125 / 168
第125話 意外な乱入者
しおりを挟む
「回復屋……おまえが助けてくれたのか?」
「俺の専売特許だからな」
意識を取り戻したボロウだが、まだ少し混乱しているように映った。
優志は逸る気持ちを抑えてボロウに再度たずねる。
「もの凄い音が聞こえてきたと思ったら、あんたが吹っ飛んできたんだ。一体、何があんたをここまで傷つけたんだ?」
「俺を傷つけた…………あっ!」
何かを思い出したボロウはガバッと勢いよく上半身を起こした。
「大変だ、回復屋!」
「ど、どうした?」
先ほどまでのボーっとした表情からは一変して慌てた様子のボロウ。そこからも非常事態が発生したことが読み取れた。
「落ち着けよ、ボロウ」
「これが落ち着いていられるかよ! ロブ様が」
「ロブ様?」
ロブ様というのは間違いなくロブ・エルズベリーのこと。
御三家の当主の身に何かが起きた――ボロウが取り乱すのも無理はない。
「一体、当主殿に何があったんだ?」
「ロブ様ぁ!」
「あ、おい!」
居ても立ってもいられなくなったボロウは優志を押しのけて走り出す。その方向は、ついさっき内側から発せられた凄まじい衝撃によってできた穴だった。
「……あの穴の先にある部屋で何かあったのか?」
ボロウのあとを追おうと一歩踏み出した優志であったが、その足はすぐに止まった。
優志は、先ほどの「影」の正体が気になった。
あれは先ほど顔を合わせたロブ・エルズベリーだったのか。
だとしたら、なんだか様子がおかしかった。
うまく表現できないが――なんだか人ではないような気がした。
人によく似た別の何かというべきか。
「――て、今はそんなことよりもボロウを追わないと」
立ち止まって考えていても何も始まらない。
自分の血を飲むことで回復効果を得られるという新しいスキルの効果もわかったことで、これからは多少無茶をしてもなんとなりそうだ。
そういった安心感もあってか、決心のついた優志お足取りは力強く、瓦礫を避けながら室内へと入って行った。そこは書庫と比べると広い空間で、天井も高い。来客をもてなす部屋だろうか。
未だ立ち込める煙で視界が悪く、最低限の情報しか得られないという状況下の中で、優志はボロウを探して前へと進む。すると、
「いて!」
何かに衝突し、鼻へ強烈なダメージが。
「おいおい、ちゃんと前を向いて歩けよ、回復屋」
優志がぶつかったのはボロウの大きい背中であった。
「ボロウ? どうかしたのか?」
「いや何……ロブ様の姿がお見えにならないんで探していたんだ」
「探しているって……まさか行方不明に!」
「それはあり得ない。――が、行方がわからないというのはたしかだな」
仮に、これが誘拐目的であるならばターゲットが違う。
当主であるロブ・エルズベリーよりもその娘であるトニア・エルズベリーをさらい、身代金を要求した方が話は早そうだが。
「! そうだ! トニア・エルズベリー嬢だ!」
「あ? トニアお嬢様がどうかしたのか?」
「ここで起きた騒ぎは囮かもしれない。本命は――」
「お嬢様か!」
優志とボロウは同時に部屋を飛び出した。
トニアのいる書庫は目と鼻の先。
廊下から見た限りでは特に異変は感じられなかった。
それでも、優志とボロウは心配のあまり注意されたのにも関わらず凄まじい勢いでドアを蹴破り、書庫へと突入していく。
「ちょ、ちょっと! どうしたの!」
さすがのトニアも飛び上がって驚き、酷く取り乱していた。それほどまでに勢いがあったのと、二人の中年男性の様子が明らかにおかしかったのだ。
「お、お嬢様……無事で何よりだ」
「? 一体なんの話をしているんですか? それと、さっきの音の正体は一体なんだったんですか?」
「ああ、それは――」
優志が説明しようと近づいた――まさにその時、
「伏せろ!」
優志の真後ろからそんな叫び声したと思ったら、すぐさま大きな影が目の前を横切っていった。何事かと思った瞬間、優志は影の正体に気づく。
――ボロウだ。
ボロウが襲い来る「何か」からトニアを救うために飛び出したのだ。
トニアを抱きかかえるようになったボロウ。その後で、優志も異変に気づき、その場へと突っ伏した。
結果として、この判断は吉と出る。
ほんの数分前に聞いた轟音が再び鳴り響いたかと思うと、またもド派手に壁が吹き飛んだのだ。
「こ、今度はなんだ!」
トニアを抱きかかえながら動揺するボロウ。
間一髪で回避した優志は、吹き飛んだ瓦礫に押し潰されるという前回の二の轍を踏まぬようにするため、なんとかかわしていく。
「危なかった……」
紙一重だった。
あともう少し反応が鈍ければ、間違いなく瓦礫で顔面が洒落にならない状態へと変わっていっただろう。
そんなギリギリの判断で命を拾った優志の目の前に現れたのは、
「! まさかそんな……」
言葉を失った。
人の姿をしていながらも決定的に違う紫色の肌に黒めがちな目――そう。現れたのは、これまでに遭遇したことのない新種の魔人であった。
「俺の専売特許だからな」
意識を取り戻したボロウだが、まだ少し混乱しているように映った。
優志は逸る気持ちを抑えてボロウに再度たずねる。
「もの凄い音が聞こえてきたと思ったら、あんたが吹っ飛んできたんだ。一体、何があんたをここまで傷つけたんだ?」
「俺を傷つけた…………あっ!」
何かを思い出したボロウはガバッと勢いよく上半身を起こした。
「大変だ、回復屋!」
「ど、どうした?」
先ほどまでのボーっとした表情からは一変して慌てた様子のボロウ。そこからも非常事態が発生したことが読み取れた。
「落ち着けよ、ボロウ」
「これが落ち着いていられるかよ! ロブ様が」
「ロブ様?」
ロブ様というのは間違いなくロブ・エルズベリーのこと。
御三家の当主の身に何かが起きた――ボロウが取り乱すのも無理はない。
「一体、当主殿に何があったんだ?」
「ロブ様ぁ!」
「あ、おい!」
居ても立ってもいられなくなったボロウは優志を押しのけて走り出す。その方向は、ついさっき内側から発せられた凄まじい衝撃によってできた穴だった。
「……あの穴の先にある部屋で何かあったのか?」
ボロウのあとを追おうと一歩踏み出した優志であったが、その足はすぐに止まった。
優志は、先ほどの「影」の正体が気になった。
あれは先ほど顔を合わせたロブ・エルズベリーだったのか。
だとしたら、なんだか様子がおかしかった。
うまく表現できないが――なんだか人ではないような気がした。
人によく似た別の何かというべきか。
「――て、今はそんなことよりもボロウを追わないと」
立ち止まって考えていても何も始まらない。
自分の血を飲むことで回復効果を得られるという新しいスキルの効果もわかったことで、これからは多少無茶をしてもなんとなりそうだ。
そういった安心感もあってか、決心のついた優志お足取りは力強く、瓦礫を避けながら室内へと入って行った。そこは書庫と比べると広い空間で、天井も高い。来客をもてなす部屋だろうか。
未だ立ち込める煙で視界が悪く、最低限の情報しか得られないという状況下の中で、優志はボロウを探して前へと進む。すると、
「いて!」
何かに衝突し、鼻へ強烈なダメージが。
「おいおい、ちゃんと前を向いて歩けよ、回復屋」
優志がぶつかったのはボロウの大きい背中であった。
「ボロウ? どうかしたのか?」
「いや何……ロブ様の姿がお見えにならないんで探していたんだ」
「探しているって……まさか行方不明に!」
「それはあり得ない。――が、行方がわからないというのはたしかだな」
仮に、これが誘拐目的であるならばターゲットが違う。
当主であるロブ・エルズベリーよりもその娘であるトニア・エルズベリーをさらい、身代金を要求した方が話は早そうだが。
「! そうだ! トニア・エルズベリー嬢だ!」
「あ? トニアお嬢様がどうかしたのか?」
「ここで起きた騒ぎは囮かもしれない。本命は――」
「お嬢様か!」
優志とボロウは同時に部屋を飛び出した。
トニアのいる書庫は目と鼻の先。
廊下から見た限りでは特に異変は感じられなかった。
それでも、優志とボロウは心配のあまり注意されたのにも関わらず凄まじい勢いでドアを蹴破り、書庫へと突入していく。
「ちょ、ちょっと! どうしたの!」
さすがのトニアも飛び上がって驚き、酷く取り乱していた。それほどまでに勢いがあったのと、二人の中年男性の様子が明らかにおかしかったのだ。
「お、お嬢様……無事で何よりだ」
「? 一体なんの話をしているんですか? それと、さっきの音の正体は一体なんだったんですか?」
「ああ、それは――」
優志が説明しようと近づいた――まさにその時、
「伏せろ!」
優志の真後ろからそんな叫び声したと思ったら、すぐさま大きな影が目の前を横切っていった。何事かと思った瞬間、優志は影の正体に気づく。
――ボロウだ。
ボロウが襲い来る「何か」からトニアを救うために飛び出したのだ。
トニアを抱きかかえるようになったボロウ。その後で、優志も異変に気づき、その場へと突っ伏した。
結果として、この判断は吉と出る。
ほんの数分前に聞いた轟音が再び鳴り響いたかと思うと、またもド派手に壁が吹き飛んだのだ。
「こ、今度はなんだ!」
トニアを抱きかかえながら動揺するボロウ。
間一髪で回避した優志は、吹き飛んだ瓦礫に押し潰されるという前回の二の轍を踏まぬようにするため、なんとかかわしていく。
「危なかった……」
紙一重だった。
あともう少し反応が鈍ければ、間違いなく瓦礫で顔面が洒落にならない状態へと変わっていっただろう。
そんなギリギリの判断で命を拾った優志の目の前に現れたのは、
「! まさかそんな……」
言葉を失った。
人の姿をしていながらも決定的に違う紫色の肌に黒めがちな目――そう。現れたのは、これまでに遭遇したことのない新種の魔人であった。
1
お気に入りに追加
2,094
あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる