異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした

鈴木竜一

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第32話  出発!魔人退治!

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 魔人を倒すには魔王討伐のために召喚された勇者の持つスキルが必要である――そう考えた優志は、美弦の召喚獣を戦線に投入してみてはと提案した。

「私の召喚獣を……」

 美弦はアルベロスを一瞥した後、


「なら……あの子を呼びます」

 
 決意に溢れた瞳で、美弦は告げた。


 
 翌日。

 魔人退治のため、ダズとエミリーを含む特別編成のパーティーは闘志を漲らせていた。
 そのパーティーの中には――優志と美弦の姿もあった。

 回復係としての優志。
 そして、攻撃のメインとしてアルベロスを連れた美弦。

 ただ、美弦についてはあともう1匹、強力な召喚獣を待機させている。
 美弦曰く、その召喚獣は魔人にも匹敵する巨体のため、ダンジョンの外で召喚してしまうと入れないらしい。なので、ダンジョン内にある広いスペースでスキルを発動させ、その召喚獣を呼び寄せると言う。

「いいか! 今日の戦いにこのダンジョンを拠点とする冒険者たちの未来がかかっているのだからな!」
「「「「おおう!!!」」」」

 選抜されたメンバーは気合十分。
 優志も可能な限りスキルを駆使して生み出した回復水を持ち、彼らの援護に回る準備をバッチリ整えている。
 問題は今回の魔人退治の要――美弦だ。

「大丈夫か、美弦ちゃん」
「平気です」

 短く答えた美弦。
 気負いは感じられなかった。

「私……ここが気に入っているんです」

 深呼吸を挟んでから、美弦が話し始める。

「勇者召喚された時は……前にいた世界よりずっとマシだって思っていましたけど、実際にモンスターと戦ってみたら凄く怖くて……だけど、今は違います」

 美弦が真っ直ぐに見つめる先――そこには、これからの戦いに向けて円陣を組み、勝利への雄叫びとばかりに空へ向かって吠えるダズたちの姿があった。

「私は今のこの生活がとても好きなんです。優志さんやリウィルさんと一緒にお店をやって冒険者の人たちを癒す――あの魔人がそれを阻むというなら勇気を出して立ち向かいたいと思います」
「美弦ちゃん……」

 そこに、あの弱々しかった美弦の姿はなかった。

 外見にこそ変化はないが、その心内はダズやエミリーにも負けない立派な戦士としての成長を遂げていた。

「俺も負けていられないな」

 美弦の変化は優志にも好影響を与えた。
 10代の若者が闘志を燃やしているというのに、30越えた自分が魔人に怯えていてどうする。ここは大人としての意地を見せなくては。
 静かに気を引き締めた優志の肩をポンと叩く者がいた――ダズだ。

「ユージ、おまえの回復スキルも頼りにしているぜ」

 晴れやかな笑顔で、ダズは優志に語りかける。まるで「肩の力を抜けよ」とアドバイスをしているかのように。

「ああ――誰ひとりとして死なせるつもりはないから安心してくれ」

 それが優志にできる唯一にして最大のサポート――優志はここに全精力を注ぎ込むことを誓った。


 ◇◇◇


 魔人退治はこの界隈でナンバーワンの力を持つダズのパーティーが主になって行うことになった。

 戦闘で足手まといになると参加を控えた冒険者たちは、自分たちが持つ武器や防具などを惜しげもなくダズたちに提供した。商売の脅威になる存在が潜んでいるとはいえ、自分たちの実力ではどうしようもないと理解し、力のあるダズたちに任せる格好だ。

「無駄に命を散らす必要はない。やれるヤツがやればいいんだ」

 ダズはそう語り、提供された武器や防具の中から最適な物を選出して装備。中にはかなりのレア物もあったそうだ。

 一方、武器や防具の使い方などサッパリな優志はダズに一任。

 回復係とはいえ、手ぶらというのはさすがにまずいという配慮から、派手な装飾が施された短剣を渡される。テーマパークで売られているお土産品みたいな造形をしているが、れっきとした本物の剣――優志は身震いをする思いだった。

 現代日本でなら銃刀法違反でお縄になるサイズなのだが、こちらでは生きていくために必要不可欠な生活必需品と言っても過言ではない。

 改めて、自分がこれまで培ってきた常識が通用しない世界に来たのだという現実をまざまざと見せつけられた優志であった。

「支度は整ったな――行くぜ」

 ダズの一声で、新たに編成された総勢11名の冒険者たちがダンジョンへと足を踏み入れていく。 

「気をつけてくださいね!」

 リウィルからの言葉を背に受けた優志と美弦も、ダズやエミリーをダンジョンへと入る。
 相変わらず薄暗く、どこかジメジメとした感じのダンジョン内。
 歩き始めると、すぐに天井が一気に高くなる。
 
 ここは昨日の死闘の場。

 間一髪のところでアルベロスがダズを救出したあの空間だ。

「まだこの辺りをうろついているかもしれんぞ」

 ダズが仲間に注意を促す。
 だが、張りつめた空気を嘲笑うかのように、ダンジョン内は静まり返っていた。

「どうやらここにはいないようだな」

 言葉では安心した様子のダズだが、その気配は一切の油断を遮断しているがごとく眼光が鋭い。いつどこで魔人が襲いかかってくるかわからないという緊張感が伝わる。


 周辺に気を配りながらさらに奥へ進む。
 奥へ進むほどに、どんどんと天井は高くなり、横の空間も広まっていく。
 やがて、地上と変わらないほどの広大な空間へとたどり着き、そこで、

「! いたぞ!」

 魔人を発見。
 あぐらをかいて地面に座り、何かを貪り食っているようだが、

「! あの野郎――魔鉱石を食っていやがる!」

 衝撃の光景だった。
 魔人はまるでスナック菓子でも食べるかのような気軽さで、手当たり次第に魔鉱石を手にしては口に運んでいた。

「冗談じゃねぇ! 俺たちの飯の種になんてことしやがる!」
「行きましょう、リーダー!」
「そうだな。――よし、全員敵めがけて突っ込め! ありったけの武器と魔法をヤツにぶつけるんだ!」

 ダズを先頭にしてパーティーの面々は食事中の魔人へ襲いかかる。
 そんな彼らを見送った優志と美弦。
 
「美弦ちゃん!」
「はい!」

 優志からの合図を受けて、美弦はスキルを発動させる。

 召喚術。

 この世界でも希少で知られるそのスキルは、アルベロスのように忠実な召喚獣を呼び出すことができる。
 常にお供として連れているアルベロス以外の召喚獣――魔人退治の鍵となるその召喚獣を呼び出すための儀式が始まろうとしていた。

「いきます……」

 意識を集中させるために瞑目する美弦。
 やがて、美弦の足元は青白く発光し、理解不能な謎の言語が円形に浮かび上がる。それはまるで魔法陣のようであった。

 その魔法陣から放たれる青白い光は、やがて意思を持った生物のようにうねり出すと、ぐにぐにと形を変化させて――1匹の生物の姿となる。

「あれは……」

 美弦の呼び出した召喚獣は――
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