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第142話  戦士集結

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 夜が明けた。

 魔界へ突入するその日の朝――まだ朝霧に包まれた時間帯であるが、優志の店の前には三人の協力者の姿があった。

 ひとりは冒険者ダズ。
 もうひとりは同じく冒険者のエミリー。
 そして、最後のひとりは意外な人物であった。

「! じょ、ジョゼフさん!?」
「久しぶりですね、ユージさん」

 木こりとして、優志の露天風呂計画の中枢を担うだろうジョゼフが、緊急助っ人として参加することとなった。彼の実力はダンジョン内でのバルザ戦で実証済み。とても頼りになるのは間違いないのだが、

「ザックはこのことを知っているんですか?」
「ええ。伝えてきました」

 命を落とす可能性がある魔界突入。
 ジョゼフには優志とも面識のあるザックという息子がいる。まだ幼いザックを残してジョゼフが魔界で命を落とす――そんな未来だってあり得なくはないのだ。
 それでも、ジョゼフは優志に協力する道を選んだ。

「これから先、ザックと平和な日々を送っていくためには、魔人の脅威を滅することが必然になります。そのためには、元凶である魔王を倒さないと」

 魔王。
 すべての元凶。
 それを倒さなければ、真の意味での平和は訪れない。

 本来ならば、勇者召喚された異世界の若者と鍛え上げられた兵士たちがメインで戦うべきなのだが、今はもうそれどころではない。少しでも多くの戦力を投入し、打倒魔王へ向けて挑まなければならない。

「こいつは頼もしい助っ人だが」
「期待しているぞ」
「君たちに後れを取らないよう頑張らせてもらうよ」

 ダズ、エミリー、ジョゼフの三人は互いに協力をし、生きて帰って来ようと誓う。
 一方、優志と美弦はリウィルに一時の別れの言葉を贈っていた。

「リウィルさん、いってきます」
「ちょっと時間はかかるかもしれないけど、必ず帰って来るから」
「……約束ですよ?」

 優志たちを見送ると決めたものの、やはり心配なのだろう。リウィルの声は震えていた。そんなリウィルに、優志はある物を手渡す。

「リウィル……これを」
「? これは?」
「設計図だ。もし、店にクリフが来たら渡してほしい。計画中の露天風呂――その構想案をまとめたものだ」
「ロテンブロ……以前お話ししていたものですね」
「ああ。それが――俺のスキルの集大成になる」

 異世界露天風呂計画。
 それこそが、優志の描く最後の癒し。

「分かりました。必ず渡します」
「じゃあ……俺たちは行くよ」
「はい。気をつけてくださいね」

 優志とリウィルは互いに多くを語らず、店の前ですでにスタンバイしている馬車へと歩き出す。その後ろから、ダズたちもついてきた。

「よかったんですか?」

 馬車へ乗り込む谷いなや、美弦がそう尋ねてくる。

「何がだい?」
「いや……リウィルさんとのお別れが随分とあっさりしているなって……アツい抱擁を交わしてそのあと――ああ、ここから先を口にするのは憚られます!」

 顔を赤く染めて体をくねらせる美弦。
 初めて会った時に比べたら、だいぶ素の状態を見せてくれるようになったな、と感慨深げに頷く。
 その後、馬車は王都へと到着。
 すでに魔界への援軍として参戦する兵士たちは揃っており、皆気合を漲らせて武器や食料などの必要物資を整理していた。

「さて、俺たちも準備するか」
「今回の敵はダイヤモンドウルフやフレイムコングとはわけが違うからな」
「腕が鳴りますね」

 口調は強気なものだが、ダズたちにも緊張の色が見える。
 優志たちは到着したことをゼイロに知らせようと探している途中にある人物へ声をかけられた。

「よお、回復屋!」

 ボロウだった。
 そのボロウの横にはふたりの女性が立っている。

「まさかあなたが名乗りを上げるとは思わなかったわ」
「悪趣味もいいところね……」

 エルズベリー家メイドのグレイスとイングレール家メイドのザラであった。

「ふ、二人がどうしてここに?」
「私たちも魔界へ行くのよ」
「モンスターをぶちのめさないと平和にならない……エイプリル様も不安なまま過ごさなくちゃいけなくなるし」
「俺たちだけでなく、御三家からも戦力になりそうなヤツを片っ端からこっちの増援部隊へ組み込んだ」

 御三家までが戦力を注いできた――それほど、今回の魔界への増援は本気ということのなのだろう。

「それに、なぜロブ様が魔人になったのか……その真相も突きとめないといけないからな」

 ボロウとしてはそちらが本命のようだ。
 しかし、それもしっかりと解明しなければ、今後似たような事態が起こる可能性が高いと思われる。

「全員揃っているようだな」

 ちょうど、顔見知りのメンバーとの挨拶が終わったところでゼイロ副団長がやって来た。
 
 いよいよ、最後の戦いへ向かうため――優志たちは魔界へと旅立つ。
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