異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした

鈴木竜一

文字の大きさ
上 下
30 / 168

第30話  ダンジョンを駆け抜けろ!

しおりを挟む
「あいつがダンジョンを荒らしている犯人か!?」

 出口まであと少しというところで優志たちの進行を阻んだのが――すべての元凶を呼んだ新手のモンスターだった。
 その形容しがたい外見――あえて言葉を選ぶとするなら「異様」だろうか。

 ダイヤモンドウルフ。
 フレイムコング。

 これまで戦ってきたモンスターは、いずれも優志のいた世界にも存在していた生物がベースになっていたが、目の前にいるこいつは違う。

 あえて似た生物を挙げるとするなら、
 

「……人間?」


 力なく呟いたのはエミリーだった。
 
「ああ……人間――だよな?」

 先ほど戦ったフレイムコングよりさらに一回り以上大きな巨体。筋骨隆々とした肉体は毒々しい紫色をしており、瞳の色は呑み込まれそうな漆黒。

「なんなんだ、こいつは!? こんなモンスター、今までに見たことがないぞ!?」

 エミリーが叫ぶ。
 数多くのパーティーに属し、さまざまなダンジョンで経験を積んできたエミリーでさえ初めて見るモンスターであった。そのため、どう攻撃をしたらいいのかわからず、エミリーの動きは完全に止まった。

「ど、どうする!?」

 優志はダズへと判断を仰ぐ。

「とにかく一度撤退する。ユージたちは俺の後ろへ回れ!」

 ダズの指示に従い、優志とエミリーは急いでダズの背後へと移動。それに合わせてモンスターも動きを開始したが、動作はそれほど速くはなく、優志たちが移動を終えてもまだ攻撃を仕掛けてはこなかった。

「よし! そのまま出口へ向かって走れ!」

 叫び終えると、ダズは胸元に忍ばせていた黒い球形の物体をモンスターに向かって放り投げた。それがモンスターの大きな体に触れた直後――ボフン、と白い煙がモンスターの周囲を包み込んだ。

「煙幕弾だったのか」

 まずは体勢を整えるため、この場を離脱することを優先させようとするダズ。その作戦は功を奏し、煙に包まれたモンスターは完全に優志たちを見失っている。

「今のうちだ!」

 煙幕弾を放り投げていた分、逃げ出す一歩目が遅れたダズ――その遅れがまずかった。

「ぐおっ!?」

 前を走る優志たちの耳に、ダズの声が届く。
 振り返ると、白煙を斬り裂くように伸びたモンスターの紫色をした手が、ダズの体を鷲掴みにしていた。

「ダズ!!」
「「「リーダー!!!」」」
「俺に構うな! 早く行け!」
 
 声を頼りに優志たちを探しているのか、煙幕からその体が徐々に抜け出してきている。このままここへ留まっていると他のメンバーも危険に晒される。全滅だけは避けたいというダズの悲痛な願いであった。

 走り続ける優志たちだが、

「ぐああああああっ!!!!!」

 強靭な握力によって体が締め付けられる痛みに、ダズはたまらず悲鳴をあげる。
 そんな悲鳴を耳にして――ダズを見捨てるわけにはいかない。

 優志にはあのモンスターに致命の一撃を与えられる強力な魔法も剣術もない。
 それでも――


「…………」


 気がつくと、必死に動かしていた足は止まっていた。

「ユージ殿!?」

 突然停止した優志を心配してエミリーも止まった――それとほぼ同時のタイミングで、エミリーの脇を猛スピードで駆け抜けていく影が。

「な、なんだ!?」

 颯爽と現れた謎の影はあっという間に優志も抜き去り、ダズを掴んでいるモンスターの手へと飛びかかった。

「ゴアアアッ!?」

 不意の一撃を食らい、モンスターはダズを握っていた手を放した。かなりの高さから落ちたが無事なようで、すぐに立ち上がって優志たちの方へ駆けだした。
 
 ダズの窮地を救った影の正体は、

「あれは……アルベロス!」
 
 召喚術のスキルを持つ美弦が呼び出した三つ目の魔犬アルベロスだった。

「グルル……」

 牙を剥き出しにして巨体のモンスターにも怯むことなく威嚇するアルベロス。ただ、アルベロスがここにいるということは、主である美弦もこの近くにいるということになるが、


「今のうちに逃げてください!」


 優志の予感は的中した。
 
 光が差し込むダンジョンの出口付近から、美弦が叫ぶ声が聞こえる。
 どうやら助けに来てくれたようだ。

「あれはミツルの召喚獣か!?」
「そうだ。頼りになる助っ人が来てくれたぞ」
 
 改装工事でアルベロスを知っているパーティーのメンバーはすぐに味方の増援が来たと理解して勢いを取り戻す。

「リーダーを守るんだ!」
「デカいとは言ってもスピードはそれほどじゃねぇ! 落ち着いて立ち回れば今の装備でも戦えるはずだ!」
「攻撃魔法を使えるヤツは目を狙え! かく乱させるんだ!」

 それまで、敵の巨体に怯んでいたパーティーの面々は完全に息を吹き返し、立ち向かっていった。

 優志とエミリーは逃げ出せたもののダメージのせいか足元がふらつくダズの肩を支え、3人4脚のような形となって出口を目指す。

 外の光がもう手の届く距離にまで近づくと、そこに2つの人影が見えた。

「ユージさん!」
「あとちょっとですよ!」

 影のひとつは美弦で、その横にはリウィルの姿もあった。
 優志とエミリーは最後の力を振り絞って飛び込むように外へと出た。
 続いて、パーティーのメンバーが出口に辿り着き、間もなくアルベロスも出てきた。
 
「助かったか……」

 ぜぇぜぇと荒く息を吐く優志。
 運動不足の元サラリーマンには体力的にもかなりキツイものがあった。
 
「冒険者っていうのは……こんな大変なことを毎日やっているのか……」

 とても自分には向かない仕事だ。
 それを痛感した初ダンジョンであった。

 汗だくになっている優志のもとへ、リウィルと美弦が駆け寄って来る。

「大丈夫ですか!?」
「怪我はありませんか!?」
「問題ないよ。――ていうか、どうしてふたりがここに?」
「お店の手入れをしていたら大勢の冒険者たちが血相を変えてフォーブの街へ向かって行ったので何かあったんじゃないかと」
「それでこっちへ来てみたらなんだか凄いモンスターが暴れていると聞いたので、アルベロスを応援に向かわせたんです」
「そうだったのか……ともかく助かったよ」

 最後のアルベロスの一撃がなかったら、ダズを助けることはできなかっただろう。

「ミツル、君のおかげだったのか!」

 美弦の姿を発見したダズたちがお礼を告げにやって来た。
 さらに、ダズたちの生還を知った多くの冒険者たちがその場に集まって来た。

 皆が喜び合っている中、優志は今さっき飛び出して来たダンジョンへ目を向ける。
 そう。
 まだ問題は何も解決していない。

 正体不明の新種モンスターはまだあのダンジョンの中にいる。
 それは、このダンジョンで魔鉱石採掘を生業としている冒険者たちにとって死活問題となるだろう。

「なんとかしないとな」

 誰にも聞こえないくらいの小さな声で、優志はダンジョンに生まれた問題に眉をひそめるのだった。
しおりを挟む
感想 188

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...