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第154話 負けられない戦い
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「左右だけでなく上空にも意識を持て!」
「負傷した者は下がれ! 回復水を使うんだ!」
「西方が手薄だぞ! 守りを固めろ!」
怒号にも似た声が飛び交う。
魔王城へと近づけば近づくほどに戦闘は苛烈さを増していった。
「エミリー! 無茶はするなよ!」
「ダズこそ!」
冒険者であるダズとエミリーは、普段ダンジョンで戦っている時と同じように、息の合ったコンビネーションで魔獣たちを倒していく。
「ダズとエミリーに遅れを取るわけにはいかねぇな!」
「その通りですな!」
「いくわよ、ザラ」
「言われなくとも」
負けじと応戦するボロウ、ジョゼフ、グレイス、ザラの四人。
もちろん、躍動しているのは彼らだけではない。
「そっち行ったわよ、ウッチー!」
「ウッチー言うな! いくぜ、橘!」
「任せろ!」
「上谷! ゼイロさんたちのところに魔獣が集中している! こっちは俺たちに任せて援護に向かってくれ!」
「分かった!」
「武内くん! あとは私の召喚獣に任せて一旦下がって!」
「おう! 助かるぜ!」
若き転移者――勇者と呼ばれる者たちも臆することなく抜群の連携をもって魔獣たちを蹴散らしていく。
そんな彼らの頑張りに、優志も後方支援として応えた。
「負傷した兵士はこっちへ!」
喉が枯れることも忘れて叫ぶ優志。
数と凶暴性が増していく魔獣たちを相手にしてなお、連合軍の勢いはとどまることを知らない。それを影で支えているのが優志のスキルであった。
「ありがとう、おかげでまた戦える!」
「ああ。でも、無理はするな。さすがに死人をよみがえらせることはできないからな」
「心得ているさ!」
優志は回復した兵士の背中を押して戦地へと送りだす。本音を言えば、死ぬかもしれない戦場へ人を送り込むというのは罪悪感も覚える。だが、ここ――魔界へ足を運んだ者は皆覚悟ができていた。
元の世界で待っている者たちのために、命を懸けて魔王を倒す。
その使命感に燃える姿を目の当たりにした優志は考えを改めた。
彼らの戦いを全力で支えようと誓った。
優志の回復スキルの効果は絶大であった。
傷を負っても回復水の効果で元に戻る――その安心感が、兵士たちに勇気を与えた。それがなければ、傷を負うことを恐れて本来の力を出し切れずにいただろう。
それが、優志の力によって傷を負うことへの恐怖心が薄れた。
兵士たちは魔物の威圧感に臆することなく一気に攻め込んでいく。
「よし……いいぞ。この調子だ」
騎士団長アデムは手応えを感じていた。
戦勝パレードをやっていた頃、大型魔獣の乱入事件もあって、七人の勇者たちだけでは魔王討伐は難しいと考え始めていた。魔王を倒すためには、あともう一つのピースが必要――その最後のピースが、まさに優志の存在であった。
「彼を召喚したのは……確かリウィルという女性神官だったか」
優志の存在はもちろんだが、この世界へ彼を導いたリウィルの存在も大きかった。
とはいえ、リウィルが優志をこの世界に導いたのは偶発的なもの。本来ならば彼はこの世界へ来るべき人間ではない。もっといえば、ミスなのだ。
それでも、そのミスによって招かれた優志が、ここまで大車輪の活躍を見せている。優志がいなければ、兵士たちはここまで戦うことができなかっただろう。
「戻ったら彼女にも礼を言わないとな」
アデムは小さく微笑み、前を向く。
現在位置は魔王城近くの渓谷――前回の魔界遠征では、ここで押し返されて悔しい思いをした。しかし、前回とは比べ物にならないくらい順調に進撃を続け、とうとう渓谷を抜け出して魔界の最奥部へと到達した。
果てしなく広がる荒野。
その真ん中に陣取るのが目的地の魔王城だ。
「あれが……魔王城」
優志は思わず息を呑む。
遠目から見ても、その禍々しさに肌が粟立った。
これからあそこへ行くのだと思うと、足が震え出し、胸が苦しくなる。実際に戦うわけではないのに、それほどのプレッシャーが優志を襲った。
兵士たちの中には優志と同じく、魔王城の放つ異様なオーラに呑み込まれ、顔面蒼白になっている者もいる。
「怯むな! 我らの力を今こそ示し、世界に平和をもたらすのだ!」
そんな空気を一掃するように、アデムが叫んだ。
兵士たちはその叫びで再び勢いを取り戻し、荒野を駆けていく。
魔獣の攻撃はさらに激しさを増していったが、それを押し返すだけの迫力が連合騎士団には備わっていた。
「さすがは歴戦の勇士であるアデム騎士団長……盛り上げるタイミングが神がかっているな」
「その通りですね」
勢いを増す兵士たちの活躍に目を細めていた優志に話しかけてきた者がいた。
「あれ? 真田くん?」
召喚された勇者の一人――真田だ。
他の勇者たちは前線に赴いているが、なぜか真田は一人後方で待機している。
「怪我か?」
心配して近づく優志。
だが、真田の視線は優志を通り越していた。
「来ましたよ……彼が」
「え?」
真田の視線を追って、優志は振り返る。
その先にあったのは小高い丘――そこに、何者かが立っていた。
「あれは――バルザ!?」
魔人バルザが姿を現した。
「負傷した者は下がれ! 回復水を使うんだ!」
「西方が手薄だぞ! 守りを固めろ!」
怒号にも似た声が飛び交う。
魔王城へと近づけば近づくほどに戦闘は苛烈さを増していった。
「エミリー! 無茶はするなよ!」
「ダズこそ!」
冒険者であるダズとエミリーは、普段ダンジョンで戦っている時と同じように、息の合ったコンビネーションで魔獣たちを倒していく。
「ダズとエミリーに遅れを取るわけにはいかねぇな!」
「その通りですな!」
「いくわよ、ザラ」
「言われなくとも」
負けじと応戦するボロウ、ジョゼフ、グレイス、ザラの四人。
もちろん、躍動しているのは彼らだけではない。
「そっち行ったわよ、ウッチー!」
「ウッチー言うな! いくぜ、橘!」
「任せろ!」
「上谷! ゼイロさんたちのところに魔獣が集中している! こっちは俺たちに任せて援護に向かってくれ!」
「分かった!」
「武内くん! あとは私の召喚獣に任せて一旦下がって!」
「おう! 助かるぜ!」
若き転移者――勇者と呼ばれる者たちも臆することなく抜群の連携をもって魔獣たちを蹴散らしていく。
そんな彼らの頑張りに、優志も後方支援として応えた。
「負傷した兵士はこっちへ!」
喉が枯れることも忘れて叫ぶ優志。
数と凶暴性が増していく魔獣たちを相手にしてなお、連合軍の勢いはとどまることを知らない。それを影で支えているのが優志のスキルであった。
「ありがとう、おかげでまた戦える!」
「ああ。でも、無理はするな。さすがに死人をよみがえらせることはできないからな」
「心得ているさ!」
優志は回復した兵士の背中を押して戦地へと送りだす。本音を言えば、死ぬかもしれない戦場へ人を送り込むというのは罪悪感も覚える。だが、ここ――魔界へ足を運んだ者は皆覚悟ができていた。
元の世界で待っている者たちのために、命を懸けて魔王を倒す。
その使命感に燃える姿を目の当たりにした優志は考えを改めた。
彼らの戦いを全力で支えようと誓った。
優志の回復スキルの効果は絶大であった。
傷を負っても回復水の効果で元に戻る――その安心感が、兵士たちに勇気を与えた。それがなければ、傷を負うことを恐れて本来の力を出し切れずにいただろう。
それが、優志の力によって傷を負うことへの恐怖心が薄れた。
兵士たちは魔物の威圧感に臆することなく一気に攻め込んでいく。
「よし……いいぞ。この調子だ」
騎士団長アデムは手応えを感じていた。
戦勝パレードをやっていた頃、大型魔獣の乱入事件もあって、七人の勇者たちだけでは魔王討伐は難しいと考え始めていた。魔王を倒すためには、あともう一つのピースが必要――その最後のピースが、まさに優志の存在であった。
「彼を召喚したのは……確かリウィルという女性神官だったか」
優志の存在はもちろんだが、この世界へ彼を導いたリウィルの存在も大きかった。
とはいえ、リウィルが優志をこの世界に導いたのは偶発的なもの。本来ならば彼はこの世界へ来るべき人間ではない。もっといえば、ミスなのだ。
それでも、そのミスによって招かれた優志が、ここまで大車輪の活躍を見せている。優志がいなければ、兵士たちはここまで戦うことができなかっただろう。
「戻ったら彼女にも礼を言わないとな」
アデムは小さく微笑み、前を向く。
現在位置は魔王城近くの渓谷――前回の魔界遠征では、ここで押し返されて悔しい思いをした。しかし、前回とは比べ物にならないくらい順調に進撃を続け、とうとう渓谷を抜け出して魔界の最奥部へと到達した。
果てしなく広がる荒野。
その真ん中に陣取るのが目的地の魔王城だ。
「あれが……魔王城」
優志は思わず息を呑む。
遠目から見ても、その禍々しさに肌が粟立った。
これからあそこへ行くのだと思うと、足が震え出し、胸が苦しくなる。実際に戦うわけではないのに、それほどのプレッシャーが優志を襲った。
兵士たちの中には優志と同じく、魔王城の放つ異様なオーラに呑み込まれ、顔面蒼白になっている者もいる。
「怯むな! 我らの力を今こそ示し、世界に平和をもたらすのだ!」
そんな空気を一掃するように、アデムが叫んだ。
兵士たちはその叫びで再び勢いを取り戻し、荒野を駆けていく。
魔獣の攻撃はさらに激しさを増していったが、それを押し返すだけの迫力が連合騎士団には備わっていた。
「さすがは歴戦の勇士であるアデム騎士団長……盛り上げるタイミングが神がかっているな」
「その通りですね」
勢いを増す兵士たちの活躍に目を細めていた優志に話しかけてきた者がいた。
「あれ? 真田くん?」
召喚された勇者の一人――真田だ。
他の勇者たちは前線に赴いているが、なぜか真田は一人後方で待機している。
「怪我か?」
心配して近づく優志。
だが、真田の視線は優志を通り越していた。
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「え?」
真田の視線を追って、優志は振り返る。
その先にあったのは小高い丘――そこに、何者かが立っていた。
「あれは――バルザ!?」
魔人バルザが姿を現した。
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