上 下
4 / 168

第4話  意外な好待遇?

しおりを挟む
 城を追い出された格好となった優志は途方に暮れていた。

 一応、ガレッタの命を受けた兵士が、当面の生活拠点だとある宿屋を紹介してくれた。ガレッタさんの紹介料もあるとかで、相場よりかなり格安で宿泊できるらしい。とりあえず寝床はキープできたが、問題はそれだけで解決できるほど浅くはない。

 今回の一件――勇者召喚の儀で、勇者としての条件を一切満たさぬ者を召喚するというのはイレギュラーな事態らしく、どう対応するのがベストなのか、ガレッタ自身がそれを手探りしているようだった。

「まあ……転職だと思えばいいのかな」

 と、優志は前向きに事態を捉えるようにした。
 不幸中の幸いと言うべきか、両親はすでに他界しており兄妹もいない。おまけに独身だったので妻子もない。あちらの世界から存在が消えたところで悲しむほど親しい友人もいないときている。
皮肉にも、永住承諾を得られていない状態――リウィルの失敗によって召喚する人材として優志はもっとも適している存在といってよかった。

 宿屋に着くと、兵士が店主に事情を説明。ガレッタ神官からの命とあって、すぐに部屋を用意してもらえることになった。

 部屋の準備が整うまで、優志は兵士に王都内を軽く案内してもらった。
 中世ヨーロッパ風の街並みが広がる王都。
 年間を通して温暖な気候であり、近隣諸国にとっては交易の終着点であるここには東西南北あらゆる国や都市から商人たちが訪れる。そのため、あちこちに屋台や店が立ち並び、非常に活気溢れる街というのが優志の第一印象だった。

 こちらでの仕事については職業斡旋所があるらしく、案内してくれた兵士は翌日にでもそちらを訪ねるといいとアドバイスをしてくれた。


「ついでに教えておこう。あそこにある酒屋は酒もさることながら店主が腕を振るう自慢の肉料理もうまいぞ」
「いいですね。行ってみます」

 最後に地元の人がこっそり教えるマル秘情報を与えて、兵士は御役御免だと城へと戻って行った。その去り際には「何かあったら城の兵士に俺を呼ぶように言ってくれ」とアフターフォローも欠かさないできる男ぶりを見せた。

「いい人で助かったよ」

 ここまでの待遇を見るに、向こうとしても優志を誤ってこちらに招いてしまったという罪悪感があるようだった。
 ガレッタの証言から、恐らくあのポンコツ神官リウィルが半ば強引に召喚の儀を行った挙句に優志が呼び出されたと見るのが正しいのだろう。
 しかし、リウィルとしても神官として生き残るために必死だった――そう考えると、あまり強くは責められなかった。

「……もう終わったことだ。それより、例の酒屋は楽しみだな」

 言い聞かせるように呟くことで自己完結させる。
 優志の気持ちはすでに先ほど紹介された酒屋へと向けられていた。

 健康第一主義を貫く優志だが、酒自体は好きなので適度な飲酒をストレス発散として認めている。それと、料理についても関心が高く、どれだけ忙しくても、日々の食事は健康を意識した料理&外食を心がけている。なので、この世界のプロが作る料理を味わってみたいという好奇心もあった。

「どうせ帰れないんなら満喫しとかないとな」

 仕事探しは明日にして、今日はこの世界の食生活を堪能すると決めた優志だった。


  ◇◇◇


 兵士に案内されたあと、自分でも宿屋周辺をいろいろと見て回った。
 現代生活を匂わせるものは街のどこにも見当たらず、まるでどこかのテーマパークを歩いている気分になる。
 そうこうしているうちに空はオレンジ色に染まり、人の数も徐々に減っていった。
 街頭もないようなので、暗くなるまえに宿屋へ戻ろうと帰路に就いていると、先ほど紹介された酒屋に灯りがついているのを発見する。

「お? 開店したか」

 ネオンとは違い、ほんのりとした柔らかな光に、自然と優志の足は店へと吸い込まれていった。ドアを開けて店に一歩入れるとまず視界に入って来たのは、


「やってられません!!!!!」


 ジョッキをテーブルに叩きつけるポンコツ「元」神官のリウィルだった。
しおりを挟む
感想 188

あなたにおすすめの小説

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

付与効果スキル職人の離島生活 ~超ブラックな職場環境から解放された俺は小さな島でドラゴン少女&もふもふ妖狐と一緒に工房を開く~

鈴木竜一
ファンタジー
傭兵を派遣する商会で十年以上武器づくりを担当するジャック。貴重な付与効果スキルを持つ彼は逃げ場のない環境で強制労働させられていたが、新しく商会の代表に就任した無能な二代目に難癖をつけられ、解雇を言い渡される。 だが、それは彼にとってまさに天使の囁きに等しかった。 実はジャックには前世の記憶がよみがえっており、自分の持つ付与効果スキルを存分に発揮してアイテムづくりに没頭しつつ、夢の異世界のんびり生活を叶えようとしていたからだ。 思わぬ形で念願叶い、自由の身となったジャックはひょんなことから小さな離島へと移住し、そこで工房を開くことに。ドラゴン少女やもふもふ妖狐や病弱令嬢やらと出会いつつ、夢だった平穏な物づくりライフを満喫していくのであった。 一方、ジャックの去った商会は経営が大きく傾き、その原因がジャックの持つ優秀な付与効果スキルにあると気づくのだった。 俺がいなくなったら商会の経営が傾いた? ……そう(無関心)

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...