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第86話 底知れぬ実力

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 外見はどこにでもいそうな十歳の品の良いお嬢さんという印象のアミーラ――だが、やはり彼女は大陸でも屈指の魔法使い一族であるグラバーソン家の出身だけあってその実力は幼い容姿と裏腹にとんでもないものであった。

 百戦錬磨の騎士たちでさえ手を焼くジュエル・リザードを相手に、坑道全体を凍らせるというスケールのデカい攻撃方法をもって倒してみせた。

「あっ! すいません! ここから先はちょっと肌寒くなります!」

 申し訳なさそうに謝罪するアミーラだが、俺たちが茫然としている部分はそこじゃない。騎士という役職上、魔法兵団に所属する魔法使いとはよく一緒に仕事をする。彼らも俺たちと同じように厳しい鍛錬と試験を突破してきた猛者ということもあってかなりの実力者揃いであった。

 ――が、そんな彼らが霞んで見えてしまうくらい、アミーラの実力は凄まじい。
 これ以上の魔法使いを俺は他に知らなかった。
 下手をしたら、魔法兵団のトップともいい勝負ができるんじゃないか?

 何より驚かされたのが魔法発動までの時間だ。
 狭いとはいえ、ジュエル・リザードまでの距離はかなりあり、そこに至るまでの道すべてを瞬時に凍らせてしまうなど並大抵の魔法使いにはできない芸当――おまけに、アミーラはそれをいとも簡単にやってしまっていた。

「あ、あの、どうかされました?」
「……なんでもないよ。それより、凄い魔法だったな」
「そ、そうですか? 動きを止めるためには氷魔法がいいかなと思って……ただ、魔力の制御が難しくて、どうしても抑え気味になってしまうんです」
「へぇ、なるほどね――って、うん?」

 抑え気味になってしまうって……あれでか!?
 アミーラの発言にざわつき始める騎士団の面々。
 そんな彼らを尻目に、俺は興味本位でもう少し突っ込んだ話題を振ってみる。

「な、なあ……もし、本気で氷魔法を使ったらどうなるんだ?」
「えっ? ――たぶん、ここは雪山になっちゃいますね」

 笑顔で答えるアミーラだが、騎士団はドン引きだった。さすがにあのグラバーソン家出身だからといえど、これはもう天才とかそういう言葉では表現しきれない才能の持ち主だ。さすがはマクリード家が目をつけるだけのことはある。

「さあ、先に進みましょう。ジュエル・リザードがいたということは、この近くに魔鉱石があるはずですから」
「そ、そうだな」

 規格外な魔法を見せつけられて忘れていたが、魔鉱石を探さなくちゃいけないんだった。
 凍ってしまった坑道をさらに奥へと進み、たどり着いたその先で――

「どうやら、この奥に魔鉱石があるようですね」

 そう語るアミーラだが、

「この先って……壁しかないじゃないか」

 どう見ても行き止まりに見えるのだが、アミーラはこの奥に魔鉱石が存在すると断言したのだ。


※明日から不定期投稿になります。
 更新時間は18時を予定しています。
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