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第81話 別れと新たな問題
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ライアンのお別れ会は盛大に行われた。
店にいた期間はおよそ2週間であるが、その間に店に訪れてくれた客たちの多くがライアンの門出を祝いに訪れてくれた。
優志もまた、ライアンの旅立ちを祝おうとこの日は利用料タダの大盤振る舞い。
それも手伝って、店はいつも以上に大変な賑わいを見せていた。
「騒げ騒げぇ!」
おいしい酒と食事も振る舞われたとあって、ダズをはじめとする多くの冒険者が飲めや歌えやの大騒ぎ。これら料理や酒もまたフォーブの街にある多くの店からの差し入れである。
昼と夜の区別さえつかなくなるほどの大騒ぎが続き――翌朝。
「では、行ってきます」
朝霧が残る中、城からの迎えに一礼したライアンは振り返り、改めて優志たちにお礼を述べた。
ライアンの新たな船出を見届けるため、早朝から集まったのは優志、リウィル、美弦の他にダズやエミリー。それだけでなく、町長やロザリアも駆けつけた。
さらにライアンの夢を後押ししようと多くの冒険者が残り、早朝にも関わらずこうして勢揃いしていた。その数は20人以上。
「こんなにたくさんの方に見送っていただけるなんて……」
ライアンの涙腺は今にも崩壊しそうなほど緩んでいた。
その後、リウィルからはお手製のお弁当を、美弦からは手作りのお守り(神社などで売られているものを見様見真似で作った)を渡されてとうとう決壊。溢れんばかりの涙と鼻水でぐちゃぐちゃになってしまった。
「やれやれ、困ったもんだな」
苦笑いを浮かべる優志だが、内心はもう限界スレスレだった。
あと一押しあったら涙がこぼれ出そう――そこをなんとか耐えていた。
ここで自分まで泣いてしまっては収拾がつきそうにないから。
「ライアン、気をつけてな」
「はい! ユージさん……この御恩は一生忘れません!」
「御恩だなんて大袈裟だな」
優志としては特別に何かをしたという感覚はない。
たしかに作品づくりには協力をしたが、ベルギウスにその腕を認めてもらったのは間違いなくライアンの実力。
「いえ、僕がここまでやれたのは間違いなくあなたのおかげです! ――それで」
話しの途中で、ライアンはなぜか店内へ一旦戻った。
そして、
「これをあなたに――実はこっそり作っていたものなんです」
「こいつは!?」
思わぬサプライズプレゼントに優志は目を見開いた。
ライアンが作ったというのは――暖簾だった。
それも、真ん中には「♨」のマークが描かれており、さらに「回復屋湯~じ」の文字が。
「これ……店名か!?」
「はい! そうです!」
高らかに答えたライアン。
――だが、問題は入れ知恵をした人物だ。
「い、一体どうやってこのマークを!? もしかして美弦ちゃん?」
「ち、違います。私が教えたのは店名で使う文字だけです」
どうやら美弦ではないらしい。
「? このマークが何か?」
「いや……ライアンはそのマークの意味を知っているのか?」
「ええ。これは風呂を指すんですよね?」
「そ、そうだ。……どこでそれを?」
「ここへ来る前に立ち寄った街にいた冒険者から聞いたんです。……な、何かおかしかったですか?」
明らかに様子のおかしい優志と美弦の反応を見て、ライアンは何かをやらかしてしまったのかと不安になっていたが、
「そいつは俺たちの世界で使われているマークだ。……リウィル、ダズ、エミリー、こいつを見たことは?」
「あ、ありません」
「ねぇな」
「同じく」
各方面を代表する御三方に聞いても知らないと言う。
その他、居合わせた冒険者たちにも目配せをするが、誰ひとりとして「知っている」と名乗り出る者はいなかった。
となると、やはりあのマークはこの世界にあるものではないという可能性が高い。
「なあ、ライアン。そいつを君に教えた人物の名前を知っているか?」
「ああ……名前は聞かなかったけど」
「けど?」
「刃物で切ったあとだと思うのですが、左頬に大きな傷があって……それがとても印象に残っているんだ」
「左頬に大きな傷……」
それは大きな手掛かりだった。
「その人は年齢的にはどれくらい?」
「そうですねぇ……ユージさんと同じくらいでしょうか」
「俺と同じくらい、か」
つまり、「おっさん」というわけだ。
「教わったのはいつ?」
「今から3年くらい前でしょうか」
今から3年前。
勇者召喚が行われているのはここ数ヶ月の間のみ。
それ以前にこの世界へやってきた者がいる。
一体それは何者なのだろうか。
そして、このことをベルギウスやガレッタは知っているのだろうか。
「…………」
優志の頭の中では、考えたくもない「可能性」が旋回している。
もし、ベルギウスやガレッタがそのおっさんの転移に関係しているのだとすれば――優志は一体どうするべきなのか。
「そろそろ時間だぞ」
考えがまとまらないうちにタイムアップ。
同行する騎士が、ライアンに馬車へ乗るよう指示を出す。
「では、僕はそろそろ」
「ああ――達者でな。こいつは店の真ん前の一番目立つ位置にくっつけとくから」
「ありがとうございます!」
気になる点は残るが、この作品については紛れもなくライアンの感謝の気持ちが込められている。それを大切にしないわけがない。
「いつでもここに帰ってきていいんですからね?」
「はい!」
リウィルからのありがたい言葉に、またも声を涙で震わせるライアン。
それを拭うようにして大きく深呼吸し、
「それでは――いってきます!!!」
大勢の見送りに応えるよう、ライアンは力いっぱい大きな声で最後の挨拶をした。
立派になった元従業員の成長を噛みしめつつも、優志は新たな疑念に胸を痛めていた。
今の話し――一度城でベルギウスかガレッタに聞いてみるとしよう。
「…………」
言い知れぬ不安を抱いたまま、今日も回復屋としての仕事が始まる。
店にいた期間はおよそ2週間であるが、その間に店に訪れてくれた客たちの多くがライアンの門出を祝いに訪れてくれた。
優志もまた、ライアンの旅立ちを祝おうとこの日は利用料タダの大盤振る舞い。
それも手伝って、店はいつも以上に大変な賑わいを見せていた。
「騒げ騒げぇ!」
おいしい酒と食事も振る舞われたとあって、ダズをはじめとする多くの冒険者が飲めや歌えやの大騒ぎ。これら料理や酒もまたフォーブの街にある多くの店からの差し入れである。
昼と夜の区別さえつかなくなるほどの大騒ぎが続き――翌朝。
「では、行ってきます」
朝霧が残る中、城からの迎えに一礼したライアンは振り返り、改めて優志たちにお礼を述べた。
ライアンの新たな船出を見届けるため、早朝から集まったのは優志、リウィル、美弦の他にダズやエミリー。それだけでなく、町長やロザリアも駆けつけた。
さらにライアンの夢を後押ししようと多くの冒険者が残り、早朝にも関わらずこうして勢揃いしていた。その数は20人以上。
「こんなにたくさんの方に見送っていただけるなんて……」
ライアンの涙腺は今にも崩壊しそうなほど緩んでいた。
その後、リウィルからはお手製のお弁当を、美弦からは手作りのお守り(神社などで売られているものを見様見真似で作った)を渡されてとうとう決壊。溢れんばかりの涙と鼻水でぐちゃぐちゃになってしまった。
「やれやれ、困ったもんだな」
苦笑いを浮かべる優志だが、内心はもう限界スレスレだった。
あと一押しあったら涙がこぼれ出そう――そこをなんとか耐えていた。
ここで自分まで泣いてしまっては収拾がつきそうにないから。
「ライアン、気をつけてな」
「はい! ユージさん……この御恩は一生忘れません!」
「御恩だなんて大袈裟だな」
優志としては特別に何かをしたという感覚はない。
たしかに作品づくりには協力をしたが、ベルギウスにその腕を認めてもらったのは間違いなくライアンの実力。
「いえ、僕がここまでやれたのは間違いなくあなたのおかげです! ――それで」
話しの途中で、ライアンはなぜか店内へ一旦戻った。
そして、
「これをあなたに――実はこっそり作っていたものなんです」
「こいつは!?」
思わぬサプライズプレゼントに優志は目を見開いた。
ライアンが作ったというのは――暖簾だった。
それも、真ん中には「♨」のマークが描かれており、さらに「回復屋湯~じ」の文字が。
「これ……店名か!?」
「はい! そうです!」
高らかに答えたライアン。
――だが、問題は入れ知恵をした人物だ。
「い、一体どうやってこのマークを!? もしかして美弦ちゃん?」
「ち、違います。私が教えたのは店名で使う文字だけです」
どうやら美弦ではないらしい。
「? このマークが何か?」
「いや……ライアンはそのマークの意味を知っているのか?」
「ええ。これは風呂を指すんですよね?」
「そ、そうだ。……どこでそれを?」
「ここへ来る前に立ち寄った街にいた冒険者から聞いたんです。……な、何かおかしかったですか?」
明らかに様子のおかしい優志と美弦の反応を見て、ライアンは何かをやらかしてしまったのかと不安になっていたが、
「そいつは俺たちの世界で使われているマークだ。……リウィル、ダズ、エミリー、こいつを見たことは?」
「あ、ありません」
「ねぇな」
「同じく」
各方面を代表する御三方に聞いても知らないと言う。
その他、居合わせた冒険者たちにも目配せをするが、誰ひとりとして「知っている」と名乗り出る者はいなかった。
となると、やはりあのマークはこの世界にあるものではないという可能性が高い。
「なあ、ライアン。そいつを君に教えた人物の名前を知っているか?」
「ああ……名前は聞かなかったけど」
「けど?」
「刃物で切ったあとだと思うのですが、左頬に大きな傷があって……それがとても印象に残っているんだ」
「左頬に大きな傷……」
それは大きな手掛かりだった。
「その人は年齢的にはどれくらい?」
「そうですねぇ……ユージさんと同じくらいでしょうか」
「俺と同じくらい、か」
つまり、「おっさん」というわけだ。
「教わったのはいつ?」
「今から3年くらい前でしょうか」
今から3年前。
勇者召喚が行われているのはここ数ヶ月の間のみ。
それ以前にこの世界へやってきた者がいる。
一体それは何者なのだろうか。
そして、このことをベルギウスやガレッタは知っているのだろうか。
「…………」
優志の頭の中では、考えたくもない「可能性」が旋回している。
もし、ベルギウスやガレッタがそのおっさんの転移に関係しているのだとすれば――優志は一体どうするべきなのか。
「そろそろ時間だぞ」
考えがまとまらないうちにタイムアップ。
同行する騎士が、ライアンに馬車へ乗るよう指示を出す。
「では、僕はそろそろ」
「ああ――達者でな。こいつは店の真ん前の一番目立つ位置にくっつけとくから」
「ありがとうございます!」
気になる点は残るが、この作品については紛れもなくライアンの感謝の気持ちが込められている。それを大切にしないわけがない。
「いつでもここに帰ってきていいんですからね?」
「はい!」
リウィルからのありがたい言葉に、またも声を涙で震わせるライアン。
それを拭うようにして大きく深呼吸し、
「それでは――いってきます!!!」
大勢の見送りに応えるよう、ライアンは力いっぱい大きな声で最後の挨拶をした。
立派になった元従業員の成長を噛みしめつつも、優志は新たな疑念に胸を痛めていた。
今の話し――一度城でベルギウスかガレッタに聞いてみるとしよう。
「…………」
言い知れぬ不安を抱いたまま、今日も回復屋としての仕事が始まる。
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