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第118話 優志、拉致される!?
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ガレッタからもたらされたイングレール家の「優志と自分の娘を結婚させて一族に引き入れる」という噂。
その大きな手掛かりになるかもしれない女性――ザラのもとへと優志は近づく。
優志が近づいた気配に気づいたザラが振り返る。
「あ」
目が合った瞬間、ザラが思わず声を漏らした。
目的の人物を見つけた――優志の目にはそんな反応に映った。
「俺に何か用でもあったか?」
そうたずねると、ザラは少し間を空けてから口を開いた。
「まさかそちらからおいでくださるとは」
言い終えて、ザラはニヤリと微笑んだ。その意外過ぎる反応に、優志は面食らった。
「魔鉱石を買い占めておびき出そうという作戦を立てたのですが……そちらからおいでくださるってことは」
「ご主人様の命により――あなたを確保します」
優志が言い終える前に、ザラが行動を始めた。
ガチャン。
そんな音が響いたかと思うと、両手首に何やら冷たい感触が。
「! なっ!」
視線を落とした優志は驚愕する。
自分の両手にしっかりとはめられたそれは――どう見ても手錠だった。前にいた世界でよく見ていた刑事ドラマに出てくるものとは一部デザインが異なるが、両手の動きを封じるそれは紛れもなく手錠である。
「ちょ、ちょっと!」
「それでは早速連れて帰るとしましょう」
成人男性である優志はそれなりに体重があるのだが、それでもお構いなしといった感じに優志の腕を掴むと、そのまま店の外へと引っ張り出そうとする。
「ど、どこへ連れて行く気だ!」
「先ほど申し上げた通り、外の馬車でイングレール家へとお連れします」
「! やっぱり君はイングレール家の人間か!」
「はい。イングレール家に仕えるメイドのザラと申します。以後、生涯にわたりあなたの身の回りのお世話を担当させていただく予定ですので、お見知りおきを」
「メイド? お世話? それに一生って」
どうやら結婚相手候補であるイングレール家の娘ではなくそこに仕えるメイドさんであるらしかった。
いずれにせよ、優志が拉致されそうになっているという危機的状況は変わらない。
と、
「待て! ユージさんをどこへ連れて行くつもりだ!」
話からのけ者とされていたトラビスが割って入る。
事情はサッパリ呑み込めていないようだが、とりあえず優志の危機であることは察して救助しようとザラの前に立ちはだかる。
「すぐにユージさんを放すんだ!」
「その要求は受けかねます。ザラは一刻も早くこの方をイングレール家の屋敷に連れていかなくてはならないのです」
「い、イングレール家だって!」
辺りが騒然となる。
元老院の一角であり、御三家としても名高いイングレール家の人間が、こんな小さな町にいること自体がまったく予想外のことであった。
イングレールの名前を出されて一瞬怯んだトラビスだが、すぐに気持ちを奮い立たせ、
「ユージさんは大変世話になった恩人……その人を拉致しようというなら俺を乗り越えてからにしてもらおうか」
「……仕方がありませんね」
優志の腕を放すと、ザラはすぐさま臨戦態勢に入る。
「ヤル気なのか」――そう口走った直後、ズドン、という低く鈍い音が轟く。
「ぐはっ!」
状況変化に対応できぬまま、トラビスは膝からその場に崩れ落ちた。
一体何が起きたのか。
あまりにも素早い出来事に、優志はまったく理解できなかった。
ただ、トラビスの現状から、何か攻撃を加えられたということだけはわかる。
日常的にダンジョンへと潜り、鍛えているはずのトラビスが、なんの抵抗もできずにここまで苦しめられる――イングレール家メイドの恐ろしい戦闘力が垣間見えた。
「おや? 今の一撃をもろに食らって意識がありますか。申し訳ありません、名も知らぬ冒険者さん。どうやらザラはあなたを過小評価していたようです」
腹を抱えて咳き込むトラビスを、ザラは冷めた目で見下ろしていた。
煮えたぎるマグマでさえ瞬時に凍らせてしまうような、恐ろしく冷たく、そして濁った二つの瞳。およそ活力というものを感じさせないその目つきに、優志は恐怖さえ覚えた。
そんな気持ちが、優志の口を動かす。
「き、君の目的は一体なんだ? 俺をイングレール家に連れて行ってどうする気だ?」
ザラの桁違いの強さをまざまざと見せつけられた優志は、逆に自分でも驚くほどに冷静でいられた。
「あなたの耳にも噂くらいはもう届いているはずです。――イングレール家当主の娘と結婚していただくと」
ガレッタの持ってきた情報はガセではなかった。
イングレール家は本気で優志を欲している。
「熱烈な歓迎痛み入るが……俺には俺でやらなくちゃいけないことがある。悪いけど、今はまだ結婚とかそういうのは――」
「安心してください。籍を入れたらこちらのものです」
「それはあんたらサイドの話しだろ! 俺はイングレール家当主の娘とは結婚なんてしないぞ!」
高らかに宣言する優志。
だが、ザラは心底不思議そうな顔つきで、
「なぜ断るのです?」
と聞き返す。
「イングレール家は御三家の一角。本来ならば、あなたのような一般人は目を見て話すことさえ叶わぬ高貴な御方……その御方からの縁談を断るというのですか?」
「こっちに選択肢はないのか?」
「選択する必要があるとでも?」
それほどまでに「絶対」なのか、この世界における御三家の影響力は。
「まあ、現段階ではあなたの意見は聞きかねます。とりあえず、イングレール家に来ていただかないと」
「だからちょっと止めろって!」
優志が店から連れ出されそうになるのを、店内にいた冒険者はただ見送るしかなかった。イングレール家という名にビビった者から、若き有望株であるトラビスがあっさりとはねのけられたことが原因のようだ。
その時――買い取り屋の入り口のドアが強く開け放たれた。
こんな時に誰の来店か、と店中の視線が集まる中、現れたのは、
「これはどういうことか説明をしてもらいましょうか」
鬼の形相で仁王立ちする幼女が立っていた。
その大きな手掛かりになるかもしれない女性――ザラのもとへと優志は近づく。
優志が近づいた気配に気づいたザラが振り返る。
「あ」
目が合った瞬間、ザラが思わず声を漏らした。
目的の人物を見つけた――優志の目にはそんな反応に映った。
「俺に何か用でもあったか?」
そうたずねると、ザラは少し間を空けてから口を開いた。
「まさかそちらからおいでくださるとは」
言い終えて、ザラはニヤリと微笑んだ。その意外過ぎる反応に、優志は面食らった。
「魔鉱石を買い占めておびき出そうという作戦を立てたのですが……そちらからおいでくださるってことは」
「ご主人様の命により――あなたを確保します」
優志が言い終える前に、ザラが行動を始めた。
ガチャン。
そんな音が響いたかと思うと、両手首に何やら冷たい感触が。
「! なっ!」
視線を落とした優志は驚愕する。
自分の両手にしっかりとはめられたそれは――どう見ても手錠だった。前にいた世界でよく見ていた刑事ドラマに出てくるものとは一部デザインが異なるが、両手の動きを封じるそれは紛れもなく手錠である。
「ちょ、ちょっと!」
「それでは早速連れて帰るとしましょう」
成人男性である優志はそれなりに体重があるのだが、それでもお構いなしといった感じに優志の腕を掴むと、そのまま店の外へと引っ張り出そうとする。
「ど、どこへ連れて行く気だ!」
「先ほど申し上げた通り、外の馬車でイングレール家へとお連れします」
「! やっぱり君はイングレール家の人間か!」
「はい。イングレール家に仕えるメイドのザラと申します。以後、生涯にわたりあなたの身の回りのお世話を担当させていただく予定ですので、お見知りおきを」
「メイド? お世話? それに一生って」
どうやら結婚相手候補であるイングレール家の娘ではなくそこに仕えるメイドさんであるらしかった。
いずれにせよ、優志が拉致されそうになっているという危機的状況は変わらない。
と、
「待て! ユージさんをどこへ連れて行くつもりだ!」
話からのけ者とされていたトラビスが割って入る。
事情はサッパリ呑み込めていないようだが、とりあえず優志の危機であることは察して救助しようとザラの前に立ちはだかる。
「すぐにユージさんを放すんだ!」
「その要求は受けかねます。ザラは一刻も早くこの方をイングレール家の屋敷に連れていかなくてはならないのです」
「い、イングレール家だって!」
辺りが騒然となる。
元老院の一角であり、御三家としても名高いイングレール家の人間が、こんな小さな町にいること自体がまったく予想外のことであった。
イングレールの名前を出されて一瞬怯んだトラビスだが、すぐに気持ちを奮い立たせ、
「ユージさんは大変世話になった恩人……その人を拉致しようというなら俺を乗り越えてからにしてもらおうか」
「……仕方がありませんね」
優志の腕を放すと、ザラはすぐさま臨戦態勢に入る。
「ヤル気なのか」――そう口走った直後、ズドン、という低く鈍い音が轟く。
「ぐはっ!」
状況変化に対応できぬまま、トラビスは膝からその場に崩れ落ちた。
一体何が起きたのか。
あまりにも素早い出来事に、優志はまったく理解できなかった。
ただ、トラビスの現状から、何か攻撃を加えられたということだけはわかる。
日常的にダンジョンへと潜り、鍛えているはずのトラビスが、なんの抵抗もできずにここまで苦しめられる――イングレール家メイドの恐ろしい戦闘力が垣間見えた。
「おや? 今の一撃をもろに食らって意識がありますか。申し訳ありません、名も知らぬ冒険者さん。どうやらザラはあなたを過小評価していたようです」
腹を抱えて咳き込むトラビスを、ザラは冷めた目で見下ろしていた。
煮えたぎるマグマでさえ瞬時に凍らせてしまうような、恐ろしく冷たく、そして濁った二つの瞳。およそ活力というものを感じさせないその目つきに、優志は恐怖さえ覚えた。
そんな気持ちが、優志の口を動かす。
「き、君の目的は一体なんだ? 俺をイングレール家に連れて行ってどうする気だ?」
ザラの桁違いの強さをまざまざと見せつけられた優志は、逆に自分でも驚くほどに冷静でいられた。
「あなたの耳にも噂くらいはもう届いているはずです。――イングレール家当主の娘と結婚していただくと」
ガレッタの持ってきた情報はガセではなかった。
イングレール家は本気で優志を欲している。
「熱烈な歓迎痛み入るが……俺には俺でやらなくちゃいけないことがある。悪いけど、今はまだ結婚とかそういうのは――」
「安心してください。籍を入れたらこちらのものです」
「それはあんたらサイドの話しだろ! 俺はイングレール家当主の娘とは結婚なんてしないぞ!」
高らかに宣言する優志。
だが、ザラは心底不思議そうな顔つきで、
「なぜ断るのです?」
と聞き返す。
「イングレール家は御三家の一角。本来ならば、あなたのような一般人は目を見て話すことさえ叶わぬ高貴な御方……その御方からの縁談を断るというのですか?」
「こっちに選択肢はないのか?」
「選択する必要があるとでも?」
それほどまでに「絶対」なのか、この世界における御三家の影響力は。
「まあ、現段階ではあなたの意見は聞きかねます。とりあえず、イングレール家に来ていただかないと」
「だからちょっと止めろって!」
優志が店から連れ出されそうになるのを、店内にいた冒険者はただ見送るしかなかった。イングレール家という名にビビった者から、若き有望株であるトラビスがあっさりとはねのけられたことが原因のようだ。
その時――買い取り屋の入り口のドアが強く開け放たれた。
こんな時に誰の来店か、と店中の視線が集まる中、現れたのは、
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