上 下
88 / 168

第88話  ダンジョン大乱闘

しおりを挟む
「これ以上はもう黙って見ているわけにはいかない」

 先ほどまでのおどおどした様子とは打って変わり、歴戦の勇士のごとき迫力をもって魔人の前で仁王立ちをしている。

「お、親父……?」

 その豹変ぶりに、息子のザックも驚きを隠せない様子。
 優志たちも意外過ぎる展開に動きが止まっていたが、

「はははっ!!」

 魔人の高笑いで全員がハッと我に返る。

「いいねぇ、あんた! ――ならこいつはどうだ?」

 攻撃を防がれたことで興奮した魔人は、連続でストームの魔鉱石が生み出す突風の能力を使用してジョゼフへと襲いかかる。


「むん!!」

 その攻撃をあっさりと弾き返すジョゼフ。

「あ、あの人、あんなに強かったんですか!?」
「俺も今知って驚いているよ」 

 トラビスから追及を受ける優志だが、言葉の通り、ジョゼフがここまで強いだなんて微塵も想定していなかった。

「ユージさん! 息子を連れて逃げてください!」
「あ、は、はい!」

 思わず敬語になってしまうほど、今のジョゼフは頼もしさで溢れていた。

「ジョゼフさん、僕らも援護します!」

 再び武器を手にして構えるトラビスたち――だが、そこへ、


「おいおい、一体なんの騒ぎだ?」

 
 騒ぎを聞きつけた冒険者のパーティーがやって来た。
 しかもそれは、

「ダズ! エミリー!」

 ここよりも奥地での採掘を終えて出口へと向かう途中だったダズたちのパーティーが、この混沌とした場へ鉢合わせた。

「な、なんだあいつは!?」
「ま、魔人? でも今喋ったような」

 ダズとエミリーはこれまでに遭遇したことのない未知の生命体を前に動きが止まる。
 それは優志たちも同じだった。
 思わぬ乱入者の登場に意識が持っていかれた――その隙を、魔人は見逃さない。


「っはぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 魔鉱石ストームの威力を最大限に発揮しての突風。
 それによって優志たちは一斉に吹き飛ばされてしまった。

「うおおお!?」

 目も開けられないほどの突風が導くままに、優志はダンジョン内を強制移動させられる。そうして行きついた場所――正確な位置を掴めないまま、偶然にも、

「! 光だ!」

 とにかく、あの魔人に見つかるよりも先に外へ出たい。
 その一心で、優志は立ち上がる。
 周りに仲間がいないか確認するが、誰もいない。
 あの突風で散り散りになってしまったようだ。

「ともかく外だ。外に出て援軍を呼べば」

 外には冒険者たちのテントがあるはず。
 そこにいる者たちへ協力を仰ぎ、ジョゼフやトラビス、そして戦線に加わっただろうダズやエミリーたちを援護に行かなくては。

 そうと決まれば善は急げだ。

 優志は吐く息も荒々しく、光の方向へと走った。
 やっとの思いでその光をくぐり抜け、外へと出たが、

「! ここは……」

 そこは、出口は出口でも冒険者たちのテントがある正規の入口ではなかった。
 しかし、この光景には見覚えがある。

「そうだ。ここはロザリアを追いかけてきたたどり着いた場所だ」

 エミリーと共に一角牛を追いかけてたどり着いた場所であった。
 さすがにここには援軍がいない。
 もう一度ダンジョンへと戻り、今度こそ正規ルートをたどりたいところではあったが、またあの魔人と遭遇したら今度こそ助からないだろう。
 優志が途方に暮れていると、

「うん? なんだここは?」
「ど、どこだよ、ここ」

 優志と同じように、吹き飛ばされた直後にここの出口の光に導かれてやって来てのはエミリーとザックのふたりであった。

「無事だったか!」
「なんとかな。しかしユージ殿……あいつは一体何者なんだ?」
「俺にもわからない」

 むしろ知っていたらこっちが教えてほしいくらいだった。

「ともかく、ここに留まるのは危険だ。すぐに戻ってダズたちと合流しよう」
「賛成だ。――む?」

 エミリーが何かの気配を察知して、自分たちが出てきたダンジョンへと続く穴の方に視線を送る。
 その行為が示す者。
 それは考えられる限り最悪のケースであった。
 
「いやっほー!!」

 テンションの高い叫び声を聞いた優志は、その最悪のケースが訪れたことに絶望して目を閉じた。

 魔人が現れたのだ。

 飛び出して来た魔人は大きな岩に腰かけると、優志たちを品定めするかのごとくじっくりと凝視する。

「ちっ! なんだよ。あの中で一番弱そうなヤツ大集合じゃねぇか。こりゃ一番のハズレを引いたみたいだな。本命はさっきの斧使いのおっさんだったのに」

 突如謎の覚醒を見せたジョゼフとの再戦を望んでいたようだが、その願いが叶わず悔しそうにバンバンと足元の岩を叩く。

「ならばここを通してもらいたいな」

 こちらと戦う意思はなさそうなのでエミリーがたずねると、

「別に。おまえらでもいいけどよ。つか、おまえの断末魔を耳にすれば寄って来るだろ」

 魔人は戦う気満々だった。

「くっ!」

 敵意アリと見たエミリーが構えるが――その行動に移った時にはすでに相手のターンは終了していた。

 バチン!

 何かを弾くような音がした。
 優志がそう感じた時には、

「ぐあっ!?」

 エミリーの手元から剣が吹き飛び、同時にエミリー自身を吹っ飛んだ。

「エミリー!!!」

 優志は叫ぶが、倒れたエミリーはすぐには起き上がれない状態。ザックも「っ……!!」と目の前の光景に絶句していた。

 なんとしても子どもであるザックは救いたい。
 そう思う優志であったが、今は手ぶら。
 ある物といえば手製の水筒に入れてきた回復水のみだ。

「おらおら! よそ見していたら死ぬぜ!」

 魔人は目にもとまらぬスピードで優志に一撃をお見舞いする。

「うわああああっ!!」

 鍛え抜かれたエミリーとは違い、ただの中年元リーマンである優志は呆気なく吹っ飛んでしまった。

「なんだよ。拍子抜けだな。少しは意外性ってものを見せてもらいたいものだ――うん?」

 優志が吹き飛んだ直後、腰のあたりに装着していた優志の水筒の紐が切れ、その場にコロコロと転がっている。それを発見した魔人は水筒を持ち上げると、

「この水は……ただの水じゃねぇな」

 そう言って、魔人は水筒を破壊すると、中に入っていた水を手ですくった。

「! まずい」
 
 ただでさえ厄介な魔人が回復してしまえば、もう誰も手が付けられない。
 さらなる最悪の事態を恐れた優志は必死に手を伸ばすが、その執念は実らず、回復水は魔人の口へと運ばれた。

 全回復してしまう。

 優志は絶望のあまりまたも目を閉じたが、


「ごはっ!?」


 魔人から返って来た反応は意外なものだった。
しおりを挟む
感想 188

あなたにおすすめの小説

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

付与効果スキル職人の離島生活 ~超ブラックな職場環境から解放された俺は小さな島でドラゴン少女&もふもふ妖狐と一緒に工房を開く~

鈴木竜一
ファンタジー
傭兵を派遣する商会で十年以上武器づくりを担当するジャック。貴重な付与効果スキルを持つ彼は逃げ場のない環境で強制労働させられていたが、新しく商会の代表に就任した無能な二代目に難癖をつけられ、解雇を言い渡される。 だが、それは彼にとってまさに天使の囁きに等しかった。 実はジャックには前世の記憶がよみがえっており、自分の持つ付与効果スキルを存分に発揮してアイテムづくりに没頭しつつ、夢の異世界のんびり生活を叶えようとしていたからだ。 思わぬ形で念願叶い、自由の身となったジャックはひょんなことから小さな離島へと移住し、そこで工房を開くことに。ドラゴン少女やもふもふ妖狐や病弱令嬢やらと出会いつつ、夢だった平穏な物づくりライフを満喫していくのであった。 一方、ジャックの去った商会は経営が大きく傾き、その原因がジャックの持つ優秀な付与効果スキルにあると気づくのだった。 俺がいなくなったら商会の経営が傾いた? ……そう(無関心)

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...