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第12話 ダズとの再会
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「なんだよ、リウィルまで連れて俺に会いに来てくれたのか?」
冗談っぽく言って、人懐っこい笑みを浮かべるダズ。
「ダズ。――そうだ」
ダズは冒険者――つまり、ダンジョンに潜って魔鉱石を採掘する専門家である。そんなダズなら、ヒートを所有しているかもしれない。
「買い取り屋へ来たってことは……まさかダンジョンに潜るつもりか?」
「いや、実は手に入れたい魔鉱石があって」
「ほう。なんだよ、そりゃ。物によっちゃ譲ってもいいぞ。おまえには命を救われたわけだからな。言ってみてくれ」
「俺たちが探しているのはヒートって魔鉱石なんだ」
「ヒート……」
途端に、ダズの表情が曇った。
「すまねぇ……今うちの手元にヒートはないんだ」
シュンとなって頭を下げたダズ。さすがに、数ある魔鉱石の中でも買い取り屋でトップクラスの買い取り額を誇るだけあり、そう易々とは入手できない代物らしい。
「そうか。まあ、かなりレアな物らしいからな。気にしないでくれ」
「他に必要な魔鉱石はないか?」
「いや、まだ特に何が欲しいとかは――あ」
何かを思いついた優志は、別の提案をする。
「だったら、空き家とかの物件を紹介してくれる店を教えてくれないか?」
「空き家? この街に住む気か?」
「ここで商売をしようと思ってね」
優志の言葉に、ダズは納得したのか深々と頷いた。
「なるほど……おまえが俺の傷を癒してくれたあの不思議なスキルがあれば、十分に客から金を取れる。ダンジョンなんて常に怪我人だらけだし、いい着眼点だと思う――よし、良い人物を紹介しよう」
ダズを頼もしくドンと胸を叩いた。
優志とリウィルはその力強さを信頼し、ダズが紹介してくれるという人物のもとへ向かうため買い取り屋をあとにした。
◇◇◇
「ここがその人物のいるところだぜ」
ダズに案内されたのは街外れにある洋館だった。
「誰がいるんだ?」
「このフォーブの町長さ」
「「町長?」」
優志とリウィルは顔を見合わせる。
「店を出すっていうならまずは町長から許可をもらわないとな。話はそれからだ。町長に気に入られれば空き店舗の紹介もしてくれるはずだからな」
たしかに、商売をするとなったら街を統括する者――それこそ、町長クラスの人物に了承を得る必要がある。無許可で商売を初めた結果、揉めてしまえば不利になるのはどう考えてもこちら側だ。
「フォーブの町長ってどんな人なんだ?」
「私は知りませんが……」
「気さくな爺さんだよ。そう身構えなくていいさ」
ダズはそう言うが、いかにも金持ちの住まいという感じが漂う洋館を前にすると、小市民である優志は緊張の色が隠せない。一方、リウィルはというと、元神官として王に長らく仕えてきた経験からか、特に緊張した様子はない。
「さあて、留守じゃなきゃいいんだが」
今にもメイドが飛び出してきそうな重厚なドアをドンドンと割と強めにダズが叩くと、
「入れ」
男性の声が返って来た。
「ツイてるな。ダンジョン絡みの案件で出かけることが多いんだが、今日はいるみたいだ――入るぜ、町長」
ダズに続いて洋館内へと入る優志とリウィル。
3人を待ち構えていたのは初老の男性だった。
「なんだ、ダズ。おまえさんはとっくにくたばったって話を聞いたが?」
「なんの因果かまだこうして生きているんだな。でよ、今日は町長に会いてぇってヤツらを連れてきたんだ」
「ワシに会いたい?」
キッと細められた瞳が、優志とリウィルを射抜く。その迫力に、思わずふたりの背筋がピンと伸びた。
「見かけねぇ顔だな。新入りか?」
「あ、あの、実は――」
優志は自分が勇者召喚に巻き込まれたことからここまでの顛末を町長に話して聞かせた。それから、このフォーブの街で商売をしたいという旨を伝える。
「異世界人か……」
話を聞き終えた町長の反応は――微妙なものだった。ただ、頭ごなしに拒否されるよりかはずっとマシだとも言えた。
「あの、それで……どうでしょうか。何か物件を紹介してもらえないでしょうか」
「おまえさんがどんな商売をしようとしているか――それを話してもらえんか」
町長はそう求めた。
ビジネスに対する将来的なビジョンを見極めるためだろうか。ダズは賛成してくれたが、このフォーブを誰よりも知り尽くす町長が売れる見込みなしと判断したら、ここで店を開くことはできない。
ようはプレゼンだ。
サラリーマン時代の経験を生かし、優志は的確でわかりやすい自身の描くビジネスプランを町長にプレゼンした。
ツールとしてパワポなどがあればもっとやりやすいのだが、さすがにそんな環境はないので純粋なトーク力勝負となる。
「回復系スキルを利用した回復特化の店か……」
「回復と言ってもその意味は多様です。肉体だけでなく、長い戦いの連続で疲弊した精神も同時に癒せる――冒険者に活力が戻れば魔鉱石の採掘量も増える。それはこの街にとっても大きな利益になると考えます」
「一理あるな」
感触は上々だった。
マッサージなどの似たような商売を宿屋が取り入れているという情報もあるようだが、優志のようにスキルを活用したものはないようだ。
そうした珍しさもあってか、
「いいだろう。いくつか空いている場所を用意する。悪いが、今日はこれから用事があって家を空けるから、明日の午前中に改めて訪ねて来てくれるか?」
「! はい!」
「やりましたね、ユージさん!」
「ああ」
交渉成立を祝って、優志とリウィルは自然と固い握手を交わしていた。
冗談っぽく言って、人懐っこい笑みを浮かべるダズ。
「ダズ。――そうだ」
ダズは冒険者――つまり、ダンジョンに潜って魔鉱石を採掘する専門家である。そんなダズなら、ヒートを所有しているかもしれない。
「買い取り屋へ来たってことは……まさかダンジョンに潜るつもりか?」
「いや、実は手に入れたい魔鉱石があって」
「ほう。なんだよ、そりゃ。物によっちゃ譲ってもいいぞ。おまえには命を救われたわけだからな。言ってみてくれ」
「俺たちが探しているのはヒートって魔鉱石なんだ」
「ヒート……」
途端に、ダズの表情が曇った。
「すまねぇ……今うちの手元にヒートはないんだ」
シュンとなって頭を下げたダズ。さすがに、数ある魔鉱石の中でも買い取り屋でトップクラスの買い取り額を誇るだけあり、そう易々とは入手できない代物らしい。
「そうか。まあ、かなりレアな物らしいからな。気にしないでくれ」
「他に必要な魔鉱石はないか?」
「いや、まだ特に何が欲しいとかは――あ」
何かを思いついた優志は、別の提案をする。
「だったら、空き家とかの物件を紹介してくれる店を教えてくれないか?」
「空き家? この街に住む気か?」
「ここで商売をしようと思ってね」
優志の言葉に、ダズは納得したのか深々と頷いた。
「なるほど……おまえが俺の傷を癒してくれたあの不思議なスキルがあれば、十分に客から金を取れる。ダンジョンなんて常に怪我人だらけだし、いい着眼点だと思う――よし、良い人物を紹介しよう」
ダズを頼もしくドンと胸を叩いた。
優志とリウィルはその力強さを信頼し、ダズが紹介してくれるという人物のもとへ向かうため買い取り屋をあとにした。
◇◇◇
「ここがその人物のいるところだぜ」
ダズに案内されたのは街外れにある洋館だった。
「誰がいるんだ?」
「このフォーブの町長さ」
「「町長?」」
優志とリウィルは顔を見合わせる。
「店を出すっていうならまずは町長から許可をもらわないとな。話はそれからだ。町長に気に入られれば空き店舗の紹介もしてくれるはずだからな」
たしかに、商売をするとなったら街を統括する者――それこそ、町長クラスの人物に了承を得る必要がある。無許可で商売を初めた結果、揉めてしまえば不利になるのはどう考えてもこちら側だ。
「フォーブの町長ってどんな人なんだ?」
「私は知りませんが……」
「気さくな爺さんだよ。そう身構えなくていいさ」
ダズはそう言うが、いかにも金持ちの住まいという感じが漂う洋館を前にすると、小市民である優志は緊張の色が隠せない。一方、リウィルはというと、元神官として王に長らく仕えてきた経験からか、特に緊張した様子はない。
「さあて、留守じゃなきゃいいんだが」
今にもメイドが飛び出してきそうな重厚なドアをドンドンと割と強めにダズが叩くと、
「入れ」
男性の声が返って来た。
「ツイてるな。ダンジョン絡みの案件で出かけることが多いんだが、今日はいるみたいだ――入るぜ、町長」
ダズに続いて洋館内へと入る優志とリウィル。
3人を待ち構えていたのは初老の男性だった。
「なんだ、ダズ。おまえさんはとっくにくたばったって話を聞いたが?」
「なんの因果かまだこうして生きているんだな。でよ、今日は町長に会いてぇってヤツらを連れてきたんだ」
「ワシに会いたい?」
キッと細められた瞳が、優志とリウィルを射抜く。その迫力に、思わずふたりの背筋がピンと伸びた。
「見かけねぇ顔だな。新入りか?」
「あ、あの、実は――」
優志は自分が勇者召喚に巻き込まれたことからここまでの顛末を町長に話して聞かせた。それから、このフォーブの街で商売をしたいという旨を伝える。
「異世界人か……」
話を聞き終えた町長の反応は――微妙なものだった。ただ、頭ごなしに拒否されるよりかはずっとマシだとも言えた。
「あの、それで……どうでしょうか。何か物件を紹介してもらえないでしょうか」
「おまえさんがどんな商売をしようとしているか――それを話してもらえんか」
町長はそう求めた。
ビジネスに対する将来的なビジョンを見極めるためだろうか。ダズは賛成してくれたが、このフォーブを誰よりも知り尽くす町長が売れる見込みなしと判断したら、ここで店を開くことはできない。
ようはプレゼンだ。
サラリーマン時代の経験を生かし、優志は的確でわかりやすい自身の描くビジネスプランを町長にプレゼンした。
ツールとしてパワポなどがあればもっとやりやすいのだが、さすがにそんな環境はないので純粋なトーク力勝負となる。
「回復系スキルを利用した回復特化の店か……」
「回復と言ってもその意味は多様です。肉体だけでなく、長い戦いの連続で疲弊した精神も同時に癒せる――冒険者に活力が戻れば魔鉱石の採掘量も増える。それはこの街にとっても大きな利益になると考えます」
「一理あるな」
感触は上々だった。
マッサージなどの似たような商売を宿屋が取り入れているという情報もあるようだが、優志のようにスキルを活用したものはないようだ。
そうした珍しさもあってか、
「いいだろう。いくつか空いている場所を用意する。悪いが、今日はこれから用事があって家を空けるから、明日の午前中に改めて訪ねて来てくれるか?」
「! はい!」
「やりましたね、ユージさん!」
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交渉成立を祝って、優志とリウィルは自然と固い握手を交わしていた。
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