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第155話 魔人バルザの正体
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「バルザ……」
突如現れたのは行方不明となっていた魔人バルザであった。
「うおっ!?」
周りの兵士たちは突然姿を見せたバルザに大きく動揺した。当のバルザ本人は涼しい顔をしているが、ベルギウスの一件を耳にしている兵士たちからすれば、なんの目的をもってこの場にやってきたのか――そこに意識が集中していた。
……ただ一人を除いて。
「真田くん……?」
優志が気にかけていたのはバルザの登場を予知していたとも取れる真田の言動であった。しかも、他の兵士たちはおろか同じ勇者である召喚者たちでさえ、バルザの登場に動揺を隠しきれないのに、真田はバルザと同じく平然としている。
まるで、ここにバルザが現れることを事前にしっていたかのように。
「どうかしましたか、宮原さん」
他の者たちの視線がバルザに注がれている中、ただ一人真田を見つめる優志。その熱視線に気づいた真田はやはり落ち着いた態度で優志に尋ねる。
「君は……バルザがここへ来ることを知っていたのかい?」
「まさか。僕だって驚いていますよ。ただ……僕の場合は人より少し感情表現が苦手なだけです。よく誤解されるんですよ」
事もなげに答える真田。
その真意を、優志が知る術はない。
だが、疑えば疑うほど、真田の笑みに得も言われぬ不気味さを覚える。
「ゆ、優志さん?」
その時、声をかけられた――振り返ると、そこに立っていたのは美弦であった。
「あ、あの魔人は一体何をしにここへ……」
「分からない……ただ、塔の件がある以上、穏便に済ませるってわけにはいかないかもしれないな」
優志は気持ちを切り替えた。
真田のことが気になるには気になるが、今はそれよりも目の前にいるバルザだ。
視線を戻すと、そのバルザは何やら探し物をしているかのように首をゆっくりと振って辺りを見回している様子だった。
「ベルギウス様を探しているのか?」
一歩前に出て、そう尋ねたのはゼイロだった。
「生憎だがベルギウス様は魔界へ来られていないぞ。……おまえにやられた傷がまだ癒えておらぬのだ」
「俺がやったわけじゃない」
バルザはすぐさま反論をした。
「俺は助けようとしたんだ。そしてベルギウスをあのような目に遭わせたヤツを探しだすためここまで来たが……」
「? バルザ?」
ゼイロはバルザの様子がおかしいことに気づいた。
「ここは……俺は……君は――《ゼロ?》」
「なっ!?」
バルザの放った「ゼロ」という言葉に、ゼイロは激しい反応を示した。優志や勇者たちはもちろん、周りの兵士たちも何事かと一斉に視線を向ける。
――だが、この場にもう一人、バルザの言葉を理解する者がいた。
「ゼロ……ゼイロの訓練兵時代のあだ名を知っている……まさか、記憶が戻っているのか!?」
騎士団長アデムだった。
「ゼロ……アデム先輩……」
「! やはりそうか! おまえなんだな――ニック!」
アデムは魔人バルザが相手であることを忘れ、両肩を力強く掴んだ。
「に、ニック?」
「誰それ? ウッチー知ってる?」
「聞いたことのない名前だな」
勇者たちと優志は聞いたことのない名前に困惑気味――だが、兵士たちの反応はまったく違っていた。
「ニック? まさか、ニック教官なのか?」
「まさか……」
「しかし、言われてみればあの顔立ち……どことなく教官に似ていない気がしないでもない」
どうやら兵士たちはニックという名に心当たりがあるようだった。念のため、優志はダズたちに聞いてみたが、誰も知らないという。御三家の関係者も知らないらしい。残るは元騎士団の一員であるジョゼフだ。
「ジョゼフさんは、ニックという名に覚えはありますか?」
「……はい」
ジョゼフはニックという人物をしっているらしかった――が、なぜだかその表情は冴えないでいる。
「えっと……その人ってどんな方なんですか?」
「元々は騎士団の人間で、次期団長との呼び声も高かった有能な人です。……しかし、ある時の戦闘で、魔獣から仲間を庇い、右腕を失いました。それからは教官として若手の育成に尽力をしましたが、それにも限界がきて神官職へ就くことになりました。今の神官長であるガレッタ様も、彼の教え子です」
「ガレッタさんの?」
あの魔人バルザはガレッタにとって恩人である可能性があるという。
そしてさらに――ジョゼフは衝撃の事実を告げた。
「ニック・スパイクスという人物は……ユージ殿にとってもまったく無関係な人物というわけではありません」
「俺にとっても? でも、俺が騎士団と関わるようになったのはまだほんの数ヶ月ですよ? その間の知り合いっていってもそんなに数は多くないし……」
「いえ、あなたにとってはとても大きい存在ですよ」
「大きい存在?」
そう言われて、真っ先に浮かんできたのは――リウィルだった。
「! リウィル……リウィルと関わりのある人なんですか?」
優志の問いかけに、ジョゼフはゆっくりと首を縦に振った。
「ニック・スパイクスは――リウィル・スパイクスの父親です」
突如現れたのは行方不明となっていた魔人バルザであった。
「うおっ!?」
周りの兵士たちは突然姿を見せたバルザに大きく動揺した。当のバルザ本人は涼しい顔をしているが、ベルギウスの一件を耳にしている兵士たちからすれば、なんの目的をもってこの場にやってきたのか――そこに意識が集中していた。
……ただ一人を除いて。
「真田くん……?」
優志が気にかけていたのはバルザの登場を予知していたとも取れる真田の言動であった。しかも、他の兵士たちはおろか同じ勇者である召喚者たちでさえ、バルザの登場に動揺を隠しきれないのに、真田はバルザと同じく平然としている。
まるで、ここにバルザが現れることを事前にしっていたかのように。
「どうかしましたか、宮原さん」
他の者たちの視線がバルザに注がれている中、ただ一人真田を見つめる優志。その熱視線に気づいた真田はやはり落ち着いた態度で優志に尋ねる。
「君は……バルザがここへ来ることを知っていたのかい?」
「まさか。僕だって驚いていますよ。ただ……僕の場合は人より少し感情表現が苦手なだけです。よく誤解されるんですよ」
事もなげに答える真田。
その真意を、優志が知る術はない。
だが、疑えば疑うほど、真田の笑みに得も言われぬ不気味さを覚える。
「ゆ、優志さん?」
その時、声をかけられた――振り返ると、そこに立っていたのは美弦であった。
「あ、あの魔人は一体何をしにここへ……」
「分からない……ただ、塔の件がある以上、穏便に済ませるってわけにはいかないかもしれないな」
優志は気持ちを切り替えた。
真田のことが気になるには気になるが、今はそれよりも目の前にいるバルザだ。
視線を戻すと、そのバルザは何やら探し物をしているかのように首をゆっくりと振って辺りを見回している様子だった。
「ベルギウス様を探しているのか?」
一歩前に出て、そう尋ねたのはゼイロだった。
「生憎だがベルギウス様は魔界へ来られていないぞ。……おまえにやられた傷がまだ癒えておらぬのだ」
「俺がやったわけじゃない」
バルザはすぐさま反論をした。
「俺は助けようとしたんだ。そしてベルギウスをあのような目に遭わせたヤツを探しだすためここまで来たが……」
「? バルザ?」
ゼイロはバルザの様子がおかしいことに気づいた。
「ここは……俺は……君は――《ゼロ?》」
「なっ!?」
バルザの放った「ゼロ」という言葉に、ゼイロは激しい反応を示した。優志や勇者たちはもちろん、周りの兵士たちも何事かと一斉に視線を向ける。
――だが、この場にもう一人、バルザの言葉を理解する者がいた。
「ゼロ……ゼイロの訓練兵時代のあだ名を知っている……まさか、記憶が戻っているのか!?」
騎士団長アデムだった。
「ゼロ……アデム先輩……」
「! やはりそうか! おまえなんだな――ニック!」
アデムは魔人バルザが相手であることを忘れ、両肩を力強く掴んだ。
「に、ニック?」
「誰それ? ウッチー知ってる?」
「聞いたことのない名前だな」
勇者たちと優志は聞いたことのない名前に困惑気味――だが、兵士たちの反応はまったく違っていた。
「ニック? まさか、ニック教官なのか?」
「まさか……」
「しかし、言われてみればあの顔立ち……どことなく教官に似ていない気がしないでもない」
どうやら兵士たちはニックという名に心当たりがあるようだった。念のため、優志はダズたちに聞いてみたが、誰も知らないという。御三家の関係者も知らないらしい。残るは元騎士団の一員であるジョゼフだ。
「ジョゼフさんは、ニックという名に覚えはありますか?」
「……はい」
ジョゼフはニックという人物をしっているらしかった――が、なぜだかその表情は冴えないでいる。
「えっと……その人ってどんな方なんですか?」
「元々は騎士団の人間で、次期団長との呼び声も高かった有能な人です。……しかし、ある時の戦闘で、魔獣から仲間を庇い、右腕を失いました。それからは教官として若手の育成に尽力をしましたが、それにも限界がきて神官職へ就くことになりました。今の神官長であるガレッタ様も、彼の教え子です」
「ガレッタさんの?」
あの魔人バルザはガレッタにとって恩人である可能性があるという。
そしてさらに――ジョゼフは衝撃の事実を告げた。
「ニック・スパイクスという人物は……ユージ殿にとってもまったく無関係な人物というわけではありません」
「俺にとっても? でも、俺が騎士団と関わるようになったのはまだほんの数ヶ月ですよ? その間の知り合いっていってもそんなに数は多くないし……」
「いえ、あなたにとってはとても大きい存在ですよ」
「大きい存在?」
そう言われて、真っ先に浮かんできたのは――リウィルだった。
「! リウィル……リウィルと関わりのある人なんですか?」
優志の問いかけに、ジョゼフはゆっくりと首を縦に振った。
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