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第143話 いざ、魔界へ
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魔界への移動方法は魔法陣を介して行われる。
それぞれ役目を持った部隊が全部で35あり、総勢で500人以上の兵士が投入されることとなっていた。
「こうまで揃うと圧巻の一言だな」
丸太のように太い腕を組みながら、ボロウが言う。
その言葉の通り、武装した兵士たちが揃うこの光景は「凄まじい」の一言に尽きる。よく見ると、ダズやエミリーのように、正規の兵士ではないが、その腕っぷしを買われて参加した冒険者や一般人もいるようだ。
「訓練を受けていない者たちもいるが、いざという時に統率がしっかりとれるか少々不安を感じるな」
「ゼイロ殿は好きに暴れてくれと言っていたが……それはそれで難しい注文だな。いざとなったら、元兵士であるジョゼフ殿の指示に従おう」
「そこまで気負わなくてもいいと思いますよ。ゼイロ殿が言う通り、目の前に現れた敵を一体一体倒していけばいいのではないでしょうか」
ダズとエミリーは冒険者としてではなく、一兵士として戦うのはこれが初めてのこと。いつもの調子を保ちつつも、緊張は隠せない様子だ。
一方、かつて騎士団に所属していた経験のあるジョゼフはうまく気持ちの切り替えができている。経験に裏打ちされたその態度は実に頼もしい。
「さて、ひと暴れしてやるか」
「あまり無茶をしないでよ」
「死に急ぐ必要なし」
ボロウ、グレイス、ザラも臨戦態勢に入っていた。
優志のスキル特性を考えて、部隊編制は特別な仕様となっていた。
と言っても、顔見知りのメンバーで構成されたというゼイロの配慮があった。戦うにも相性というものがあるし、いつも訓練を共にしている兵士同士なら、言葉がなくても連携を取れるだろうが、今日出会ったばかりの者同士ではそれはできないだろうという判断も材料の一つとしてあるようだ。
そして、優志と同じくらいこの部隊のキーパーソンとなっているのが美弦の存在だ。
召喚術という特殊で強力なスキルを持つ美弦。本来なら、先乗りしている他の若者たちと同じく、魔王打倒のために呼び出された勇者候補なので、その力に期待を寄せている兵士も少なからずいた。
しかし、当の美弦本人は、元来争い事を好まない優しく穏やかな性格の少女である。
今回、こうして魔界への遠征に参加したのは、優志の影響が強かった。
「大丈夫か、美弦ちゃん」
本当はそう語る優志本人も恐怖心を抱いているはずなのに、今もこうして自分を心配して声をかけてくれる。それに、いつも優しく、本当の姉のように慕っていたリウィルもいる。美弦は、二人と共にこの世界で暮らしていく未来を守るために、戦う決意をしたのだ。
「私はへっちゃらです。頼もしい召喚獣たちがいますし」
「そうか。うん。頼りにしているよ」
「お任せください! 魔獣でも魔人でも、私の可愛い召喚獣たちがみんな蹴散らしちゃいますから!」
もう気持ちは吹っ切れた。
今は、戦うことだけに専念しよう。
一生分の勇気と根性を注ぐ気持ちで。
いよいよ魔界突入の時間を迎えた。
優志。
美弦。
ダズ。
エミリー。
ジョゼフ。
ボロウ。
グレイス。
ザラ。
――以上の8名で構成された部隊は、特務部隊という名で後方からのバックアップ担当をすることになった。
美弦は予め自身が召喚できるすべての召喚獣を呼び出し、こう命じた。
「魔界に入ったら――派手に暴れて」
全部で13体いる召喚獣たちは一斉に頷く。中には優志と初めて出会った時に連れていた三つ目の魔犬アルベロスや王都を襲った魔人と互角の戦いを繰り広げたサンドラゴラの姿もあった。
召喚獣は兵士たちのサポートに回るが、さすがに召喚獣だけを魔界へ送り込むことはできないようなので、美弦の同行は必須であった。しかし、肝心の美弦自身にはまったく戦闘能力がないため後方で待機となることが決定する。
「そろそろだぞ」
ボロウがそう伝えた直後、優志たちの足元が淡い紫色の光で満たされていく。浮かび上がった魔法文字が浮かび上がり、やがて頭上に大きな輪を作った。その先に広がるのは飲み込まれそうな深い闇色の空間――それこそが、
「あれが……魔界か」
優志はゴクリと唾を飲んだ。
まだ実際には足を踏み入れていないのに、遠巻きから眺めているだけで体中を恐怖が包み込む。その時、ポン、と肩を叩かれた。
「気負うなよ。おまえの後ろには俺たちがいる」
ダズだった。
振り返ると、エミリーや他の仲間たちがダズと同じく、優しくも頼もしい眼差しで優志と美弦を見つめていた。
「俺たちがおまえたちの剣となり、槍となり、盾となる。この命に代えても必ず守ってみせるさ」
「ダズ……」
「どれだけ大怪我を負おうとも、ユージ殿の店の風呂に浸かればすぐに元気になるしな」
「例のロテンブロ計画を成功させるためにも、必ず生きて帰らなくてはいけませんよ」
「リウィルも心配するからな」
「お風呂ねぇ……私も行ってみたいわ」
「私も」
みんなから声をかけられて、いよいよ優志は臨戦態勢に入る。
と言っても、戦うのではなく、癒すための準備だが。
しばらくすると、優志たちの体がふわりと浮かび上がり、頭上にある輪の中へと吸い寄せられていく。
「行こう――魔界へ!」
多くの仲間と共に、優志は魔界へと乗り込んだ。
それぞれ役目を持った部隊が全部で35あり、総勢で500人以上の兵士が投入されることとなっていた。
「こうまで揃うと圧巻の一言だな」
丸太のように太い腕を組みながら、ボロウが言う。
その言葉の通り、武装した兵士たちが揃うこの光景は「凄まじい」の一言に尽きる。よく見ると、ダズやエミリーのように、正規の兵士ではないが、その腕っぷしを買われて参加した冒険者や一般人もいるようだ。
「訓練を受けていない者たちもいるが、いざという時に統率がしっかりとれるか少々不安を感じるな」
「ゼイロ殿は好きに暴れてくれと言っていたが……それはそれで難しい注文だな。いざとなったら、元兵士であるジョゼフ殿の指示に従おう」
「そこまで気負わなくてもいいと思いますよ。ゼイロ殿が言う通り、目の前に現れた敵を一体一体倒していけばいいのではないでしょうか」
ダズとエミリーは冒険者としてではなく、一兵士として戦うのはこれが初めてのこと。いつもの調子を保ちつつも、緊張は隠せない様子だ。
一方、かつて騎士団に所属していた経験のあるジョゼフはうまく気持ちの切り替えができている。経験に裏打ちされたその態度は実に頼もしい。
「さて、ひと暴れしてやるか」
「あまり無茶をしないでよ」
「死に急ぐ必要なし」
ボロウ、グレイス、ザラも臨戦態勢に入っていた。
優志のスキル特性を考えて、部隊編制は特別な仕様となっていた。
と言っても、顔見知りのメンバーで構成されたというゼイロの配慮があった。戦うにも相性というものがあるし、いつも訓練を共にしている兵士同士なら、言葉がなくても連携を取れるだろうが、今日出会ったばかりの者同士ではそれはできないだろうという判断も材料の一つとしてあるようだ。
そして、優志と同じくらいこの部隊のキーパーソンとなっているのが美弦の存在だ。
召喚術という特殊で強力なスキルを持つ美弦。本来なら、先乗りしている他の若者たちと同じく、魔王打倒のために呼び出された勇者候補なので、その力に期待を寄せている兵士も少なからずいた。
しかし、当の美弦本人は、元来争い事を好まない優しく穏やかな性格の少女である。
今回、こうして魔界への遠征に参加したのは、優志の影響が強かった。
「大丈夫か、美弦ちゃん」
本当はそう語る優志本人も恐怖心を抱いているはずなのに、今もこうして自分を心配して声をかけてくれる。それに、いつも優しく、本当の姉のように慕っていたリウィルもいる。美弦は、二人と共にこの世界で暮らしていく未来を守るために、戦う決意をしたのだ。
「私はへっちゃらです。頼もしい召喚獣たちがいますし」
「そうか。うん。頼りにしているよ」
「お任せください! 魔獣でも魔人でも、私の可愛い召喚獣たちがみんな蹴散らしちゃいますから!」
もう気持ちは吹っ切れた。
今は、戦うことだけに専念しよう。
一生分の勇気と根性を注ぐ気持ちで。
いよいよ魔界突入の時間を迎えた。
優志。
美弦。
ダズ。
エミリー。
ジョゼフ。
ボロウ。
グレイス。
ザラ。
――以上の8名で構成された部隊は、特務部隊という名で後方からのバックアップ担当をすることになった。
美弦は予め自身が召喚できるすべての召喚獣を呼び出し、こう命じた。
「魔界に入ったら――派手に暴れて」
全部で13体いる召喚獣たちは一斉に頷く。中には優志と初めて出会った時に連れていた三つ目の魔犬アルベロスや王都を襲った魔人と互角の戦いを繰り広げたサンドラゴラの姿もあった。
召喚獣は兵士たちのサポートに回るが、さすがに召喚獣だけを魔界へ送り込むことはできないようなので、美弦の同行は必須であった。しかし、肝心の美弦自身にはまったく戦闘能力がないため後方で待機となることが決定する。
「そろそろだぞ」
ボロウがそう伝えた直後、優志たちの足元が淡い紫色の光で満たされていく。浮かび上がった魔法文字が浮かび上がり、やがて頭上に大きな輪を作った。その先に広がるのは飲み込まれそうな深い闇色の空間――それこそが、
「あれが……魔界か」
優志はゴクリと唾を飲んだ。
まだ実際には足を踏み入れていないのに、遠巻きから眺めているだけで体中を恐怖が包み込む。その時、ポン、と肩を叩かれた。
「気負うなよ。おまえの後ろには俺たちがいる」
ダズだった。
振り返ると、エミリーや他の仲間たちがダズと同じく、優しくも頼もしい眼差しで優志と美弦を見つめていた。
「俺たちがおまえたちの剣となり、槍となり、盾となる。この命に代えても必ず守ってみせるさ」
「ダズ……」
「どれだけ大怪我を負おうとも、ユージ殿の店の風呂に浸かればすぐに元気になるしな」
「例のロテンブロ計画を成功させるためにも、必ず生きて帰らなくてはいけませんよ」
「リウィルも心配するからな」
「お風呂ねぇ……私も行ってみたいわ」
「私も」
みんなから声をかけられて、いよいよ優志は臨戦態勢に入る。
と言っても、戦うのではなく、癒すための準備だが。
しばらくすると、優志たちの体がふわりと浮かび上がり、頭上にある輪の中へと吸い寄せられていく。
「行こう――魔界へ!」
多くの仲間と共に、優志は魔界へと乗り込んだ。
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