異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした

鈴木竜一

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第88話  ダンジョン大乱闘

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「これ以上はもう黙って見ているわけにはいかない」

 先ほどまでのおどおどした様子とは打って変わり、歴戦の勇士のごとき迫力をもって魔人の前で仁王立ちをしている。

「お、親父……?」

 その豹変ぶりに、息子のザックも驚きを隠せない様子。
 優志たちも意外過ぎる展開に動きが止まっていたが、

「はははっ!!」

 魔人の高笑いで全員がハッと我に返る。

「いいねぇ、あんた! ――ならこいつはどうだ?」

 攻撃を防がれたことで興奮した魔人は、連続でストームの魔鉱石が生み出す突風の能力を使用してジョゼフへと襲いかかる。


「むん!!」

 その攻撃をあっさりと弾き返すジョゼフ。

「あ、あの人、あんなに強かったんですか!?」
「俺も今知って驚いているよ」 

 トラビスから追及を受ける優志だが、言葉の通り、ジョゼフがここまで強いだなんて微塵も想定していなかった。

「ユージさん! 息子を連れて逃げてください!」
「あ、は、はい!」

 思わず敬語になってしまうほど、今のジョゼフは頼もしさで溢れていた。

「ジョゼフさん、僕らも援護します!」

 再び武器を手にして構えるトラビスたち――だが、そこへ、


「おいおい、一体なんの騒ぎだ?」

 
 騒ぎを聞きつけた冒険者のパーティーがやって来た。
 しかもそれは、

「ダズ! エミリー!」

 ここよりも奥地での採掘を終えて出口へと向かう途中だったダズたちのパーティーが、この混沌とした場へ鉢合わせた。

「な、なんだあいつは!?」
「ま、魔人? でも今喋ったような」

 ダズとエミリーはこれまでに遭遇したことのない未知の生命体を前に動きが止まる。
 それは優志たちも同じだった。
 思わぬ乱入者の登場に意識が持っていかれた――その隙を、魔人は見逃さない。


「っはぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 魔鉱石ストームの威力を最大限に発揮しての突風。
 それによって優志たちは一斉に吹き飛ばされてしまった。

「うおおお!?」

 目も開けられないほどの突風が導くままに、優志はダンジョン内を強制移動させられる。そうして行きついた場所――正確な位置を掴めないまま、偶然にも、

「! 光だ!」

 とにかく、あの魔人に見つかるよりも先に外へ出たい。
 その一心で、優志は立ち上がる。
 周りに仲間がいないか確認するが、誰もいない。
 あの突風で散り散りになってしまったようだ。

「ともかく外だ。外に出て援軍を呼べば」

 外には冒険者たちのテントがあるはず。
 そこにいる者たちへ協力を仰ぎ、ジョゼフやトラビス、そして戦線に加わっただろうダズやエミリーたちを援護に行かなくては。

 そうと決まれば善は急げだ。

 優志は吐く息も荒々しく、光の方向へと走った。
 やっとの思いでその光をくぐり抜け、外へと出たが、

「! ここは……」

 そこは、出口は出口でも冒険者たちのテントがある正規の入口ではなかった。
 しかし、この光景には見覚えがある。

「そうだ。ここはロザリアを追いかけてきたたどり着いた場所だ」

 エミリーと共に一角牛を追いかけてたどり着いた場所であった。
 さすがにここには援軍がいない。
 もう一度ダンジョンへと戻り、今度こそ正規ルートをたどりたいところではあったが、またあの魔人と遭遇したら今度こそ助からないだろう。
 優志が途方に暮れていると、

「うん? なんだここは?」
「ど、どこだよ、ここ」

 優志と同じように、吹き飛ばされた直後にここの出口の光に導かれてやって来てのはエミリーとザックのふたりであった。

「無事だったか!」
「なんとかな。しかしユージ殿……あいつは一体何者なんだ?」
「俺にもわからない」

 むしろ知っていたらこっちが教えてほしいくらいだった。

「ともかく、ここに留まるのは危険だ。すぐに戻ってダズたちと合流しよう」
「賛成だ。――む?」

 エミリーが何かの気配を察知して、自分たちが出てきたダンジョンへと続く穴の方に視線を送る。
 その行為が示す者。
 それは考えられる限り最悪のケースであった。
 
「いやっほー!!」

 テンションの高い叫び声を聞いた優志は、その最悪のケースが訪れたことに絶望して目を閉じた。

 魔人が現れたのだ。

 飛び出して来た魔人は大きな岩に腰かけると、優志たちを品定めするかのごとくじっくりと凝視する。

「ちっ! なんだよ。あの中で一番弱そうなヤツ大集合じゃねぇか。こりゃ一番のハズレを引いたみたいだな。本命はさっきの斧使いのおっさんだったのに」

 突如謎の覚醒を見せたジョゼフとの再戦を望んでいたようだが、その願いが叶わず悔しそうにバンバンと足元の岩を叩く。

「ならばここを通してもらいたいな」

 こちらと戦う意思はなさそうなのでエミリーがたずねると、

「別に。おまえらでもいいけどよ。つか、おまえの断末魔を耳にすれば寄って来るだろ」

 魔人は戦う気満々だった。

「くっ!」

 敵意アリと見たエミリーが構えるが――その行動に移った時にはすでに相手のターンは終了していた。

 バチン!

 何かを弾くような音がした。
 優志がそう感じた時には、

「ぐあっ!?」

 エミリーの手元から剣が吹き飛び、同時にエミリー自身を吹っ飛んだ。

「エミリー!!!」

 優志は叫ぶが、倒れたエミリーはすぐには起き上がれない状態。ザックも「っ……!!」と目の前の光景に絶句していた。

 なんとしても子どもであるザックは救いたい。
 そう思う優志であったが、今は手ぶら。
 ある物といえば手製の水筒に入れてきた回復水のみだ。

「おらおら! よそ見していたら死ぬぜ!」

 魔人は目にもとまらぬスピードで優志に一撃をお見舞いする。

「うわああああっ!!」

 鍛え抜かれたエミリーとは違い、ただの中年元リーマンである優志は呆気なく吹っ飛んでしまった。

「なんだよ。拍子抜けだな。少しは意外性ってものを見せてもらいたいものだ――うん?」

 優志が吹き飛んだ直後、腰のあたりに装着していた優志の水筒の紐が切れ、その場にコロコロと転がっている。それを発見した魔人は水筒を持ち上げると、

「この水は……ただの水じゃねぇな」

 そう言って、魔人は水筒を破壊すると、中に入っていた水を手ですくった。

「! まずい」
 
 ただでさえ厄介な魔人が回復してしまえば、もう誰も手が付けられない。
 さらなる最悪の事態を恐れた優志は必死に手を伸ばすが、その執念は実らず、回復水は魔人の口へと運ばれた。

 全回復してしまう。

 優志は絶望のあまりまたも目を閉じたが、


「ごはっ!?」


 魔人から返って来た反応は意外なものだった。
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