上 下
155 / 168

第155話  魔人バルザの正体

しおりを挟む
「バルザ……」

 突如現れたのは行方不明となっていた魔人バルザであった。

「うおっ!?」

 周りの兵士たちは突然姿を見せたバルザに大きく動揺した。当のバルザ本人は涼しい顔をしているが、ベルギウスの一件を耳にしている兵士たちからすれば、なんの目的をもってこの場にやってきたのか――そこに意識が集中していた。
 
 ……ただ一人を除いて。

「真田くん……?」

 優志が気にかけていたのはバルザの登場を予知していたとも取れる真田の言動であった。しかも、他の兵士たちはおろか同じ勇者である召喚者たちでさえ、バルザの登場に動揺を隠しきれないのに、真田はバルザと同じく平然としている。

 まるで、ここにバルザが現れることを事前にしっていたかのように。

「どうかしましたか、宮原さん」

 他の者たちの視線がバルザに注がれている中、ただ一人真田を見つめる優志。その熱視線に気づいた真田はやはり落ち着いた態度で優志に尋ねる。

「君は……バルザがここへ来ることを知っていたのかい?」
「まさか。僕だって驚いていますよ。ただ……僕の場合は人より少し感情表現が苦手なだけです。よく誤解されるんですよ」

 事もなげに答える真田。
 その真意を、優志が知る術はない。
 だが、疑えば疑うほど、真田の笑みに得も言われぬ不気味さを覚える。

「ゆ、優志さん?」

 その時、声をかけられた――振り返ると、そこに立っていたのは美弦であった。
 
「あ、あの魔人は一体何をしにここへ……」
「分からない……ただ、塔の件がある以上、穏便に済ませるってわけにはいかないかもしれないな」
 
 優志は気持ちを切り替えた。
 真田のことが気になるには気になるが、今はそれよりも目の前にいるバルザだ。
 視線を戻すと、そのバルザは何やら探し物をしているかのように首をゆっくりと振って辺りを見回している様子だった。

「ベルギウス様を探しているのか?」

 一歩前に出て、そう尋ねたのはゼイロだった。

「生憎だがベルギウス様は魔界へ来られていないぞ。……おまえにやられた傷がまだ癒えておらぬのだ」
「俺がやったわけじゃない」

 バルザはすぐさま反論をした。

「俺は助けようとしたんだ。そしてベルギウスをあのような目に遭わせたヤツを探しだすためここまで来たが……」
「? バルザ?」

 ゼイロはバルザの様子がおかしいことに気づいた。
 
「ここは……俺は……君は――《ゼロ?》」
「なっ!?」

 バルザの放った「ゼロ」という言葉に、ゼイロは激しい反応を示した。優志や勇者たちはもちろん、周りの兵士たちも何事かと一斉に視線を向ける。

 ――だが、この場にもう一人、バルザの言葉を理解する者がいた。

「ゼロ……ゼイロの訓練兵時代のあだ名を知っている……まさか、記憶が戻っているのか!?」

 騎士団長アデムだった。

「ゼロ……アデム先輩……」
「! やはりそうか! おまえなんだな――ニック!」

 アデムは魔人バルザが相手であることを忘れ、両肩を力強く掴んだ。

「に、ニック?」
「誰それ? ウッチー知ってる?」
「聞いたことのない名前だな」

 勇者たちと優志は聞いたことのない名前に困惑気味――だが、兵士たちの反応はまったく違っていた。

「ニック? まさか、ニック教官なのか?」
「まさか……」
「しかし、言われてみればあの顔立ち……どことなく教官に似ていない気がしないでもない」

 どうやら兵士たちはニックという名に心当たりがあるようだった。念のため、優志はダズたちに聞いてみたが、誰も知らないという。御三家の関係者も知らないらしい。残るは元騎士団の一員であるジョゼフだ。

「ジョゼフさんは、ニックという名に覚えはありますか?」
「……はい」

 ジョゼフはニックという人物をしっているらしかった――が、なぜだかその表情は冴えないでいる。
 
「えっと……その人ってどんな方なんですか?」
「元々は騎士団の人間で、次期団長との呼び声も高かった有能な人です。……しかし、ある時の戦闘で、魔獣から仲間を庇い、右腕を失いました。それからは教官として若手の育成に尽力をしましたが、それにも限界がきて神官職へ就くことになりました。今の神官長であるガレッタ様も、彼の教え子です」
「ガレッタさんの?」

 あの魔人バルザはガレッタにとって恩人である可能性があるという。
 そしてさらに――ジョゼフは衝撃の事実を告げた。

「ニック・スパイクスという人物は……ユージ殿にとってもまったく無関係な人物というわけではありません」
「俺にとっても? でも、俺が騎士団と関わるようになったのはまだほんの数ヶ月ですよ? その間の知り合いっていってもそんなに数は多くないし……」
「いえ、あなたにとってはとても大きい存在ですよ」
「大きい存在?」

 そう言われて、真っ先に浮かんできたのは――リウィルだった。

「! リウィル……リウィルと関わりのある人なんですか?」

 優志の問いかけに、ジョゼフはゆっくりと首を縦に振った。

「ニック・スパイクスは――リウィル・スパイクスの父親です」
しおりを挟む
感想 188

あなたにおすすめの小説

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...