異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした

鈴木竜一

文字の大きさ
上 下
73 / 168

第73話  感謝

しおりを挟む
 ベルギウスがライアンの部屋から出てきた時にはすっかり日が暮れていた。
 優志が職人たちと城へ行き、簡単な打ち合わせを終えて戻って来てもまだふたりは部屋の中だった。
 
 ちょうど、優志が店に戻る頃――城からの使いが優志の店を訪れていた。
 城内にベルギウスがいないことに気づき、「恐らくあの店だろう」というガレッタからの助言を聞いてやって来たのだと言う。

 ガレッタの読みは的中しており、ベルギウスは優志の店で若い画家の男とふたりっきりで部屋に閉じこもり、何やら議論を交わして盛り上がっていた。
 それは扉越しでも伝わってきており、迎えに来た城の使いも思わず二の足を踏んでいた。

「ここまでアツく語るベルギウス様は初めてだ」
「いつもは王国議会でさえ適当に流しているのに」

 それはそれでどうなのかとも思うが、たしかにあのベルギウスがここまで真剣に何かを語るというのは初めてだった。

 
 ――その後、話を終えたベルギウスは部屋から出てきた瞬間に確保され、城へと強制連行されていった。

「いやいや、実に有意義な時間を過ごせたよ」

 と、去り際に語っていたベルギウスであったが、その様は強制連行されていく容疑者のようだった。

「……本当にあの人が国王候補筆頭なのか?」
「そのはずですが……」

 本気の時とそうでない時の温度差が激しいベルギウスであった。

 ベルギウスが連行されてからおよそ5分後。

 今度は部屋からライアンが出てきた。
 その様子は――ベルギウスとは対照的にどこか憔悴しているような、ともかく疲れ切ったという印象を受ける。
 つまり、

「ら、ライアン……?」
「ベルギウス様に何か言われましたか?」

 優志とリウィル、そして仕事終わりの美弦とアルベロス――3人と1匹は疲れ切ったライアンへと駆け寄った。

「と、とりあえず、これ飲んでください!」

 美弦が差し出したコーヒー牛乳を、ライアンは無言のまま受け取って一気に飲み干した。

「ふぅ……」

 ひと息をつくと、フラフラとした足取りのまますでに客足が途絶えた浴場へと向かって歩き出した。

「ら、ライアンく――」

 リウィルが呼び止めようとするが、優志はそっと手を差し出してそれを制止する。それからアイコンタクトで「俺に任せろ」と告げてライアンのあとを追った。

 ベルギウスに言われたことがきっかけでああなったおのは違いない。
 果たしてそれはいいことだったのか悪いことだったのか。

 真相を知るために、優志はライアンの入って行った男湯へと足を踏み入れる。

「ライアン」

 優志の呼びかけに、ライアンは反応を示さない。
 ただジッと、完成途中の絵を眺めている。

 しばらくの沈黙が流れてから、

「ベルギウス様が提案してくれました」

 ライアンはゆっくりと語り始める。

「1週間後――美術品の修繕や保全を目的に国内全土を巡る遠征団が王都を発つそうです」
「遠征団……」
「その遠征団の責任者である画家は……僕の憧れの存在なんです。雲の上の人というか、もう神に近いんです」
「ライアン……」

 ライアンの言葉に熱がこもり始めていることを優志は感じ取った。
 だから、なんとなくベルギウスがライアンへ送った言葉が読めた。

「誘われたんだな、その遠征に」
「! は、はい、その通りです。ベルギウス様が店に飾ってあった絵をご覧になられて、『これほどの腕を持っているならその人へ紹介をする』と仰ってくださって」

 優志の予想はドンピシャだった。
 ただ、ライアンが気にしているのは完成途中の絵についてだろう。
 
 迷うライアンに、優志は、

「行ってこいよ」
「え?」
「絵の方はこのままとっておくから、行って来い。せっかく画家としての実力を見出されて遠征団入りを要請されたんだ。行かない手はないだろ?」
「そ、そうなんですけど……」
「絵はこのまま取っておくからさ」

 そう言って、優志はライアンの肩を優しく叩く。
 いつかまた、この店に戻って来た時に続きを描けばいい――優志はその気持ちをライアンへ伝えたが、

「……いいえ」

 ライアンは首を横へと振った。

「この絵はあと1週間で完成させます。幸い、すでに下書きはほぼ終わっていますので、残りは色を塗るだけ――完成できます」
「慌てなくてもいいぞ?」
「いえ、必ず完成させます。この絵は……僕と、ユージさんをはじめこの店でお世話になった方々への恩返しの形です!」

 ライアンにとって、この絵はこれまで描いて来たどの絵よりもずっと特別なものだった。ダンジョンで死にかけた自分を助け、遠征団への誘いを受けるようになったのも、この店がきっかけになっている。

 優志。
 リウィル。
 美弦。
 ダズ。
 エミリー。

 多くの人たちとの関わりを経て、巡って来たチャンス――それに対し、少しでも形ある物でお返しをしたいというのが偽らざるライアンの本心であった。

「ユージさん、僕はこの絵を必ず完成させます。完成させて、遠征団に加わりたいと思っています!」
「そうか――わかった。そこまで言うならあとは君に任せるよ」
「ありがとうございます!」

 ライアンの熱意はまた、優志にも大きな影響を与えていた。

「俺も負けちゃいられないな。国王陛下の浴室造り――気合を入れていかないと!」


 若者から活力をもらった優志。
 いよいよ本格的にフィルス国王専用浴場の建設に取り掛かる。
しおりを挟む
感想 188

あなたにおすすめの小説

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...