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しおりを挟む第一章 はじまりの解雇通告
「……んあ?」
どれくらい寝ていただろう。
窓の外がうっすら明るくなっているってことは……朝かな。
体を起こすと、肩と腰に痛みが走る。
何時間も座って作業していたら、こうもなるか。
おまけに変な体勢で寝ていたのも悪かったみたいだ。
ほぐすように体を動かすと、バキボキと全身から音が鳴る。
日中は外で作業しているが、それでもここまで体が固くなるとは……おまけに頭痛までしてきた。
「そうだ……なんとか間に合ったんだった……」
ドノル王国南部、国内最大級の商業都市ネザルガにある商会事務所。
そこの一室――俺にとっての職場に置かれた俺の机。
得意先である貴族や著名な鍛冶職人と、今日一日どのような業務に携わったか、それを事細かに記録して上司へ提出しなければならない。俺はそれを徹夜して作成していたのだが、どうやら寝落ちしたらしい。
毎度、これから帰ろうって時に「明日の朝一番に出せよ」なんて無茶ぶりを言うんだからなぁ……まるでいつも納期がギリギリの発注しかしてこない課長みたいだな。
「……うん?」
課長?
課長って誰だ?
家長とは違うよな。
俺の頭の中に浮かぶその課長なる人物はスーツ姿で、頭頂部が寂しいことになっている中年男性だ。いつも悪趣味なネクタイを締めていて、怒るとよく声が裏返る。
……でも、妙だな。
頭の中のその課長という人物には会った記憶がない。それなのに、俺はこの人をよく知っているし、顔も浮かぶ。
知らない人を知っているという不気味さがどうにも気持ち悪くて、俺は頭をひねる。
そうしていると――だんだん思い出してきた。
「あれ……これって……」
ぼんやりしていた記憶が、やがてハッキリと脳裏に浮かんでくる。
日本という島国で生まれ育ち、地元中小企業に営業職として入社。そこは「労基上等」という方針を掲げるヤバめの会社だった。
朝の朝礼の声出しから始まり、誰もが上司にこびへつらっていた。
サビ残なんて当たり前。
何度辞めようと思ったか分からない……けど、俺みたいななんの強みもない、どこにでもいる普通の男が三十過ぎてから職探しを始めたところで、再就職できるかどうかという不安が常につきまとっていた。
そんな過酷な労働環境で暮らすこと約十五年。
俺は――死んだ。
過労死だ。
今みたいに、体調最悪の中で、無理やり押しつけられた仕事をひとり残ってこなしている時に、軽く目眩がしたと思ったら心臓が口から飛び出してきそうなほど体が跳ね上がって床に倒れてしまい、そのまま意識を失って――
「そうだ……俺は死んだんだ」
いろいろな感情が入り混じって体が震える。
四十を目前にして、俺は死んだ。
しかし、それはあくまでも前世の記憶である。
……まあ、職場で寝落ちしてそのまま朝を迎えるなんて、今やすっかり常態化しているから、生まれ変わったこっちの世界でも二十代半ばというこの若さで死ぬかもしれんが。
――と、その時、誰かがこの部屋へと入ってきた。
「む? 何をしている、ウィルム。書類はできたんだろうな」
小太りで禿げ上がった中年男は、俺を見るなりにそんなことを言う。
その横には薄ら笑いを浮かべている若い男。
中年男の名前はジェフ・バーネット。
俺が勤めるバーネット商会の代表を務める男だ。
若い男は代表のひとり息子で、名前はラストン。
顔はいいが仕事はしない。
というか、俺の成果を横取りして自分のものにしている。すべてはバーネット代表の意向であり、俺はそれに逆らえず、ずっと従ってきた。
……脳裏に浮かび上がる、これまで受けてきた仕打ちの数々。
どんな成果もすべてラストンのものとされ、俺は誰からも評価されずにきた。
抵抗すればいいものの、剣術や魔法に疎い俺では冒険者稼業もままならず、路頭に迷うことになるだろう。
俺のようなヤツはこの商会にたくさんいる。
みんな、辞めたくても踏んぎりがつかないって感じだ。
バーネット代表もそれを分かっていて、俺たちを安月給でこき使っている。
ちなみに、ここでの俺は主に工芸職人と呼ばれている。
武器や防具、イスに食器棚、さらには小さな小屋から水車まで――物づくりスキルを駆使してそれらを生み出したり、時には修理したりするのが俺の仕事である。
ようはなんでも屋ってわけだ。
こうした職業柄、顧客のジャンルは多岐にわたる。
スキルを使って物を作り出すとか、まさに異世界らしくてワクワクしてくるのだが……置かれている状況は前世の時とまったく変わりがない。
せっかく剣と魔法のある世界で暮らしているっていうのに、これでは過労死した前世と同じ末路をたどるだけじゃないか。
悔しさを押し殺していると、代表は俺の前に立ってひと言。
「書類を渡せ」
「あっ、は、はい」
俺は完成した書類を代表へ渡す。
受け取った代表は不備がないか確認し、それが終わると書類を息子のラストンへと手渡す。
それから、代表は俺に向かってこう告げた。
「ウィルム――おまえは今日限りでクビだ」
「……えっ?」
労いの言葉ひとつなく、それどころか何の脈絡もなくいきなり解雇を宣告された。
最初は何を言われているのか、すぐに理解できなかった。
茫然としていると、今度はラストンが口を開く。
「安心しろ。おまえの抱えている優良顧客はすべてこの俺が引き継ぐ」
「なっ!?」
簡単に言ってくれるが……俺が抱えている常連のお客さんは、ひと癖もふた癖もある曲者揃いで、彼らは俺のクラフトスキルが持つ付与効果を高く評価してくれている。
たとえば、なんの変哲もないただの剣も、必要な素材と俺のクラフトスキルがあればたちまち炎を自在に操れる【焔剣】へと生まれ変わる――こうした付与効果を得るためには、工芸職人として経験を積まなければならない。
そもそも、工芸職人になって日の浅いラストンにはとてもじゃないが無理な話だ。
あと、ラストンの人間性も信用ならない。
元々は「女にモテそう」という理由で騎士となり、不祥事を起こしまくって騎士団を強制退団させられたような男だ。父親のコネで工芸職人として商会に雇われているが、俺や他の職人、商人たちより仕事をしていないにもかかわらず、倍以上の給料が支払われていると聞いている。
「おまえのおかげで、この俺が工芸職人として大成する地盤が固まったってわけだ」
「そういうことだ。おまえが抱えていた優良顧客はすべてラストンが引き継ぐ。長きにわたり、この商会のために尽力してくれて感謝するよ」
「「はははははは!」」
笑い合うバーネット親子。
――嘘だな。
何もかも嘘だ。
ヤツらは微塵も感謝なんてしちゃいない。
役目を終えた俺を雇っていたところで、なんのメリットもないからな。
俺がこれまで築き上げてきたコネクションを横取りして、この商会をさらに大きくしようという腹づもりなのだろう。
これまで俺が担当してきた人たちには、適当な理由をでっち上げてラストンが後任となったって告げるに決まっている。
……前世で勤めていた会社が、まさにこの構図だった。
社長の息子がいきなり幹部待遇で入社して、ろくに働かず、社内でずっとスマホをいじくり回していた。ひとり息子で甘やかされているから、注意すると何をされるか分からないという恐怖で野放し状態――世界が変わっても、この手の輩はいるのか。
まあ、それはさておき、バーネット商会は大陸で最大手だ。
その商会の代表子息が後任と聞いたら、嫌に思う者などいないだろう。ろくでもないって噂が流れていそうなものだが、話によると、バーネット代表が騎士団幹部に金を握らせ、退団する代わりに厄介な評判をもみ消したらしい。
それに……俺がこれまで担当してきた人たちは、みんな各分野の超一流だ。ただの工芸職人である俺より、立場的にも優れているラストンの方がかえって喜ぶかもしれない。
というわけで、どう足掻いても俺がこの商会に残れる可能性はないし、残ったところで、待っているのはこれまでよりも悲惨な待遇だろう。
だったら、せめて……アレだけはもらっていくか。
「あの、代表」
「何だ? 目障りだからとっとと失せろ」
「すぐに出ていきます。――ですが、ひとつお願いがあります」
「退職金ならやらんぞ?」
「いえ、金ではなく……倉庫にあるアイテムをひとついただきたいのですが」
「倉庫のアイテムだと?」
この商会のすぐ隣に作られた倉庫。
あそこには商品であるアイテムが眠っているが……正直、ガラクタばかりであった。
祈るような気持ちで返事を待っていると、代表はニッと口角を上げる。
「いいだろう。あんなガラクタでよければ持っていけ」
「っ! ありがとうございます」
「分かったのなら消えろ。能無しの顔を見ているとイライラしてくるぜ」
嫌悪感をあらわにしながら、そう吐き捨てるラストン。
代表の息子とはいえ、他人の手柄であそこまでのし上がっておいて、よくもまぁそんな態度が取れるものだ。
――だが、それも今日まで。
倉庫のアイテムは持っていって構わないという言質は取ったのだ。
それに従って、俺は退職金代わりにアレをいただくとしよう。
心の中でガッツポーズをしながら倉庫へやってきた俺は、狙っていたあるアイテムを探し始める。
「確か、この辺に隠しておいたんだよな……」
何かが起きた時のために隠し持っていたあるお宝アイテム。
それは、俺のお得意様であるSランク冒険者パーティーのリーダーがプレゼントしてくれたアイテムだった。そんな大切な物をこんなところに置いておくのは申し訳ないと思ったが、ここ以外に安心して隠しておける場所がなかったのも事実だ。
まあ、この判断は正解だったな。
「えぇっと……あった!」
俺が手にしたのは――杖だった。
その名も神杖リスティック。
あらゆる属性魔法を自在に操れるようになるという、まさに夢のアイテム。
魔力のコントロールはこれから学ばなければならないが、今の状態でも初級魔法くらいは使えるだろうから、これからの生活を大いに助けてくれるはず。やっぱり異世界へ来たのなら、たとえ初級であっても魔法くらいは使えないとな。
俺は神杖リスティックに自分の魔力を注ぎ込む。すると、杖全体がほんのり赤みがかってきた。
これにて契約は完了。
もう、神杖は俺以外の魔力を受け付けない。
他の者がどんなに魔力を注ごうが、この杖を使いこなすことはできない。
俺の持つクラフトスキルとこの杖があれば、この世界を十分楽しめる。
神杖を手に商会を出ると、俺を心配してずっと待っていてくれた相棒が肩にとまった。
「待たせて悪かったな、ルディ」
「キーッ!」
商会に入る前から付き合いのある魔鳥族のルディ。
見た目はもっふもふの毛に覆われたフクロウだが、これがなかなか凄いヤツで、今は俺の肩にとまれるくらいのサイズだが、その気になったら俺を背中に乗せて大空を飛び回れるくらいにまで巨大化する。
重い荷物も空輸可能となるし、非常に頼もしい俺の相棒――そんな相棒に、俺はこれまでの経緯を簡単に説明する。
「商会をクビになっちゃったみたいだ」
「キーッ!?」
ルディの言葉は理解できないけど、驚いているのは間違いないな。
「でもまあ、おかげで自由になったよ。これからは自分の好きなように生きようと思うんだ」
俺がそう語ると、ルディの表情がパッと明るくなる。
クビになったことを気にしていないのが伝わったのか、安心したみたいだ。
「さて……まずはお世話になった人たちへ引き継ぎの挨拶に行くとするか」
ラストンがどこまでやるのか分からないが、ともかく俺は俺で常連客の人たちに商会から離れることを説明に行かなくちゃ。
それがすべて終わったら――本格的に異世界生活を満喫するとしようか。
◇ ◇ ◇
商会をクビになった俺は、これまでいろいろとお世話になった人たちに退職の挨拶や引き継ぎをするために、およそ一ヶ月をかけて挨拶回りをすることにした。
これは、あのバカ息子――もとい、ラストンのためにやるんじゃない。
あの商会で働きだしてから贔屓にしてくれた人たちは、本当にいい人たちばかりだった。俺が仕事を続けられたのは、その人たちのおかげと断言できる。
恩人たちに何も言わず去るのは礼儀に反するし、引き継ぎをきちんとしなかったことで大変な事態になったのは前世でも経験済み。
バーネット商会のためではなく、そうしたお世話になった人たちが困らないよう、丁寧な対応をしておくべきだろう。
――というわけで、クビになった日の夜に宿屋で作ったリストに従って、俺はひとりひとりお世話になった人たちの元を訪ねていった。
国内でも三指に入る大貴族の豪邸。
秘境にある希少獣人族の集落。
Sランク冒険者パーティーが攻略中の「迷宮」と呼ばれるダンジョン。
頑固で有名だが、絶大な支持を得ているベテラン鍛冶職人が住む山岳地帯。
たどり着くのも困難なそれら場所へ足を運び、直接退職すると伝える。
この対応が功を奏し、皆一様に俺が商会を辞めたことに驚きつつも、何か困ったことがあれば力を貸すと言ってくれた。
たとえ社交辞令であっても、今はその言葉が心に染みてくるよ。
それに、この一ヶ月は俺にこれからのことを考えさせてくれるいい時間にもなった。
同時に、実は今までいろんなところへ足を運んでいたのだと実感する……ただ、仕事優先でろくに観光もできなかったが。その点については、これからゆっくりやっていこう。
「さて、アヴェルガ家に行ってみるか」
気持ちも新たに、俺は一歩を踏みだす。
商会を辞めて、時間は腐るほどある。
楽しませてもらうとするか。
◇ ◇ ◇
――一ヶ月後。
長い時間をかけて挨拶回りを終えた俺は、その過程でひとつの目的を導き出し、それを叶える地へ向けて進み始める。
まさに第二の人生のスタートってヤツだ。
その拠点に選んだのは、俺が以前暮らしていたドノル王国の次に大きな国であるメルキス王国であった。
ここのガウリー外交大臣とは、仕事で一緒になったのとチェスという共通の趣味があったことがきっかけとなり、ずっと懇意にさせてもらっている。
その大臣がつい二週間ほど前、まるでこうなる未来が予想できていたかのように「もし独立する気があるならうちの国で働かないか?」と声をかけてくれたのだ。
まあ、独立ではなくクビになって無職になったからというなんとも情けない理由なので、断られる可能性も十分にあった……そしたら、また計画は一から練り直しだな。
「これから王都に入るけど、おとなしくしているんだぞ」
「キーッ!」
相棒のルディにそう言い聞かせてからメルキス王国の王都に入り、城の前まで来ると、見知った顔が声をかけてきた。
「あれ? もしかして……ウィルムか!?」
「おぉ! ウィルムじゃないか!」
「お久しぶりです」
「どうしたんだよ、その杖は! 魔法使いにでも転職したか?」
「ははは、まあ、そんなところです」
「マジかよ!」
門番を務めるふたりの兵士が、フレンドリーに話しかけてきた。彼らとも以前に顔を合わせており、一緒に王都の酒場で飲み交わしたことがある。
「今日は仕事か?」
「いや待て。そのような来訪予定は聞いていないが……」
「仕事じゃないんです。……ガウリー大臣はいらっしゃいますか?」
「大臣ならいるはずだぞ。ちょっと待っていてくれ。面会できるかどうか聞いてくる」
門番のひとりが気を利かせて大臣の予定を聞いてきてくれるという。
待つこと約十分。
「すぐに会ってくれるそうだぞ」
「ありがとうございます」
よかったとホッと胸を撫で下ろしつつ、深呼吸をしてから、案内役として呼ばれたこちらも顔馴染みである兵士の後ろからついていき、城内へと足を運ぶ。
「変わりないようですね」
「ははは、前に君が来てから、まだ一年も経っていないじゃないか。そうそう変わりはしないよ」
兵士と談笑しながら歩いていると、あっという間に目的地である大臣の執務室へとたどり着いた。
「ウィルム殿をお連れしました」
ノックをしてそう告げると、室内から「入ってくれ」と返ってくる。それを聞いた案内役の兵士はドアを開け、俺を中へと通した。
「久しぶりだね、ウィルム」
「ご無沙汰しております」
黒檀の執務机の前に立つ、片眼鏡を装着した白髪オールバックの男性。
この人物こそ、メルキス王国の頭脳と称されるガウリー外交大臣だ。
神杖を見て「魔法使いに転職したのか?」という門番とやったくだりをもう一度こなしてから、ガウリー大臣は俺をソファへ座るように促す。
それに従うと、大臣は反対側へと腰を下ろして話し始めた。
「さて、それでは早速本題に移ろうか。君が事前のアポもなしに会いたいとは……よほど急な用件なのだろう? ……職場で何かあったか?」
さすがは大臣。
すでに勘づいていたか。
「実は……前の職場を解雇されまして」
本題へということなので、いきなり事実を告げたのだが、
「そうか。解雇されたのか――か、解雇だとぉ!?」
いつも冷静で落ち着いているガウリー大臣が、別人のように驚いた。普段とギャップがありすぎて、こっちの方がビックリするよ。
「な、何かやらかしたのか? ――い、いや、君がそのようなマネをするとは到底思えないのだが……」
大臣は困惑していた。
だが、ここまでは、概ね挨拶回りをしてきた常連の顧客さんと似たリアクションだ。
「まあ、いろいろありまして……今回はちょっとお願いに来ました」
「お願い?」
俺は事前に用意していた地図を目の前のテーブルの上に広げる。その地図には、一部分が赤い丸で囲われていた。
「このベルガン村に工房を開きたいと思っていまして。その許可をいただきたいと」
「工房? では、独立するのか?」
「はい。幸い、私にはクラフトスキルがあるので、素材を集めつつ物づくりに励み、その収入でひっそり暮らそうと考えています」
「ふむ……」
ガウリー大臣は顎に手を添えて何やら思案中――それから数秒後、
「工房の件だが……自由にやってくれて構わない」
「えっ?」
意外にもあっさりと許可が下りた。
親しくしているとはいえ、他国の人間だから、もっといろいろと警戒されると思っていたが。
「君はあそこの村長であるアトキンスと親交があるから不要とは思うが、念のため、私の名前で紹介状を書いておこう」
「い、いいんですか?」
「君を信頼しているからな」
そのひと言が、胸に突き刺さる。
信頼している、か……こんな言葉をかけてくれる人は、少なくともあの商会にはいなかったからなぁ。
「むしろ、我々としてもありがたい提案だよ。君ほどの腕を持つ工芸職人はそうそういるものじゃないからね。私個人が依頼したいくらいだ」
「ぜひいらしてください。ロハでやらせてもらいますよ」
「ははは、そういうわけにもいかんだろ。――ほら、こいつが紹介状だ。持っていけ」
上機嫌に笑いながら、手書きの紹介状を渡してくれたガウリー大臣。
好意的に受け入れてもらえてよかったよ。
「では、俺はそろそろ」
「うむ。また落ち着いた頃に使者を送ろう」
「分かりました」
「あと、そこまで行くには距離がある。道中でモンスターに襲われるかもしれないから、馬車を用意しよう」
「し、しかし、そこまでしていただくのは……」
「気にする必要はない」
ガウリー大臣はそう言って部屋の外に出ると、近くにいた兵士に馬車の手配を命じた。
ただ、その日はもう遅い時間だったため、出発は次の日へと持ち越しになった。
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