上 下
23 / 168

第23話  温泉に入ろう!

しおりを挟む
 丸一日をかけてなんとか形となった湯船。
 魔鉱石の効果ですでにきっちり固まっており、いつでも湯を張れる状態になっている。

「それじゃあ早速みなさんに入ってもらいましょう」
「おう!」

 本来は湯船の底にヒートの魔鉱石を仕掛けておく構造になっているが、まだ入手できていないので普通に火を起こしてそれを湯船の中へ入れる。
 これだけでもかなりの労力を要するので、可能な限り早くヒートの魔鉱石を手に入れなければと、お湯を用意して疲れ果てた優志は思うのだった。

 優志が苦労して用意した湯を張り、そこに手を入れる。
《癒しの極意》のスキルが発動したことにより、湯船の中のお湯は黄金色に輝き始めた。

「「「「「おおお!!!」」」」」

 歓声をあげる男たち。
 
 もしこれが成功したら、ただのお湯を効能付きの回復湯として大々的に宣伝ができる。それだけでなく、普通の水を回復水として売ることだって可能だ。
 商売のビジョンは無限に広がっていく。
 ――しかし、それを証明するためには目の前にいるマッチョマンたちの疲れを癒すことが重要だ。

「さあ、入ってみてくれ」

 優志がお湯へ浸かるよう願い出る。

 ちなみに、彼らの格好は全裸だ。

 リウィルと美弦のふたりには悪いが退場してもらった。今は宿屋の外で待機している。

「よし、俺から行こう」

 まず名乗りをあげたのはパーティーのリーダーであり、改装の現場を仕切ってくれたダズだった。

「あ、湯船に入る前に、まずは湯で軽く体を洗い流してくれ」
「体を? なぜだ?」
「俺のいた国ではそれがマナーなんだ。ここにはひとりで入るわけじゃなく、いろんな人が利用する公共の場だからね」
「なるほど。他者への配慮というわけか」
「そういうこと。ほら、こいつを使うといい」

 優志がダズへ渡したのは桶だった。
 もちろん、この世界に桶なんてものは存在しないため、街でそれっぽい形の入れ物を見つけてきて少し手を加えたものである。

「おお! これなら湯を掬いやすいな!」

 ダズは早速桶を使って体に湯をかける。
 そして、いよいよ湯船へと足を踏み入れた。

「そのままゆっくりと腰を落として肩まで湯に浸かるんだ」
「どれどれ……」

 優志の指示通りにダズは腰を落とし、肩までしっかりと湯に浸した。

「ん~? んおお!?」

 最初は湯に体を浸けるという未知の体験にわずかながら戸惑いの色をのぞかせていたダズであったが、体がその感覚と熱に慣れると徐々に顔が綻んでいった。
 手応えとしては上々と捉えてよさそうだ。

「どうだい、ダズ」
「こいつは……正直予想以上だぜぇ……」

 呆けた声色のダズに、パーティーの面々は顔を見合わせながらそれぞれが驚きのリアクションを取っていた。ダンジョンでモンスターと対峙する凛々しくも荒々しい冒険者のお手本のようなダズが、まるで無邪気な子どものように顔中を弛緩させているのだから無理もない話ではある。

「おまえらも入ってみろよ」
「で、では」

 ダズに誘われて次に入ったのは眼帯をつけたスキンヘッドの偉丈夫。彼もまたダズと同じ手順を辿って湯に浸かると、

「お、おぉ~……」

 気持ちの良さが伝わる息づかい。
 それに触発されて、残ったメンバーも次々に湯船へと入っていく。ダズの指示でここまで手伝って来た彼らであったが、その心の奥底では優志のスキルと癒し効果があるという風呂の存在に半信半疑だった。しかし、そんな疑念はとっくに瓦解し、今や我先にと勇んで湯船の中へと身を投じていく。

それと、これだけの大男が数人入っても、まだまだスペースには余裕がある。これならば相当な人数が入りそうだ。

「想像以上だな、こいつは」
「ああ。体の疲れが取れていくのがわかるよ」
「俺なんて膝の古傷の痛みまで飛んじまったぜ!」

 男たちは口々に優志のお手製温泉を絶賛した。

 そんな様子を見ながら、優志はスキルによる効能を分析していた。
 その結果、少なくとも筋肉痛、関節痛、切り傷、火傷――こういった辺りに絶大な効果をもたらすことが発覚する。それ以外にも、詳しい調査が必要だが、たとえば神経痛や打ち身などにも効果があるかもしれない。
 
「ユージ! こいつは間違いなく大ヒットするぜ!」
「お墨付きがもらえてよかったよ」
「しかし、裸でうろつくっていうのがなぁ……男はいいが、女は抵抗があるんじゃないか?」
「もちろん、風呂場は男女でわけるつもりさ」
「だよなぁ……てことは、他にも風呂を作らなくちゃいけないってわけか」
「そのつもりだよ」

 覗きなどの対策を考慮して、できれば男湯と離れた位置に作りたいと考えていた。この世界において、その辺の道徳的な判断がどこまでできるのか不透明だったためだ。もちろん、ダズたちのような善良な冒険者が多いのだろうが。

「おまえのスキルがあるとはいえ、湯に浸かるという行為がここまで気持ちのいいものだとは思わなかったな」
「俺たちの国の文化を気に入ってもらえてうれしいよ。しっかり休んでいてくれ。俺は外にいるリウィルたちに報告をしてくる」
「お~う」

 すっかり腑抜けた声で優志を送り出したダズ。
 そんな姿にも温泉の効果を感じつつ、外にいるふたりへ上々の結果を知らせた。

「やりましたね!」
「これでいつでもオープンできますね!」
 
 ふたりとも大いに喜んでくれたが、

「そんなにいいのなら……私も入ってみたいですね」
「あ、私も入ってみたいです!」

 ふたりからも入浴のリクエストがあった。

「じゃあ、ダズたちのあとで入ってみるか?」
「是非!」
「お願いします!」

 すっかり大人気となった優志温泉。


 初の温泉披露会は優志の想定以上に大好評を得る結果に終わったのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

なんとなく歩いてたらダンジョンらしき場所に居た俺の話

TB
ファンタジー
岩崎理(いわさきおさむ)40歳バツ2派遣社員。とっても巻き込まれ体質な主人公のチーレムストーリーです。

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...