異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした

鈴木竜一

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第5話  問題発生!?

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 リウィルのいるテーブルには空になったジョッキがすでに7杯。
 この世界のアルコール事情に詳しくない優志だが、さすがにあれは飲み過ぎなのではと心配になった。

 一応、リウィルは優志がこの世界に呼ばれて帰れなくなった元凶――なのだが、どう見てもやけ酒状態のリウィルを放っておくことはできなかった。
 酒で顔を赤く上気させ、目は虚ろ。
 お手本のような酩酊状態になっていた。
 服装は城で会った時のような、いかにも神官といったものではなく私服だった。優志のいた世界で言うならTシャツにフレアスカートが近いだろうか。

 そんなリウィルの背後には、群れからはぐれた子羊を狙う狼のような目つきをした数人の男たち――明らかにその眼光はリウィルに向けられていた。

「まずいな……」

 神官としてのリウィルは勇者召喚に6連続で失敗するほどのポンコツ。だが、神官という役職を外し、ひとりの女性として見るならば、そのスペックはかなり高いと評価できる。そんな美人が酒屋でひとり泣きながら酒をあおる――ヤツらからすれば、格好のカモだろう。

 このままでは危ない。
 咄嗟にそう判断した優志は、

「やあ、リウィル」

 古い友人のように振る舞って、リウィルに近づいた。
 案の定、後ろの男たちの表情が曇る。
 男連れだとわかれば無茶はしないだろう。
 仮に、男たちが強引な手に出たとしても、すぐ近くには例の宿屋がある。少々格好悪い展開だが、なりふり構っていられず助けを求めに走れる場所があるというのは心強い。だからこそ優志も堂々とした態度でリウィルに話しかけられたのだが、

「誰ですか~あなた~?」

 そんな計算をすべて台無しにするほど、リウィルは酔っていた。

「お、俺だよ。ほら、君に召喚された異世界人の――」
「? ロドリゲスさん?」
「誰!?」

 なんとか会話を成立させようとするが暖簾に腕押し。今のほわほわしたリウィルの脳みそでは優志を認識できない。
 ――ならば、もっとインパクトあるシーンを思い出させればいい。


「昼間に素っ裸で君の前に現れた宮原優志だ!」

 
 ざわっ!

 一瞬にして、店内の空気が変わった。
 思い出してもらおうという気持ちが強過ぎて、自分でも驚くくらい大きな声で爆弾発言を投下していた。
 店内にいる人間すべての耳に届いているのだから、当然、優志との距離がどの客よりも近いリウィルの耳にもしかと入っている。

「~~~~っ!!!!」

 優志の言葉が耳に届いた瞬間――連動するようにある場面がリウィルの脳内で勝手に再生される。

 サウナにいたことでタオル1枚だった優志。その優志が立ち上がると、最後の砦ある白いタオルがハラリと舞い落ちた。

 その先にある光景――これまでに出会ったことのない未知との遭遇。それを思い出してしまったリウィルの顔はさらに赤くなって、とうとう、

「きゅう……」

 目を回して倒れてしまった。
 
「ああーっと……」

 店中の視線をかき集めた優志は、

「すいません、支払いは俺が持ちますので……お騒がせしました」

 店内にいる客に謝罪をし、リウィルの飲んだ酒代を支払うと、そのリウィルを背負って宿屋へと戻った。

 残念ながら、異世界初の晩餐は明日以降にお預けとなった。


 ◇◇◇


 宿屋へ戻った優志は店主に事情を説明。
 あいにくと今日は空き部屋がもうないということだったので、優志が泊まるはずだった部屋をリウィルに譲った。その後、店主の厚意で毛布と店内で空いているイスやソファならどれでも自由に使ってよいという了承を得たので、早速食堂近くの大きなソファを使用させてもらうことにした。

 寝床を確保した優志はイスに座らせていたリウィルを再び背負い、本来なら自分が泊まるはずだった2階の部屋へと進んだ。

「ここか……」

 2階西側の角部屋。

 その部屋こそ、優志がこの異世界での活動を始める上で最初の拠点。
 室内はなんとも簡素な造りだった。
 広さはワンルームより少し広いくらいか。家具はベッド、デスク、クローゼット――トイレは1階にあったが、

「? 風呂はないのか?」

 リウィルをベッドに下ろし、店主からもらった水を飲ませてからせめて風呂くらいは利用させてもらおうと思ったのだが、部屋にはそれらしき場所がない。入口近くにもうひとつドアがあったが、その先にあった部屋は見たことのない造りのものだった。

 それなりの広さがある部屋だが、その部屋の約半分を大きな水瓶が占めていた。他の部屋は床が木製であるのに対し、ここだけ石床。それもまた謎を深めた。

「なんのための部屋だ?」

 しばらく考え込んで、

「ここが……風呂なのか?」

 その結論に至るしかなかった。
 風呂とは言うが、恐らくあの水瓶の水で体を洗い流す程度のことだろう。湯船にじっくりと肩まで浸かって1日の疲れを癒すことに至福の喜びを感じる優志にはなんとも耐えがたいシステムだ。

「共同浴場みたいなのが近くにあるといいけど……」

 願望を述べるが、昼間に王都を散策した感じではそのような施設は見当たらなかった。

「まいったなぁ」

 あまり贅沢を言える状況ではないと知りつつも、日本のお風呂が恋しくなる優志だった。
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