工芸職人《クラフトマン》はセカンドライフを謳歌する

連載

第１７９話 忍び寄る影

　楽しい夕食の最中だが、何やら周りが慌ただしい。
　他のみんなにはこのまま食事を満喫してもらうとして、俺はザクセンさんと一緒に事情を聞くことにした。
　
　彼は「おまえも客人だろう？」と食事へ戻るよう言ってくれたが、「ここは俺にとってもう故郷のような場所ですから」と伝えたら「嬉しいことを言ってくれる！」と背中をバシッと叩いてから動向を許可してくれた。

　気を取り直して、島民のひとりから事情を聞く。

「実は、見知らぬ船が翡翠島に接近してきているんです」
「見知らぬ船だとぅ？」

　俺たちは数名の島民と一緒に見張り小屋の高台へと移動。
　そこから月明かりの照らす海を眺めていると、確かに一隻の船が浮かんでいた。

「動いているようだから、座礁したってわけでもないようだ」
「島の様子を探っているんでしょうか」
「こんな時間に漁へ出るわけもないからなぁ。その線が濃厚だろう」

　翡翠島と物資のやりとりをしたいってところは決して少なくはない。おまけに最近は以前と違って島外との交流にも積極的になりつつある。

　だが、ザクセンさんは慎重だ。

　商会から俺との接触をめぐってフリード様やガウリー大臣と接触し、そこで彼の人となりを把握したからこそ島外との交流に乗り出したという経緯がある。

　だから、彼らの関与していない案件についてはまだ手を出していないのだ。

　しかし、中にはそういった事情を考えず、自分たちの利益ばかりを追い求めるバーネット親子のような連中は存在する。

　中には武力による制圧を試みる者だって出てくるかもしれない。
　あの船はそういった連中が送り込んだ偵察船だろうか。

「どうします？」
「ここからは手が出せんな。不用意に仕掛けるのも望ましくない」

　さすがはザクセンさん。
　その辺は心得ているか。

「とりあえず、朝まで交代で見張りをつけさせる。それと、ここだけじゃなく海を四方から監視しておく必要がありそうだ。ヤツらがおとりという可能性もあるからな」
「賛成です」

　長として長らく島を守ってきただけあって、素早く的確な判断で仲間たちに指示を出していく。

　ザクセンさんならどんな状況でも最善の結果へ導いてくれそうだが……問題はあの船だな。

　一体何の目的があってこの島に近づくのだろう。
　前に来ていた、別大陸の獣人族が関係あるのかもしれないな。