔弾サンダー・ブレット】で……」

 魔弾を装填し、ためらいなく撃つ。
 バチバチと魔力同士がぶつかり合う激しい音と振動。
 かなり練りあげられた結界のようで易々と打ち破れるものではないが――それでも俺たちの作った魔弾の敵ではない。

 強固な結界魔法を貫くと、扉は粉々に弾け飛んだ。

「よし。突入するぞ」
「はい」
「ルチーナ、念のため例の水晶玉で記録しておけ。決定的証拠を拝めるかもしれないからな」
「分かりました」

ふっ、いかに相手の弱みを握って反抗心を奪うのか――それが悪役商人というものだ。
 ここでヤツが生徒に手を出している変態教師である証拠を掴めれば、それをネタにベッカード家に脅しをかけられる。

 そうなれば、こちらの意のままに動かせる顧客がひとつ増えるという算段だ。

 おぉ、なんと素晴らしい計画!
 我ながら自分の商才が怖くなってくるよ。

「バ、バカな……なぜおまえがここにいる!? あの結界魔法はそう簡単には破れない! ましてや魔法が使えないおまえたちには突破など不可能なはず!」
「課外授業にしてはやりすぎですね、クレイグ先生――いや、変態クソ教師とお呼びした方がいいか?」
「きょ、教師に向かってなんだ、その口の利き方は!」
「今俺の目の前で行われている行為を教育の一環とおっしゃるつもりですか? でしたら記録した先ほどの映像と音声を学園長含め他の先生方にもご覧いただき、忌憚のないご意見を求めるとしましょうか」

 これが何を意味しているのかは、クレイグが一番よく知っているだろう。
 過去に犯した不祥事は決定的な証拠がないからもみ消せた。

 しかし、今回は違う。
 例の水晶玉によって映像記録としてバッチリ残っているのだ。

 こいつを学園側に提出すれば、罪人として裁かれるかどうかは分からないが、少なくともここにはいられないだろう。
 
 ――そして、この手のタイプが追い込まれた際に取る行動というのも相場は決まっている。

「おまえみたいなガキに……僕のキャリアを潰されてたまるかぁ! この商人風情がぁ!」

 そう。
 逆ギレである。

 裏闘技場の支配人だったガーベルと同じムーブをかましてやがる。

 嫌だねぇ。
 あれだけ卑劣なことを散々やっておいてバラされそうになったらキレ散らかすって。

 悪党としては二流。
 人としては三流以下だ。

「ここで消えてもらうぞ! 魔炎の力にて燃やし尽くせ――【六つの炎輪フレイム・サークル】!」

 魔力によって生みだされた六つの炎は円形となって俺に襲いかかる。

 ……ちょうどいい。

 結界魔法の破壊だけではまだ信用しきれなかったところだ。
 そっちが炎を使うというなら、こっちはそれを打ち消す力で挑もうじゃないか。

「【水の魔弾アクア・ブレット】!」

 向かってくる六つの炎に対し、こちらは一発の魔弾で対応する。
 魔銃から放たれた直後、水属性の魔鉱石を加工して作られた魔弾から大量の水があふれ出てきて、クレイグの炎魔法をあっという間に包み込んだ。

 圧倒的な水量で包まれた炎は鎮火。
 つまり、ヤツの魔法を無効化してやったのだ。

「バカなっ!?」

 始めて見る魔銃の効果に、クレイグは信じられないといった表情を浮かべて立ち尽くしている。

 ヤツからすれば、俺は魔法の使えない無能。
 だが、その無能に自分の魔法をかき消されたのだ。
 穏やかでいられるはずがない。

 ……少々冒険だったが、うまく発動してくれて何よりだ。
 これで魔法が使えない俺でも、魔法使いと互角以上の戦いができる。

 あとは魔弾を量産するだけだ。

「そういえば、まだ先ほどの質問に答えていませんでしたね」
「な、何っ?」
「どうして魔法を使えない俺たちが結界魔法を打ち破れたのか……その答えが、この魔銃なのですよ」
「ま、魔銃だと……?」

 呆然としている隙に、俺はヤツとの距離を詰める。

「あっ――」

 気づいた時にはもう遅い。
 さっきは魔法だったが、今度は渾身の右ストレートを顔面に叩き込んだ。

 魔法ばかりに気を取られて物理攻撃への対応が疎かになったな。
 まあ、もともとこっちは苦手そうなタイプだし、素で反応できなかったのかもしれない。

「へぶっ!?」

 よく分からない声をあげつつ回転しながら吹っ飛んでいくクレイグ。
 壁に激突して気絶をしたらしく、動かなくなった。
 
 すぐにルチーナが駆け寄り、持っていたロープで縛りあげる。

「残念ながら――いえ、ご安心ください。ちゃんと生きています」

 最初ちょっと本音が漏れたな。
 まあ、俺も同意するけど。

「レーク様が拳を痛めるほどの男ではありませんでしたのに」
「そうしなければ俺の気が収まらなかっただけだよ」

 あの男はコニーを泣かせた。
 それだけで重罪だ。

 何せ、彼女は俺の大切な社畜候補。
 ここで気持ちを折られて学園を去られるようなマネだけは避けたい。  
 
 彼女にはこれからさらに魔法を極めてもらい、我が商会の発展に大きく貢献してもらわなくちゃいけないからな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

稀代の大賢者は0歳児から暗躍する〜公爵家のご令息は運命に抵抗する〜

撫羽
ファンタジー
ある邸で秘密の会議が開かれていた。 そこに出席している3歳児、王弟殿下の一人息子。実は前世を覚えていた。しかもやり直しの生だった!? どうしてちびっ子が秘密の会議に出席するような事になっているのか? 何があったのか? それは生後半年の頃に遡る。 『ばぶぁッ!』と元気な声で目覚めた赤ん坊。 おかしいぞ。確かに俺は刺されて死んだ筈だ。 なのに、目が覚めたら見覚えのある部屋だった。両親が心配そうに見ている。 しかも若い。え? どうなってんだ? 体を起こすと、嫌でも目に入る自分のポヨンとした赤ちゃん体型。マジかよ!? 神がいるなら、0歳児スタートはやめてほしかった。 何故だか分からないけど、人生をやり直す事になった。実は将来、大賢者に選ばれ魔族討伐に出る筈だ。だが、それは避けないといけない。 何故ならそこで、俺は殺されたからだ。 ならば、大賢者に選ばれなければいいじゃん!と、小さな使い魔と一緒に奮闘する。 でも、それなら魔族の問題はどうするんだ? それも解決してやろうではないか! 小さな胸を張って、根拠もないのに自信満々だ。 今回は初めての0歳児スタートです。 小さな賢者が自分の家族と、大好きな婚約者を守る為に奮闘します。 今度こそ、殺されずに生き残れるのか!? とは言うものの、全然ハードな内容ではありません。 今回も癒しをお届けできればと思います。

ノンケDK♡痴漢メス堕ち♡性処理担当

BL
真面目でノンケなDK、「結城陸」が痴漢に遭い、未挿入で散々アクメでメス堕ちさせられたのち、同級生から襲われてハメハメ♡ドスケベ性活を謳歌するようになる話。フィクションとして切り分けてお楽しみください。 Skebでのコミッション作品です。ありがとうございました! pixiv/ムーンライトノベルズにも同作品を投稿しています。   なにかありましたら(web拍手)  http://bit.ly/38kXFb0   一次Twitter垢・拍手返信はこちらから行っています https://twitter.com/show1write

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

シンデレラ。~あなたは、どの道を選びますか?~

月白ヤトヒコ
児童書・童話
シンデレラをゲームブック風にしてみました。 選択肢に拠って、ノーマルエンド、ハッピーエンド、バッドエンドに別れます。 また、選択肢と場面、エンディングに拠ってシンデレラの性格も変わります。 短い話なので、さほど複雑な選択肢ではないと思います。 読んでやってもいいと思った方はどうぞ~。

【完結】数十分後に婚約破棄&冤罪を食らうっぽいので、野次馬と手を組んでみた

月白ヤトヒコ
ファンタジー
「レシウス伯爵令嬢ディアンヌ! 今ここで、貴様との婚約を破棄するっ!?」  高らかに宣言する声が、辺りに響き渡った。  この婚約破棄は数十分前に知ったこと。  きっと、『衆人環視の前で婚約破棄する俺、かっこいい!』とでも思っているんでしょうね。キモっ! 「婚約破棄、了承致しました。つきましては、理由をお伺いしても?」  だからわたくしは、すぐそこで知り合った野次馬と手を組むことにした。 「ふっ、知れたこと! 貴様は、わたしの愛するこの可憐な」 「よっ、まさかの自分からの不貞の告白!」 「憎いねこの色男!」  ドヤ顔して、なんぞ花畑なことを言い掛けた言葉が、飛んで来た核心的な野次に遮られる。 「婚約者を蔑ろにして育てた不誠実な真実の愛!」 「女泣かせたぁこのことだね!」 「そして、婚約者がいる男に擦り寄るか弱い女!」 「か弱いだぁ? 図太ぇ神経した厚顔女の間違いじゃぁねぇのかい!」  さあ、存分に野次ってもらうから覚悟して頂きますわ。 設定はふわっと。 『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』と、ちょっと繋りあり。『腐ったお姉様~』を読んでなくても大丈夫です。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

異世界往来の行商生活《キャラバンライフ》:工業品と芸術品でゆるく生きていくだけの話

RichardRoe(リチャード ロウ)
ファンタジー
【短いあらすじ】 ・異世界と現世を往来できる不思議な鏡を見つける ・伝統工芸品を高値で売りさばいて大儲けして、裕福な生活を送る ・ホームセンターは最強() 【作品紹介】 「異世界と日本を行き来できるって、もしかしてすごく儲かるんじゃないか……!?」  異世界に転移できる鏡を見つけてしまった灰根利人(はいね りひと)。転移した先は、剣と魔法のいわゆるナーロッパ世界。  二つの世界を見比べつつ、リヒトは日本の物を異世界に持ち込みつつ、日本にも異世界の映像などを持ち込むことで一儲けすることを企むのだった――。  可愛い亜人娘たちに囲まれる生活もいいが、コツコツ副業に精を出すのもいい。  農業、商業、手工芸、あれもこれもと手を出して進める。  そんな異世界まったりスローライフ物語。 ※参考:出てくる工芸品・織物等(予定含む)  江戸切子  津軽塗(唐塗梨子地)  九谷焼(赤色金襴手)  ベルナルド<エキュム・モルドレ>  シフォン生地のシュミーズ  ベルベット生地(天鵞絨)  カガミクリスタル<月虹>  西陣織(金襴生地・七宝柄)  マイセン<ノーブルブルー> ※参考:出てくる金儲けネタ(予定含む)  しいたけ栽培  Amazon Kindle出版  キャンドル作り  仮想通貨マイニング  歌ってみた  Vtuber稼業  イアリング作り  ライトセイバーバトル ※参考:出てきた魔道具(予定含む)  遠見の加護の首飾り  快眠の指輪  匂いくらましの指輪  深呼吸の指輪  柔軟の加護の耳飾り  暗視の加護の首飾り  鼻利きの加護の指輪  精神集中の指輪  記憶の指輪

処理中です...