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第5話 学園の支配者(予定)

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 やってきた入学式当日。
 まるでそれを祝福するかのように空は快晴で気温は適度。
 
 野望の第二歩目となる記念すべき日に相応しいな。


 学園の敷地面積は想像よりずっと大きかった。
 さすがは選ばれし者しか通えないエリートの巣窟といったところか。

「くくく、実に素晴らしいな!」
「はい。今日もレーク様は全身あますところなく素晴らしいです」

 真横に立つルチーナの発言に、周りの同じ新入生たちは騒然となる。
 やがてあちこちからヒソヒソ話が。

「あいつがギャラード商会の……メイドにあんなことを言うように強要するなんて悪趣味だな」
「どうせ親のコネで入学したんだろ」
「もしくは学園に多額の寄付金でも払ったか?」

 ……いかん。
 ただでさえ低い評価がさらに急降下している。
 悪目立ちしすぎたようだ。

 ルチーナはルチーナで陰口を叩いている連中を「シメますか? 先ほどいい感じに人気の少ない校舎裏の空間を発見したんです」とブチギレ寸前。
 なだめるのに苦労したぞ、まったく。

 ともかく、今後は表向きの活動に細心の注意が必要となるな。
 ここにいる貴族の御子息や御令嬢は将来の大切な金ヅル――ゴホン。大事な取引先となるかもしれないのだ。

 あまり目立つ態度は控えるべきか?
 ――だが、それでは俺が学園入学の際に掲げていた目標を達成しづらくなる。

 その目標とは……学園の支配者になること。

 もともと入学時に周りから下に見られるだろうというのは予測済み。
 生まれた家の地位が重要視されるこの世界では当然のことだろう。

 だから、俺はその評価を覆す必要があった。
 そのためにも、ここからの交友関係が俺の人生を左右すると言って過言ではない。

 こちらがさらに上の存在であると見せつけ、「これほどの方が経営する商会なら安心して任せられる」と思わせるのだ。

 実現に向け、すでに手は打ってある。
 
 俺と同級生になる新入生だが、すでにギャラード商会の持つ強力なコネクションを利用して入手済み。特にお近づきとなりたい家の者たちはリストアップを終えている。
 
 中でも本命は……やはり『彼女』だな。

 入学までの一ヵ月間でルチーナに作らせた例の武器。
 正直、ほとんど適当に描いたあの設計図をもとにどうやってこれほどの高クオリティを実現できたのか疑問だが……それこそ、王都で五代続く鍛冶屋で歴代トップと評された腕前だから成せる業なのだろう。

 卒業して商会支部の運営を任されたら、真っ先に彼女を製品開発部門の責任者にしなくてはな。
 ともかく、こいつが完成すれば、俺の弱点は消え失せる。

 俺の弱点――それは魔法が一切使えないというものだった。

 五歳の時に受けた魔力鑑定の儀式で判明したのだが……最初にこの事実を突きつけられた時はさすがにショックを受けた。

 逆に父上はあっさりとしたもので、「ないならしょうがない」と言い放ち、それまでと変わらない態度で俺に接してくれた。

 父上にとって魔法を使える使えないはどうでもいいのだ。

 商人には関係がない。
 稼げるヤツが偉い。
 そもそも父上自身が魔法を使えないようだし、そこまで執着がないのだろう。

 魔力がまったくないわけではないが、自然界の力を借りる魔法を使用するのに必要な魔力量が圧倒的に足りず、まともには使えないと鑑定した神官が説明してくれた。

 魔法を使える人間が人口の何割を占めるのか――そういう統計的な数字は何も出ていないものの、体感では四割くらいの人間が使いこなせるようだ。

 つまり、この世界において、「魔法が使える」というのはそれだけアドバンテージがある。
 
 転生者としてはやはり炎とか水とか風とか、ド派手で見栄えのする魔法を身につけたいと楽しみにしていただけに残念極まりない。

 だが、この事実が逆に俺の心へ火をつけた。

 一流の悪を目指す者として、「できません」のひと言であっさり引き下がるのはナンセンスだと感じたし、何よりやっぱり魔法を使ってみたいという気持ちが勝った。

 そこで、俺は魔法とまではいかなくても限りなくそれに近い効果をもたらす魔道具の開発を思いついた。

 すでにほとんど出来上がっており、あとは魔力関連の部分を仕上げて完成となる。

 学園ではその仕上げ部分の担当者を探すつもりだ。
 俺とルチーナが疎い魔法関連のスペシャリスト……誰にするかはもう決めている。

 入学式の最中も学園長のありがたいお言葉を華麗にスルーしてどこにいるのかずっと探していたが、結局見つからなかった。

 その後、教師から今後の予定について簡単な説明を受ける。
 本格的な授業の開始は明日からとなり、一週間後には歓迎会を兼ねた舞踏会が開催されるという。
 
 この舞踏会というのが、学園での覇権を握るうえで欠かせない重要な位置づけとなるビッグイベントだ。

 ここでダンスに誘い、一気に親密な関係となる男女も少なくはない。
 ――というか、ほとんどそれが狙いだった。

 この学園にいるのは大半が良家の出身。

 家からはすでに誰を誘えと命じられているだろうから、それに応じて相手を選ぶはず。

 誘いが集中するのはやはり公爵家。
 特にこの国では御三家と呼ばれる三つの家が権力の中枢となっている。

 ほとんどの生徒はこの御三家の誰かと一緒に踊りたいと誘いに出るはず。
 ちなみに、俺が狙っている女子生徒は御三家の一員ではないので競争率は高くないとみている。

 まあ、踊るのは絶対にひとりでなくちゃいけないというわけじゃないので、複数人とペアを組んでも問題ないらしいが、俺の場合は標的をひとりに絞り込んでいる。そっちの方が誠実そうに見えるしな。

 とはいえ、ゆくゆくはそこからひとりくらいはうちの商会のお得意様となってくれるよう接触を試みるつもりではいる……が、ハッキリ言って時期尚早。

 焦る必要はない。

 今はまだ実績を重ねることに集中すればよいのだ。
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