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第6話 アプローチ開始

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 入学式が終わると、俺はルチーナを連れて校舎内を散策。

 あまりにも広いんでどこに何があるのかをチェックしておきたい気持ちもあるが、もしかしたら探している女子生徒を発見できるかもしれない。

「立派な庭園もありますね。川まで流れていますよ」
「随分とこだわっているようだな」

 学園を歩いていて感じるのはやはりそのスケールの大きさ。

 いずれこのすべてを我が手中に収める。
 世界を牛耳る前哨戦としては十分だろう。

 周りに誰もいない、静かな庭園を散歩していたら、

「平民のくせに生意気なんだよ!」

 せっかくの爽やかな気分を台無しにする声が。

「レーク様!」
「……分かっている」

 正直、あまりかかわりたくはないが、放っておいたらまたルチーナの正義感が爆発して相手を粉々にしてしまうかもしれない。
 たぶん、相手が名家のお坊ちゃまであったとしても対応は変わらないだろうな。
 ルチーナというのはそういうヤツだ。

 あきらめて声のした方向へと進むと、そこにはひとりの女子生徒が男子生徒四人に囲まれていた。
 絵に描いたようないじめの現場だが……どうもあの女の子が平民で他四人の男子は上流階級の者らしい。

「む?」

 平民の女子と知って「もしや」と思ったが――いやいや、俺は運がいい。
 いじめられていたのは俺が社畜二号の最有力候補として選んだ女子生徒であった。

 名前はコニー・ライアル。

 赤いボブカットが特徴的な可愛らしい女の子だ。
 新入生の中では数少ない平民であり、おまけに魔法適性がある。

 平民という立場上、たとえ魔法適性があったとしても学園に入れる者は少ないのだが、それでもああして学園の制服に袖を通しているということはお偉いさんたちにその資質を認められた揺るぎない証拠と言えた。

 ――だが、やはりそういうヤツはいじめの的になりやすい。
 出る杭は打たれるというべきか、とにかく金持ちとか地位のあるヤツは自分よりも低い身分のヤツに抜かれることを嫌う。
 これは前世でも嫌というほど経験してきた。

 しかし、この状況は俺にとって喜ばしい。
 ここで颯爽と駆けつけて助ければ好感度爆上りは間違いない。

 善は急げ。

 俺はコニーへ殴りかかろうとした男子生徒の腕を掴んだ。

「な、なんだ、てめぇ!」
「いかなる理由があろうと、女性に対して手をあげるというのは感心しないな」
「はあ? 何を言っでででででで!?」

 腕を捻りあげ、ちょっと力を込める。
 それだけで男子生徒は悲鳴をあげた。
 ちょっともろすぎないか?

「こ、こいつ!」

 仲間を助けようともうひとりの男子生徒が飛びかかってきたが、そのタイミングで俺は力を緩めて手を放す。反動で締め上げていた男子と飛びかかってきた男子が正面衝突。

しかも……うわぁ……口と口がぶつかってる。
あれがファーストキスだったら申し訳ない――とは微塵も思わない。

「調子に乗るなよ!」
「おらぁ!」

 残りふたりはまとめてきた。
 おかげで手間が省ける。
サラッとかわしてひとりには前蹴りを食らわせ、もうひとり襟首を掴んで投げ飛ばした。

後ろでルチーナが参加したそうな顔をしているけど、アイコンタクトで助太刀無用と合図を送る。

ちなみに、彼女のメイド服のスカートの裏にはびっしりと小型の武器が隠されている。

「メイド服は苦手ですが、武器を隠せる場所が多いのは気に入っています」

 と、笑顔で語っていたが、たぶんメイド服って武器を隠すためにあんなデザインをしているんじゃないと思う。

 まあ、彼女の助けがなくてもすでに向こうは戦意喪失状態のようだが。

「まだやるかい?」
「ちぃ……覚えてやがれ!」

 四人はヨロヨロと立ち上がって逃走。
 ふん、所詮は群れなければイキれない雑魚だ。
 俺の敵ではなかったな。

「さすがはレーク様」
「ふん。あんなのは倒せて当然だ。――それより、大丈夫か?」

 座り込んだまま怯えているコニーへと声をかける。
 彼女はまだ助かったという実感がないようで、わずかに体を震わせながら視線を泳がせていた。 
 よほど怖かったのだろう。

「君にひどいことをしようとした連中はもういない。安心してくれ」
「あ、ありがとうございます」

 手を差し伸べると、コニーはそれを取って立ち上がった。

「君の名前……教えてもらってもいいかな」

 すでに彼女に関する情報はいろいろと入手済みだが、初対面という形を崩しては怪しまれるので名前を尋ねる。

「あっ、わ、私はコニー・ライアルといいます」
「俺はレーク・ギャラード。同じ新入生だ。それでこっちは世話役を務めてくれるルチーナ」
「よろしく」
「よ、よろしくお願いします」

 コニーの顔から恐怖心が消えた。
 ようやく自分が助かったと理解したらしい。
 こう言ってはなんだが……ちょっとどんくさいタイプか?

「ほ、本当に、危ないところを助けていただき、改めてありがとうございました」
「気にしなくてもいいさ。当然のことをしたまでだからね。それじゃあ、俺たちはこれで失礼するよ」
「は、はい」
「いくぞ、ルチーナ」
「はっ! いつでもおそばに!」

 俺はそれだけ告げて颯爽とその場を立ち去る。
 
 ――本来ならば、ここで今すぐ仲間にするよう甘い言葉をかけるのだが……今日のところは一旦退いておく。

 これはついさっき知ったコニーの性格を考慮しての判断だ。
 ああいうタイプはがっついていくより一度引いて少しずつ距離を詰めていけばいい。

 平民という身分であれば、貴族連中が目をつける可能性も低い。
 しっかりと関係を深めて舞踏会へ誘う。

 ついでに不良生徒から女子を守ったことでルチーナの忠誠度がカンストを通り越して青天井に入ったようだし。

 まだすべては始まったばかり。
 慎重に計画を進めていかないとな……ふははは!


 ◇◇◇


 次の日から学園は通常授業が始まる。
 一年のうちは共通クラスで二年からそれぞれの専門クラスへと分かれるというのがこの学園のスタイルだ。

 そのため、俺とコニーは教室で顔を合わせる機会がある。
 おまけに彼女とは座席が隣同士という幸運。
 お互いに平民という立場と昨日の件もあって会話もできたのだが……ひとつ問題点が。

「おはようございます、レーク様」
「ああ、おはよう、コニー」

 まだまだコニーの態度がぎこちない。
 もっとこう、くだけてもらって全然構わないのだが、一歩引いているというか遠慮している節がある。

 これは恐らく、彼女の出生に関係があるのだろう。
 ギャラード商会の力を駆使して集めた情報でそれは判明している。

 彼女は孤児であり、王都の外れにある教会で育った。
 しかし、幼い頃から人並み外れた魔力量を誇り、それを操ることに長けていた。

 学園創設以来存在しているという「生い立ちが不透明な者の入学は問答無用で認めない」という暗黙の了解さえ捻じ曲げてしまうくらいの才能だ。

 だが、時として才能豊かな人材はいらぬ恨みや妬みを集める。

 絡んでいたあの男たちもそうだろう。
 まったく、器の小さい連中だ。

 ともかく、そういう事情もあってコニーはクラスで浮いた存在となっていた。

 俺以外の生徒と話している姿を見たことがない。
 完全にボッチ状態だ。

 かく言う俺も完全無欠のボッチだった。
 自慢ではないが、これは前世と同じ。

 ルチーナという話し相手がいてくれるだけ前世よりマシだが、彼女は彼女でいつものオーバーアクションと燃え滾る正義感でクラスにいるどの世話役よりも主張が激しく、周囲からも「あいつには近づかんどこ」とドン引きされているのが分かる。

 勧誘しておいてなんだけど、あいつ味方に見せかけて実は敵なんじゃないか?

 ま、まあ、別にいい。
 あくまでも俺は俺のために働いてくれる者と将来のお得意様とだけ親しくできればいいのだから。
 泣いてなんかいないぞ?

 それはさておき……くくく、コニーに関しては好都合だ。

 周りに信頼のおける人物がいないとなれば、こちらへ依存させやすくなる。
 そろそろ計画を次の段階へと移すか。
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