異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした

鈴木竜一

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第34話  宴会と贈り物

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 魔人退治を終えた優志たちはダンジョンの外で待っていたリウィルと合流し、一旦フォーブの街へと向かう。
その際、退治が成功したことを知った他の冒険者たちに大歓声をもって迎えられることになった。

「是非とも今日は奢らせてくれ!」

 廃業も考えていた冒険者たちにとって優志たちはまさに英雄そのもの。
 奢りというのは、彼らなりの感謝表現なのだろう。

 優志たちはその申し出を受けつつ、町長へ戦果報告に向かう。

「魔人を倒したのか!?」

 昨日、ダンジョン内に魔人が現れたことを知った町長は王国騎士団へ正式に討伐要請を出すつもりだったらしい。
もっとも、魔王討伐に全精力を注いでいる最中の王国騎士団が、ダンジョンの魔人討伐へ騎士を派遣する可能性は限りなくゼロに近いと踏んでいた。そのため、優志たちが魔人を倒したという報告に思わず安堵のため息が出た。

 恐らく、ダズのパーティーのみであったら成し得なかったことだろう。

 優志、美弦、エミリーという新戦力の3人がうまく機能し、討伐成功へと導いたのだ。
 それは町長も重々承知していた。

「君らの活躍があったからこそ魔人を倒すことができた。礼を言うぞ。もちろん、ダズたちの功績も含めて、な」

 町長から直々に礼を言われたパーティーの面々は照れ笑いを浮かべながら改めてお互いの健闘を称え合った。


 それから――夜が来ると、


「よくやってくれた! 英雄たちよ!」

 フォーブの街をあげて盛大な祝賀パーティーが行われた。

 魔人出現の一報はフォーブの街をあっという間に駆け抜け、街の人々を絶望の淵へと叩き込んだ。魔人がうろつくダンジョンなど、リスクが大き過ぎて誰も立ち寄らなくなる。目立った産業などなく、冒険者たちの冒険を支えることで経済が成り立っているフォーブの街からすればこれ以上ない痛手だ。

 しかし、その脅威はたった数人の冒険者パーティーによって取り払われた。

 時獄から一気に解放された気分に浸る人々は次々に優志たちを「真の英雄だ!」と称賛を送った。

「ははは、悪い気はしないな!」

 酒がいっぱいに注がれた木製のジョッキを片手に、ダズは高らかに吠えた。健康志向でアルコールは控えている優志も、今日ばかりは飲みたい気分だったため、豪快に飲み干した。お酒が飲めない美弦と優志から禁酒を言い渡されているリウィルはジュースでこの宴会を存分に楽しんでいた。

 街の人々と一緒に夜が更けるまで騒ぎ続けていた優志だが、ダズと町長に呼ばれて一度その場をあとにする。

 連れてこられたのは町長の家だった。

 そこでダズから、

「これをおまえに」

 部屋の真ん中に設えられたテーブルに、大きな麻袋を置いた。

「これは?」
「報酬と思ってくれ。こいつがあればおまえの商売もやりやすくなるんだろ?」
「え?」
「さあ、開けて中を見てみろ。きっと驚くぞ」

 ダズの言葉で、優志は麻袋の中身に大体の見当がつく。
 確認するため中を見てみると――そこには赤く輝くヒートの魔鉱石があった。

「これは……ヒート!?」
「そうだ」
「で、でも、どうして!?」
「君の――いや、君たちの働きを考えたらそれえも安いくらいさ」
「だから……こいつも受け取ってくれ」

 ドサっと重量感ある音を立ててテーブルに放り投げられたもうひとつの麻袋。
 その中身は――ヒートとは違い、青く輝く魔鉱石だった。

「そいつは魔鉱石《アクア》……ヒートに匹敵するレア物だ」
「アクア……」
「効果はシンプルだ。そいつがあれが水が溢れ出て来る――改装工事の手間もだいぶ省けるんじゃないか?」

 たしかに、水が湧き出るという魔鉱石アクアとヒートを組み合わせれば温泉つくりは大きく前進する。アクアから出る水を優志のスキルで回復水に変換することができれば、鬼に金棒状態だ。
 ただ、

「ヒートもアクアもかなり高価な代物のはず……本当にいただいても?」
「これは感謝の印なんだ。ワシだけでなく、街に住む全員からのだ。是非とも受け取ってもらいたい」

 町長からそんな言葉をかけられたら、断らないわけにはいかない。
 優志としても、ヒートだけでなくアクアというレア物が同時に手に入るというのは大変ありがたいことだ。

「では……ありがたく頂戴します」

 ふたつの麻袋を手に、優志はダズと町長に深々と頭を下げた。
 ――だが、優志への礼はそれだけで終わらない。

「おまえの店の改装工事だが、明日からまた再開していくからよ」
「あ、ありがとうございます」
「今回はかなり人手が増えるぞ。なんたって街の危機を救った英雄が経営する店の開店準備を手伝えるってことで志願者が殺到しているんだ」

 あのお祭り騒ぎの中で、ダズはちゃっかり優志の店の改装工事を行うための人員確保をすべく勧誘活動を繰り広げていた。それは元営業マンである優志顔負けのしたたかさであった。

「さすがだな、ダズ」
「よせやい。褒めたって何も出ねぇぞ」

 ダンジョンの危機が去ったことで、優志は改めて店の開店に向けて集中できる。

 その第一弾である温泉については目途が立った。
 
「この調子なら……アレにも挑戦できそうだな」

 優志の言うアレとは、温泉と並んで優志が密かに実現したいと思っていた物。
 アクアの魔鉱石が手に入ったことで、そちらの完成も現実味を帯びてきた。

「どうやら……まだまだ面白いアイディアを隠し持っているみたいだな」

 麻袋を握り締める優志の活気に満ちた表情を見たダズが言う。
 対して、優志は「楽しみにしていてください」と含みを持たせた言い方で返す。


 アクアとヒートの魔鉱石を使い、優志が完成を目指すアレとは一体何なのか。
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