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第7話 気になるあの子をダンスに誘った結果

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 授業後。
 ひとりで黙々と帰り支度をしているコニーに声をかける。

「このあと時間あるかな、コニー」
「えっ?」

 いきなり声をかけられて驚きつつ、その相手が俺だと知ると途端に背筋をピンと伸ばすコニー。それに合わせて揺れる胸部に実った豊かなふたつの膨らみ――っと、いかん。ここは紳士的態度をキープしなくては。

「実はうちの秘書――いや、メイドが面白い魔道具を作っていてね」
「魔道具!?」

 おぉ?
 なんか思ったより食いつきいいな。
 
「ひょっとして、魔道具に興味が?」
「ふえっ!? あ、あの、その……はい」

 さっきの反応を思い返して恥ずかしがっているのか、顔を真っ赤にしながら消え入りそうな声で肯定する。
 別に犯罪行為というわけじゃないんだから堂々としていればいいのに。

 彼女の上流階級に接する際の態度は思ったよりも重症のようだな。
 ただ、魔道具に関心があるというのはいい話の種になりそうだ。

「ならぜひとも君に来てもらいたい」
「わ、私にですか?」
「実は今手掛けている魔道具なんだが、うちのルチーナは魔法関連の情報に疎くてね。魔法に詳しい者からアドバイスを受けたいと思っていたんだが……どうかな? 君の力を貸してもらいたい」

 俺の言葉を耳にしたコニーは最初こそキョトンとしていたが、すぐに顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 まずい。
 さすがに直球すぎたか?
 もう少し変化球を織り交ぜた方がよかったのかもしれない。
 そう反省していたら、

「ど、どこまでお力になれるか分かりませんが、助けてくださったレーク様のため、私にできることであればなんでも協力します」
「ありがとう。本当に助かるよ」

 ついに大きく動いたな。
 さあ、ここからが仕上げた。
 なんとしても彼女を舞踏会へと誘うぞ。

 俺たちは場所を学園の敷地内にある工房へ移した。
 ここは二年から始まる魔道具の授業で使われるらしく、今回許可をもらって貸しだしてもらった。
 中に入ると、ルチーナが作業台の上に例の武器を置く。

「これは……」

 始めて見るその武器に、コニーは関心を抱いたようだ。

「そいつが完成をしたあかつきには、魔法を使えない者が魔法を使えるようになる」
「っ!? そ、そんなことが!?」
「できるさ。ただ、肝心なのはこいつの加工だ」

 そう言って、俺はポケットから青、赤、緑色をした三つの小さな石を取りだし、作業台の上に置いた。

「これってもしかして、魔鉱石ですか?」
「そうだ」

 魔鉱石は人々の生活補助のために使われるアイテムで、鉱山から採掘される。赤い物はわずかな魔力を込めることで熱を発し、青い物からは水が染み出る。緑の魔鉱石は微風を生みだす効果があった。

 これらは料理や井戸の代役として使用されることが多いのだが、攻撃手段としては威力が低くて使い物にならない。

 あくまでも生活をほんのちょっと豊かにする程度の物だ。

 ――だが、こいつを俺の考えた魔道具で強化し、攻撃魔法と遜色ない威力を出せるようにする。
 そのためにはどうしても専門家の意見が必要だった。
 一応、関連書籍があるにはあるが、やはり実戦での経験が乏しいとうまくいかない。

 だからこそ、暗黙の了解を打ち破ってまで入学を許可されたコニーの知識と技術に頼ったのだ。

 ひと通り説明を終えると、

「…………」

 コニーは無言のまま武器を手にし、しばらく眺め――それから魔鉱石を手にすると魔力を練り始めた。

「む?」
「お?」

 俺とルチーナは同時に反応を示す。
 噂には聞いていたが……なんという魔力量だ。

 あまりにも強すぎて肉眼でもハッキリ認識できるくらいだ。
 全身から湯気のように紫色のオーラが発せられているのだが、あれ全部魔力っぽいな。

 しばらく見つめていると、

「できましたよ」
「「へっ?」」
 
 あまりにもあっさり言うものだから、俺とルチーナは思わず間の抜けた変な声を出してしまった。

「先ほど説明いただいた通りに加工をしてみましたが、いかがでしょう?」
「あ、ああ、どれどれ……」

 言われるがまま手に取ってみると――なるほど。
 確かに注文通りの仕上がりだ。

 これほどのクオリティをあの短時間で……どうやら、俺はコニー・ライアルという魔法使いの実力を甘く見ていたようだ。

 彼女はまぎれもなく天才。
 ――ほしい!
 ぜひとも俺の商会にほしい逸材!

「素晴らしい出来だよ、コニー」
「本当に……私も鍛冶職人としてさまざまな魔道具を扱ってきましたが、この短時間でこれほどの逸品を作り上げるとは見事としか言いようがありません」
「あ、ありがとうございます」

 俺たちから手放しに賞賛されて照れまくるコニー。

 ……ここしかない!
 周囲に漂うこれは成功の空気!

 そう判断した俺は、早速もうひとつの件について尋ねた。

「コニー……実はもうひとつ頼みたいことがあるんだ」
「なんでも言ってください。お力になってみせます」

 先ほどの成功で自信をつけたのか、微笑みながら告げるコニー。

 これはいい流れだ。
 この流れでダンスの誘いは断られないはず。

 確信に近い自信をもって、俺は彼女に言う。

「今度の新入生歓迎の舞踏会だけど……俺とパートナーを組んでほしいんだ」

 渾身のキメ顔を向けた後、静かに手を伸ばす。
 彼女の答えは――

「ごめんなさい!」
「――えっ?」

 まさかの「NO」だった。

 ……えっ?
 ちょ、ちょっと待って?
 完全にイケる流れだったでしょ!?
 はっず!?

 放心状態の俺に追い打ちをかけるように、ここでまさかの登場人物が。

「あっ、いたいた。ここにいたのかい、コニー」

 工房にやってきたのは男性教員。
 ――俺は彼を知っている。

 名前はクレイグ・ベッカート。

 確か、魔法史の先生で昨年度の入試担当だったはず。
 面接試験の時に顔を合わせたから覚えていたんだ……あの無駄なイケメンぶりを。

 そのクレイグ先生はさも当然のようにコニーの肩へと手をかけた。
 この行為に対し、当のコニー自身は嫌がるどころか受け入れている様子。

「さっき偶然耳に入ってしまったけど……彼女は舞踏会には出ないよ」
「は?」
「私と一緒に魔法の研究をする予定なんだ」
「は、はい。実はそうなんです」
「そういうことだから、失礼するよ。――ああ、それと」

 去り際、クレイグ先生はこちらへと振り返り、

「君のような評判の悪い生徒につきまとわれてはコニーも迷惑だ。今後は接触を控えてくれるかな?」
「は?」

 何を言っているんだ、こいつは。
 大体、コニーは――

「お、お願いします。もう話しかけないでください。迷惑ですから」
「えっ……」

 ペコリと頭を下げるコニー。
 そこで俺の思考は完全に停止。

 何も言い返せないまま、ただ黙ってふたりの背中を見送るしかできずにいた。

 ――これは想定外の事態だ。
 好感触と思いきや、まさか嫌われていたなんて。

というか、それより気になるのはクレイグとの関係性だ。

 学園の教員とあそこまで親密な関係を築いていたなんて!?
 言ってみれば禁断の恋!?
 そういうのに憧れるタイプだったとは!?

 ……待て。
 冷静になるんだ。
 まだ慌てるような時間じゃない。

 舞踏会までの間になんとか立て直しを図らなくては。
 いっそヤツからコニーを寝取るか?
 ……いや、それはスマートな手段じゃない。

 大体、そんなやり方では真の意味で忠誠心を持たせることはできないだろう。

 俺は形だけの社畜などいらない。

 心から俺を崇拝し、何の疑問も持たず俺のために労働するのはご褒美と思えるくらいになってもらわなくては困る。
 でなければ真の社畜とは言えないだろう。

 潔く身を引く方が男らしいのだろうけど、俺はどうしてもあきらめきれなかった。
 彼女の魔法使いとしての資質もそうだが……あの芸術的なまでのスタイル! 
そして俺の好みの愛らしい顔!
 これも大事なファクターだ!

 やはりこのままってわけにはいかない!

 ――それに、まったく脈なしというわけでもないと思う。
 断じて負け惜しみなどではなく……工房にクレイグ先生がやってきたと知った時のコニーの表情が気になった。
 ほんの一瞬だったが、「どうしてあなたがここに?」と言わんばかりに表情が引きつって見えたのだ。
 
 それに、俺がダンスを誘って断われた直後にクレイグ先生が工房を訪れたというタイミングも気になる。

「……ルチーナ」
「はい」
「クレイグ・ベッカートを監視してくれ」
「なぜ彼を?」
「ヤツは何らかの理由でコニーを脅しているかもしれない。でなければあのタイミングで俺の誘いを断るはずがない」

 かなり強引な理論だが、相手がルチーナならこれくらいでちょうどいい。

「なるほど。確かに、この世界でレーク様の誘いを断る者などいるはずがありませんからね。何か裏の事情があると読むのが自然。早速調べてみます」

 ほらね。
 なんかもうぶっ飛んだ理由で納得してくれた。
 俺としてはもう何でもいいから動いてほしいので助かるけど。


  ◇◇◇


 ルチーナはクレイグ先生に張りついてヤツに関する情報を集めてくれた。
 もはやストーカーを疑われても仕方がないくらい執拗に調べ、おかげでヤツが神聖な学び舎を舞台にとんでもない計画を練っていたことが判明する。

 実行に移すまで時間はないが……これは状況をひっくり返せる大チャンスだ。
 あれからというもの、俺がコニーに振られたという噂が学園中に広まり、いい笑い者となっていた。

 それ自体は特になんとも思わない。
 評価はこれからじっくり変えていけばいい。

 ともかく、俺は状況を打開する策を思いついた。
 そのために必要なアイテムの製作をルチーナへと依頼する。

「あと二日で完成できるか?」
「一日で大丈夫です」
「よし。なら一日で仕上げてくれ」
「かしこまりました」

 なんとか準備は整いそうだな。

 しかし、相手は魔法を専門にする教師。

 簡単に足がつかないよう、入念に仕掛けてきている可能性もある。
 アイテムが完成するまでの間、その辺の調査は俺自らが行おう。

 くくく……ヤツの驚愕する顔が目に浮かぶ。
 ここから一発逆転といこうか。
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