上 下
85 / 168

第85話  木こりの親子

しおりを挟む
「え? だ、ダンジョンですか?」

 父親ジョゼフの顔から血の気が失せる。

「そんな……うちはしがない木こりの家系で、戦闘なんか無縁なのに」
「ま、まだそうと決まったわけじゃないですよ!」

 巨体をわなわなと震わせるジョゼフの顔色は今にも死にそうなほど悪化。見てくれとは違って案外と心配性な面があるようだ。

「でも、たしかにあの子の――ザックの性格を考えたらそういう行動に出ることも十分に考えられる……」

 ジョゼフは頭を抱える。
 仕事を得ることに関心を取られ過ぎて、息子の暴走を止めることができなかったことに対してひどく後悔していた。

「ゆ、ユージさん……」

 息子を心配するあまり心臓発作でも起こしかねないほど弱っていくジョゼフに対し、いたたまれなくなったリウィルが「なんとかしてやれないか」と視線で訴えかけてくる。

「……よし」

 優志は結論を出した。

「もう一度、ダンジョンへ行ってくるよ。もうちょっと深めに、ね」
「え? それって……」
「ダンジョンへ潜る」

 そうするしかない、というのが優志の出した答えだった。

「当然だけど、助っ人は呼ぶよ」
「ダズさんたちは終日ダンジョンへ潜るそうですが……」
「うっ」

 そういえばそうだった、と優志の顔が曇る。

「となると、他の冒険者に依頼しなくちゃな」
「あ、あの……」

 話を進めていると、ジョゼフが挙手。

「どうかしましたか?」

 リウィルがたずねると、ジョゼフは深呼吸を挟んでから、

「わ、私もダンジョンへ向かいます」

 そう告げた。

「え? で、でも、戦闘とは無縁だって」
「たしかにこれまでモンスターと戦った経験はありません」

 モンスターと戦う自分の姿を想像したのだろうか、ジョゼフの口調は震えてどこか頼りなさがある。だが、そんな様子とは裏腹に、優志はジョゼフならモンスターといい勝負ができるのではないかと分析していた。
 その最大の理由は、

「こいつを使えば……」

 ジョゼフは背中に背負っていた物を外す。
 ズドン、と重量感ある音を立てて床に落とされた――巨大な斧。

 木こりを生業とする彼にとって、それは欠かすことのできない大切な商売道具。
 しかし、木こりを廃業した今となっては武器として扱う以外に用途がない。

 それを、ジョゼフも薄々と感じ取っているようだ。

 そして今――息子を救うため、その決意を固めた。

「た、戦います。あの子を救うため」
「……わかりました。なら、凄腕を雇いましょう」

 ――とは言うものの、今の時間帯は多くの冒険者がすでにダンジョン内へ潜っている。これからダンジョンへ向かう者は少数だ。

「うーん……あ」

 悩む優志の視界の先――ちょうど店の真ん前を談笑しながら歩いているのは、先ほどダンジョン周辺で少年を捜索中に出会った若手の冒険者パーティーだった。

「彼らに協力を要請してみるか」

 店の常連でもある彼らの腕前は承知済み。
 強力なモンスターを相手にして魔鉱石を手に入れようというわけじゃない。少年の行方を捜すだけなのでそれほど危険性を伴わないだろう。
 
「なあ、ちょっといいかな」

 優志は窓を開けて帰宅途中の冒険者たちへ話しかけた。


  ◇◇◇


「私の息子のために本当に申し訳ない」
「いえいえ、お気になさらず」

 若き冒険者パーティーのリーダーであるトラビスはダンジョン捜索を快諾。メンバーを選出し、そこに優志とジョゼフを足した合計5人の面子で潜ることとなった。

 トラビスたちが準備を進めている間も、優志とジョゼフはダンジョン周辺に集まる冒険者たちへ聞き込みをした。

 残念ながら有力な情報を得るには至らなかったが、あるベテラン冒険者が、

「そういやダンジョンの中で小さな人影を見たな。ありゃモンスターのものじゃないと思ったが……まさかそんな子どもがいるとは思わなくて気のせいだとやり過ごしちまったが」

 確証はないが、可能性は示された。

「やはりあの子はダンジョンに……」
「でも、それはお父さんを思っての行動ですよ」
「ええ……私には過ぎた息子です」

 余程息子のザックが大事なのだろう。
 ザックの話をしている時は生き生きとして見える。
 と、

「うん?」

 並んで歩いているうちに、優志はジョゼフの背負っている斧にある物を発見する。
 それは紋章であった。
 その紋章を、つい最近どこかで見たことがある気がする。

「どこだったかな……」
「え?」
「あ、いや、こっちの話しだ」

 とりあえず誤魔化して、トラビスたちのパーティーが準備しているテントへと戻った。


 ジョゼフとザック。


 この親子――只者ではなさそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

付与効果スキル職人の離島生活 ~超ブラックな職場環境から解放された俺は小さな島でドラゴン少女&もふもふ妖狐と一緒に工房を開く~

鈴木竜一
ファンタジー
傭兵を派遣する商会で十年以上武器づくりを担当するジャック。貴重な付与効果スキルを持つ彼は逃げ場のない環境で強制労働させられていたが、新しく商会の代表に就任した無能な二代目に難癖をつけられ、解雇を言い渡される。 だが、それは彼にとってまさに天使の囁きに等しかった。 実はジャックには前世の記憶がよみがえっており、自分の持つ付与効果スキルを存分に発揮してアイテムづくりに没頭しつつ、夢の異世界のんびり生活を叶えようとしていたからだ。 思わぬ形で念願叶い、自由の身となったジャックはひょんなことから小さな離島へと移住し、そこで工房を開くことに。ドラゴン少女やもふもふ妖狐や病弱令嬢やらと出会いつつ、夢だった平穏な物づくりライフを満喫していくのであった。 一方、ジャックの去った商会は経営が大きく傾き、その原因がジャックの持つ優秀な付与効果スキルにあると気づくのだった。 俺がいなくなったら商会の経営が傾いた? ……そう(無関心)

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

処理中です...