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第164話  魔王VS優志

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「地球を……」

 魔王シンの野望を耳にした優志は聖水剣を構える。

「勇ましいね。だけど君では私に勝つことは叶わない」
「宮原さんだけじゃない!」

 六人の勇者たちの闘志もまだ死んではいない。それぞれが手にした武器を構えて魔王シンへと立ち向かう。

「本当に……君たちは理想通りの勇者だね」

 こちらの戦意が萎えていないことを理解した魔王シンの表情が変化する。両手を前に突き出し、それぞれの掌からバスケットボールほどの大きさをした闇色の光弾を生み出した。

「君たちが私の野望の邪魔をするというなら、相応の態度を示すまでだ」

 そう言い放ち、


「死ね」


 明確な殺意が込められた一言が引き金となり、光弾は放たれた。
 
「みんな、避けろ!」

 三上の指示を受け、勇者たちはその場から退避――だが、優志だけはその場に留まった。

「! 宮原さん!?」
「大丈夫だ、三上くん――俺が止める!」

 優志は聖水剣をしっかりと握り、光弾へと飛び込んでいく。
 そのうちのひとつを真正面に捉えた。

「!!!」

 こちらを目がけて飛んでくる光弾へ、優志は剣を向ける。

「! まさか、アレを斬る気なのか!?」
「優志さん!?」

 武内と美弦は優志が何をしようとしているのかいち早く読み取った。が、ふたりはすでに回避行動に移っているため、援護のしようがない。他の勇者たちも同様だった。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 勇ましい雄叫びをあげて、優志は光弾を聖水剣で切り裂いた。

「うおっ!? すげぇ!」
「マジっ!? あのおっさんやるじゃん!」

 上谷と安積は優志の気迫ある一撃に称賛の声を贈る。
 だが、優志に慢心はない。
 まだ光弾はあとひとつ残っているのだから。

「やるじゃないか。なら、こいつはどうだい?」

 残りひとつの光弾は大きく軌道を変えて優志へと襲い掛かる。この光弾は魔王シンの意思ひとつで方向を変えられるのだ。
 しかし、優志はそれを読んでいた。
 すぐさま体勢を立て直し、自分へと向かってくるもうひとつの光弾を迎え撃つ。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 
 一発目と同じように、優志は光弾を斬り捨てた。

「!?」

 これには魔王シンも、そして同じくこの世界へ転移してきた若き勇者たちも同じように驚きを隠せないでいた。

「ば、バカな……君のスキルは回復スキルのはず!?」
「そうだ。俺のスキルは回復スキル――だからあんたに勝てる!」
 
 優志は再び剣を構えた。
 その瞳は自信に満ちている。

「そうか……優志さんの回復スキルなら魔人化したあの人を元に戻せる」

 美弦の言葉を受けた武内も、優志の言動の意図を理解する。

「なるほど……魔王シンを元の人間――館川新太郎に戻せば、俺たちにも勝機はある!」
「そうと決まれば俺たちのやるべきことはひとつだ!」

 橘のかけ声で、勇者六人は優志を援護するための陣形を整える――だが、それを遮るようにひとりの少年が決戦の場に舞い降りた。

「そこまでにしてもらおうかな」

 ニックを打ち破って駆けつけた真田であった。

「! 真田くん!」

 真田の登場に一番動揺したのは優志だ。
 なぜなら、真田がこの場にいるということは、彼を止めるために戦線を離れたニックは敗れたということを意味する――リウィルの父であるニックの。

「宮原さん! 真田は俺たちが食い止める!」
「だから宮原さんは魔王シンに集中してくれ!」
「魔王を元の人間の姿に戻せば、さっき言っていたバカげた計画も食い止められるはずだ!」

 勇者たちからの叫びを耳にした優志はハッと我に返る。
 今、魔王シンを止められるのは自分しかいない。
 この聖水剣で、魔王シンを元の人間の姿に戻す――そうするより他ないのだ。

「魔王シン! 覚悟してもらうぞ!」
「どうしても私の邪魔がしたいようだな」

 魔王シンは背中にある大きな黒い翼を広げると、空高く舞い上がった。
 
「これで一対一……正真正銘、最後の戦いだ」

 上空から魔王が呟く。
 優志にその声は届かないが、敵意をむき出しとしていることはハッキリと認識できた。

「来いよ、魔王」

 優志も腹を括る。
 これが最後の勝負――最後の一撃。

「ふっ――食らうがいい」

 魔王シンは特大の光弾を生み出し、それを優志目がけて解き放つ。だが、優志は怯む様子もなく、その巨大光弾を一刀両断。衝撃で辺りに突風が生じるが、それをもろともせずに反撃へと移る。

「伸びろ!」

 優志の意思に応じて、聖水剣は姿を変化する。
 大きく伸びる聖水剣は真っ直ぐ魔王シンへと向かって伸びるが、これを難なく回避されてしまった。

「その剣はいろいろと厄介だ」

 魔王シンは急降下し、優志と距離をあっという間に詰めると、体当たりをしたあとそのまま優志を掴んで上空へと持ち上げていく。体当たりを食らった衝撃で、優志は聖水剣を手放してしまっていた。

「あれだけの衝撃ならば、落としても無理はない」
「ぐっ……」

 突き立てることが叶わず、しかし、切り払うこともできない。

「このまま地面に叩きつけてやろう」
「そいつは――どうかな!!」

 優志は拳を握る。
 その手には――落としたはずの聖水剣が握られていた。
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