上 下
159 / 168

第159話 突入! 魔王城!

しおりを挟む
「ミヤハラ・ユージ……下がっていてくれ」

 魔人バルザ改めニックが前に出て、真田と対峙する。

「魔人……君は彼らに味方をするのか」

 さすがに魔人が相手とあっては、真田とこれまでの余裕な態度ではいられないようで、気を引き締めているようだ。

「ニックさん……」

 優志はニックの背中に語りかける。ニックは振り返らず、そのままの状態で優志に話しかけた。

「ずっと……不思議に思っていた」
「え?」
「戦勝パレードで君を見かけた時……どうにも君の存在が気になっていた。それが一体なんなのかどうしても知りたくて、君の仕事場を遠目から眺めていた」

 ニックは優志に何かを感じ取っているようだった。
 優志は優志で、ニックがバルザ時代に抱いていた違和感の正体に気づく。

「それは……俺じゃなかったんですよね?」
「そうだ。私が気になっていたのは――君の近くにいるリウィルだった。あの子は私の大切な娘だから……魔人になっても、記憶の奥底にその存在は残っていたのだろう」

 大きく息を吐いてから、ニックは腰を屈めた。

「あの子には……幼い頃からずっと苦しい思いをさせてきた。だが、君と仕事をしている時のあの子は本当に幸せそうな顔をしていた。できるならば、これからも君の店で働かせてやってもらいたい」
「そんな……俺の方こそ、彼女の働きぶりには助けられています」
「それを聞いて――安心した!」

 言い終えると同時に、ニックは仕掛けた。
 地を抉るほどの瞬発力をもって、真田との距離を一気に詰める。

「!?」

 完全に虚を突かれた真田はなんとか大剣を体を守ったが、想定以上の威力にガードをしていたにも関わらず吹っ飛ばされた。

「ニックさん!」
「行け! ここは俺に任せろ!」
「そ、そんな……でも!」
「俺は……向こうの世界ではすでに死んだ人間だ。だったら――娘に生きる道を示してくれた恩人のためにこの命を燃やす。君は他の兵士たちと共に魔王城へ向かえ! そこに、すべての根源があるはずだ!」
「ニックさん……」
「娘を頼んだぞ――ユージ!」

 ニックは吹っ飛ばされた真田へ追撃をするため再び大きく跳躍した。

「ユージくん!」
「ゼイロさん! ニックさんが!」
「彼は我々に道を作ってくれた! 今アデム団長が兵を集結させて魔王城へ進路を取るように命令を飛ばしている! サナダくんの手が及ばないうちに魔王城へ向かおう!」
「は、はい……美弦ちゃん」
「私は大丈夫です。それに……きっとニックさんだって無事に戻ってきますよ」
「……だな。よし、行こう!」

 優志は腹を括った。
 真田はニックに任せ、優志たち連合軍はとうとう魔王城の敷地内へと侵攻していく。

「よし! 城門を突破しろ!」

 指揮官にアデムが戻ったことで、連合軍はしっかりと統率が取れるようになった。さらに副官を務めるゼイロの復帰も大きい。連携を中心に、獰猛な魔獣を次々と撃破していき、とうとう城門を突破して魔王城へと侵入していった。

「ここが魔王城内部か……」

 連合軍が先行する中、優志たち転移組は最後尾の一団にいた。
 というのも、真田の件を他の勇者たちに知らせなければいけなかったからだ。
 その役を、優志は自ら買って出た。
 年齢が一回り近く離れているとはいえ、同じ世界の同じ国で育った者たち。その複雑な心境の変化を汲み取るのは、きっとこの世界にいる者たちよりも優れているだろうからというのが理由だった。

「そ、そんな……」

 橘は驚きのあまり震えが止まらない。

「くそっ!」

 上谷は自分たちを騙していた真田へ憤っていた。

「マジかよ……」

 武内は呆然と立ち尽くす。

「真田っちが……」

 安積も同じくショックを受けたようだった。

「最初から、スキルだけが目当てだったのか……」

 三上は真田の狙いが優れたスキルであったことに戸惑いを隠せない。

 若き勇者たちは一様に動揺している。
 それは懸念されていた反応であったが、それでも優志は今後のためにも真実を告げなければいけないと思っていた。
 なぜなら――もし、ニックが敗れたら、この場に真田が乱入してくることは間違いない。そうなった時、事前に裏切ったことを知らない勇者たちはパニックになるだろう。これまで共に戦ってきた真田を咄嗟に敵と判断して迎撃できるのは無理だと踏んだのだ。
 結果として、優志の作戦は成功と見ていい。
 最初こそ動揺していたが、ここが魔界であり、もう魔王城に入っているという事実が、勇者たちを迷いから吹っ切れさせた。
 実際に真田と対峙していたら、ここまで冷静に周囲を見回すことはできなかっただろう。

 勇者たちの気持ちが切り替わったとのほぼ同じタイミングで、先頭集団から悲鳴のような声が聞こえてきた。

「! おいでなすったか!」

 優志は聖水剣を構える。
 他の勇者たちも戦闘態勢へ。

 魔王城一階で連合軍を襲ったのは――まさかの相手だった。

「おいおいおい……いくらなんでもこれはないだろ」

 優志は驚愕する。
 現れたのは――百体以上はいる魔人の群れだった。
しおりを挟む
感想 188

あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

異世界最強の賢者~二度目の転移で辺境の開拓始めました~

夢・風魔
ファンタジー
江藤賢志は高校生の時に、四人の友人らと共に異世界へと召喚された。 「魔王を倒して欲しい」というお決まりの展開で、彼のポジションは賢者。8年後には友人らと共に無事に魔王を討伐。 だが魔王が作り出した時空の扉を閉じるため、単身時空の裂け目へと入っていく。 時空の裂け目から脱出した彼は、異世界によく似た別の異世界に転移することに。 そうして二度目の異世界転移の先で、彼は第三の人生を開拓民として過ごす道を選ぶ。 全ての魔法を網羅した彼は、規格外の早さで村を発展させ──やがて……。 *小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。

付与効果スキル職人の離島生活 ~超ブラックな職場環境から解放された俺は小さな島でドラゴン少女&もふもふ妖狐と一緒に工房を開く~

鈴木竜一
ファンタジー
傭兵を派遣する商会で十年以上武器づくりを担当するジャック。貴重な付与効果スキルを持つ彼は逃げ場のない環境で強制労働させられていたが、新しく商会の代表に就任した無能な二代目に難癖をつけられ、解雇を言い渡される。 だが、それは彼にとってまさに天使の囁きに等しかった。 実はジャックには前世の記憶がよみがえっており、自分の持つ付与効果スキルを存分に発揮してアイテムづくりに没頭しつつ、夢の異世界のんびり生活を叶えようとしていたからだ。 思わぬ形で念願叶い、自由の身となったジャックはひょんなことから小さな離島へと移住し、そこで工房を開くことに。ドラゴン少女やもふもふ妖狐や病弱令嬢やらと出会いつつ、夢だった平穏な物づくりライフを満喫していくのであった。 一方、ジャックの去った商会は経営が大きく傾き、その原因がジャックの持つ優秀な付与効果スキルにあると気づくのだった。 俺がいなくなったら商会の経営が傾いた? ……そう(無関心)

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...