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第78話 お披露目
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国王専用風呂の着工から1週間。
とうとう、
「「「「「「完成だぁ!!!」」」」」」
優志と職人たちは一斉に叫び、ハイタッチを交わしていく。
特に、年齢が近く、もっとも多く議論を交わしたクリフとは抱擁まで交わすほど喜びを爆発させていた。
風呂自体の外観は、優志の店にあるさほど変化はない。
だが、風呂のそこにはびっしりとエアーの魔鉱石が含まれており、これがジャグジー効果を生み出すのである。
それと、もうひとつの風呂を実現する大きな仕掛け。
ただ、これが露骨に見えていては興醒めもいいところなので、こうした仕掛けが視界に入らないよう、植物などを駆使してなんとか隠していた。
「いやはや……これはまた驚きましたな」
完成した風呂を眺めながら、ショーンも呟く。
職人たちのこだわりや苦労を間近で見ていたからなのか、片眼鏡の奥にある瞳は、うっすら潤っていた。感極まって涙が出たらしい。
「では、早速国王陛下にご報告をしてきます」
「お願いします」
完成を心待ちにしている国王陛下を呼びに、ショーンは部屋をあとにした。
「ようやく完成したけど……国王陛下は気に入ってくださるだろうか」
やり遂げた達成感で気分が高揚していた職人たちであったが、何気なく発せられたその言葉をきっかけに静まり返ってしまった。
自信はある。
ジャグジーと秘策である「あの風呂」は、きっと国王陛下に気に入ってもらえる。
「大丈夫さ。この風呂は俺たちの集大成……きっとうまくいく」
優志の言葉を受けて、職人たちの顔から不安の色が消えた。
この1週間――職人たちは一切の妥協を許さず、己の持てる技術を余すところなく絞り出した、優志の言った通りまさに集大成と称して過言ではない仕上がりになった。
改めて自信を持ったところで、
「とうとう完成したそうだな」
いよいよフィルス国王がやって来た。
風格ある佇まいで、ゆっくりと風呂場へと入って来る。
その視線の先には――すでに湯が張られた風呂がある。
職人たちのこだわりが詰まった風呂を目の当たりにしたフィルス国王の反応は、
「ふむ……」
心なしか、落胆したように映った。
しかし、それは無理もないこと。
なぜなら、パッと見は特に変化の見られない、ただの風呂だったから。
「特にこれといって変わったところはないな」
「ご安心ください。――入っていただければ、その違いに驚くはずです」
「ほぅ……」
自信たっぷりな優志の言葉に、少し影がさしていたフィルス国王の顔に明るさが戻る。
優志の自信の根拠を知るため、フィルス国王は早速服を脱いで風呂へとその身を預ける――だが、
「…………」
特に変化はない。
ただの湯に浸かっているだけだ。
そこへ、
「では――始めます」
優志が職人たちへ合図を送る。
それを受け取った職人たちは、風呂の底に仕掛けられたエアーの魔鉱石へ魔力を供給し始めた。これにより、
「む?」
なんの変哲もないただの風呂に、劇的な変化が訪れる。
ボコボコボコ――
「な、なんだ!?」
風呂の底から湧き上がってくる空気。
たまらず、フィルス王は立ち上がった。
「ご安心ください、国王陛下。それはただの空気です」
「く、空気? ……しかし、これは……」
躊躇いがあるのか、国王はその場に立ち尽くしたままの状態となってしまった。
それもそのはずで、エアーの魔鉱石の影響を受けた風呂はボコボコと泡立ち、まるで沸騰した鍋の中のようになっている。
ただ、これはあくまでも熱によるものではなく、エアーの魔鉱石によって生じたものであるため、温度に変化はない。ただ、ビジュアル的に初見の人には警戒心を持たれてしまうのは仕方がないと優志は思っていた。
それが見事にフィルス国王にも当てはまった形だ。
「御心配には及びません。むしろのその湧き上がる泡こそがこの風呂の肝なのです」
「こ、これが、か?」
半信半疑のフィルス国王であるが、実績十分な優志が言うならと再びその身を湯船の中へと沈める。すると、
「お? おおっ!?」
不安げな表情から一変、硬直していた頬はだらんと力なく垂れ下がり、目はキュッと細められた。
「なんという快感……まるで全身をもみほぐされているような感覚だ」
優志からすればそれは大袈裟な表現だと感じる。
だが、これまで入浴に関する文化が皆無だったこの世界の住人にとって、このジャグジー風呂というのはこれまでのどの風呂よりインパクトを与えるものになったようだ。
その証拠に、側近の騎士や神官たちが興味深げにフィルス国王の一挙手一投足に注目をしている。
「ふあ~……驚いたなぁ。よもやここまでとは」
すっかり優志たちの風呂を気に入ったフィルス国王。
――だが、まだ終わらない。
「お次はこんな風呂はどうでしょうか」
「何? まだあるのか?」
「ええ。――今度もまた一風変わったものになります」
そう言って、優志は再び職人たちへ合図を送る。
「場所を移しましょう」
「移動すると言っても……どこへだ?」
パッと見渡しても、湯船は今自分が浸かっているジャグジー風呂しかない。
一体、どこにその風呂があるというのか。
「次の風呂はそこで座っていただければわかりますよ」
「座る?」
優志が指定した場所――それはただの床だった。
お湯どころか水さえなさそうな場所を指定されたフィルス王は混乱気味だ。
「い、一体、何をはじめようと言うんだ?」
「これもまた、俺の世界にある風呂の一種なんですよ」
あたふたする国王を尻目に、準備を整えた優志が告げる。
「その名は――打たせ湯です」
とうとう、
「「「「「「完成だぁ!!!」」」」」」
優志と職人たちは一斉に叫び、ハイタッチを交わしていく。
特に、年齢が近く、もっとも多く議論を交わしたクリフとは抱擁まで交わすほど喜びを爆発させていた。
風呂自体の外観は、優志の店にあるさほど変化はない。
だが、風呂のそこにはびっしりとエアーの魔鉱石が含まれており、これがジャグジー効果を生み出すのである。
それと、もうひとつの風呂を実現する大きな仕掛け。
ただ、これが露骨に見えていては興醒めもいいところなので、こうした仕掛けが視界に入らないよう、植物などを駆使してなんとか隠していた。
「いやはや……これはまた驚きましたな」
完成した風呂を眺めながら、ショーンも呟く。
職人たちのこだわりや苦労を間近で見ていたからなのか、片眼鏡の奥にある瞳は、うっすら潤っていた。感極まって涙が出たらしい。
「では、早速国王陛下にご報告をしてきます」
「お願いします」
完成を心待ちにしている国王陛下を呼びに、ショーンは部屋をあとにした。
「ようやく完成したけど……国王陛下は気に入ってくださるだろうか」
やり遂げた達成感で気分が高揚していた職人たちであったが、何気なく発せられたその言葉をきっかけに静まり返ってしまった。
自信はある。
ジャグジーと秘策である「あの風呂」は、きっと国王陛下に気に入ってもらえる。
「大丈夫さ。この風呂は俺たちの集大成……きっとうまくいく」
優志の言葉を受けて、職人たちの顔から不安の色が消えた。
この1週間――職人たちは一切の妥協を許さず、己の持てる技術を余すところなく絞り出した、優志の言った通りまさに集大成と称して過言ではない仕上がりになった。
改めて自信を持ったところで、
「とうとう完成したそうだな」
いよいよフィルス国王がやって来た。
風格ある佇まいで、ゆっくりと風呂場へと入って来る。
その視線の先には――すでに湯が張られた風呂がある。
職人たちのこだわりが詰まった風呂を目の当たりにしたフィルス国王の反応は、
「ふむ……」
心なしか、落胆したように映った。
しかし、それは無理もないこと。
なぜなら、パッと見は特に変化の見られない、ただの風呂だったから。
「特にこれといって変わったところはないな」
「ご安心ください。――入っていただければ、その違いに驚くはずです」
「ほぅ……」
自信たっぷりな優志の言葉に、少し影がさしていたフィルス国王の顔に明るさが戻る。
優志の自信の根拠を知るため、フィルス国王は早速服を脱いで風呂へとその身を預ける――だが、
「…………」
特に変化はない。
ただの湯に浸かっているだけだ。
そこへ、
「では――始めます」
優志が職人たちへ合図を送る。
それを受け取った職人たちは、風呂の底に仕掛けられたエアーの魔鉱石へ魔力を供給し始めた。これにより、
「む?」
なんの変哲もないただの風呂に、劇的な変化が訪れる。
ボコボコボコ――
「な、なんだ!?」
風呂の底から湧き上がってくる空気。
たまらず、フィルス王は立ち上がった。
「ご安心ください、国王陛下。それはただの空気です」
「く、空気? ……しかし、これは……」
躊躇いがあるのか、国王はその場に立ち尽くしたままの状態となってしまった。
それもそのはずで、エアーの魔鉱石の影響を受けた風呂はボコボコと泡立ち、まるで沸騰した鍋の中のようになっている。
ただ、これはあくまでも熱によるものではなく、エアーの魔鉱石によって生じたものであるため、温度に変化はない。ただ、ビジュアル的に初見の人には警戒心を持たれてしまうのは仕方がないと優志は思っていた。
それが見事にフィルス国王にも当てはまった形だ。
「御心配には及びません。むしろのその湧き上がる泡こそがこの風呂の肝なのです」
「こ、これが、か?」
半信半疑のフィルス国王であるが、実績十分な優志が言うならと再びその身を湯船の中へと沈める。すると、
「お? おおっ!?」
不安げな表情から一変、硬直していた頬はだらんと力なく垂れ下がり、目はキュッと細められた。
「なんという快感……まるで全身をもみほぐされているような感覚だ」
優志からすればそれは大袈裟な表現だと感じる。
だが、これまで入浴に関する文化が皆無だったこの世界の住人にとって、このジャグジー風呂というのはこれまでのどの風呂よりインパクトを与えるものになったようだ。
その証拠に、側近の騎士や神官たちが興味深げにフィルス国王の一挙手一投足に注目をしている。
「ふあ~……驚いたなぁ。よもやここまでとは」
すっかり優志たちの風呂を気に入ったフィルス国王。
――だが、まだ終わらない。
「お次はこんな風呂はどうでしょうか」
「何? まだあるのか?」
「ええ。――今度もまた一風変わったものになります」
そう言って、優志は再び職人たちへ合図を送る。
「場所を移しましょう」
「移動すると言っても……どこへだ?」
パッと見渡しても、湯船は今自分が浸かっているジャグジー風呂しかない。
一体、どこにその風呂があるというのか。
「次の風呂はそこで座っていただければわかりますよ」
「座る?」
優志が指定した場所――それはただの床だった。
お湯どころか水さえなさそうな場所を指定されたフィルス王は混乱気味だ。
「い、一体、何をはじめようと言うんだ?」
「これもまた、俺の世界にある風呂の一種なんですよ」
あたふたする国王を尻目に、準備を整えた優志が告げる。
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